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十五話 力を示せ!


 ボクたちは、さっきまでいた地下室から出るべく階段に足を向けていた。

 

「おい、どこ行く気だ?」

「え?外でやるんじゃ?」


 一人の男に呼び止められて、ボクはそう言って聞き返す。

 先ほどの話では、ボクたちの実力を測るために、模擬戦でもするような話だったと思ったが、違っただろうか?


「外でやるには外でやるが、そっちじゃねぇ。もっと御誂え向きな場所があんだよ」


 男のその言葉にボクは首を傾げた。

 とは言え、説明するより見た方が早いと男は思ったのか、反応することなく地下室に入って来た場所はと別のドアを開けて進んでいく。

 ボクたちも進むと、そこには一本道があった。

 見た目は、入って来た通路と大きくは変わらないが、距離は比にならないと一目でわかるほどだ。

 そして、奥に進んでいくと、ボクたちを見張るためか、前後で挟むようにして男たちは歩き出す。


 暫く歩いて階段を上ると、出口が見える。

 ボクたちは、光で白く潰れた視界を細めながらくぐるようにして、日差しのもとへ出る。


「ここは……?」

「ここは、昔使われていた小さな闘技場だ。今じゃ文化財くらいの価値しかないが、戦闘にはうってつけだろう」


 ボクの口から洩れた疑問に男は答えた。

 確かに、遺跡のようにも見える古い闘技場だ。

 観客が入るような代物ではないだろうが、大昔の模擬戦などでは使われていたかもしれない。


「さあ、さっさとやろーぜ。俺らは八人だが構わねーか?」

「ええ。大丈夫ですよ」


 男はそう言うと、下に降りていく。

 八人全員がぞろぞろと降りていくのを見ると、委縮してしまいそうになる。

 でも、ボクだって、魔物を倒して少しは戦いに慣れて来たのだ。

 やってやるとボクは武器を確認する。


「何してる、坊主?」


 と、ボクが準備を始めようとしたのを見てか、男は問いかけて来る。


「俺たちとやるのは、そこのさっき魔法を使った女だけだ」

「え?」


 つまり、男が言っているのは、エインセル一人対八人と言う事に他ならないだろう。

 いくら、エインセルが強いと言っても、それはないだろう。

 そう思ってエインセルの方を見る。


 エインセルは、いつものようにきれいな顔でほほ笑んで来る。


「大丈夫ですよ、セオ。」


 そして、何でもないようにそう言った。







 戦いに参加できないとなってはどうしようもないので、ボクたちは観客席らしき場所に移動した。

 ボクたちの視線の先には、エインセルと、それに向き合う八人の男がいた。


「大丈夫かな?」

「心配ですか?」

「うん。強いのは分かってるんだけど、心配になっちゃって」


 フェイスに聞かれてそう答える。

 我ながら恥ずかしい話ではあるけど、心配なものは心配なのだ。

 彼女は大精霊ではあるけど、それでも一人の女の子だから、あまり無理をするのは見たくない。

 ボクは、力不足かもしれないけど、力不足なりにそばにいてあげられるのならそうしたい。


「でも、今回はエイン様がお決めになったことです。信じてあげるのも、セオドル様の務めでしょう」


 その言葉にハッとする。

 自分でもわかってるつもりだったし、してるつもりだったけど、まだまだボクは出来ていなかったらしい。

 

「確かにそうかもね」


 きっとそうなのだろうと頷いた。


「そう言えば、気になっていたんだけど」

「どうかなさいましたか?」

「うん。エインがいろいろ言ってたけど、あの人たちってどういう人なのかなって」


 ボクは疑問を口にする。

 話の邪魔をしないように黙っていたけれど、あの人たちが実際に何故精霊を倒そうとしているのかよく分からない。


「それでしたら、セオドル様も学園で少しは学んでいるかと思いますよ」

「ボクも知ってること?」

「ええ。実際にその範囲を授業でやっているかは分かりませんが、学園でなら習うはずです」


 フェイスの言葉にボクは考える。

 難しいな。

 恥ずかしながら、学期末はあまり集中して授業を受けてなかったし、聞き逃してしまっている可能性もあるから、知らないと断言もできないし。


「そうですね。この組織の成り立ちを話すなら……そうですね、三十二年前の精霊教軍遠征の話から話しましょうか」


 フェイスはボクが全くピンと来ていないことを見抜いたのか、ことの発端について話始めた。


「精霊教軍が昔、遠征をしたことについては知っておられますか?」

「う、うん。まあ、そういう出来事があったくらいなら」


 流石になんとなくなら知っている。

 この国の多くの人が入信する精霊教。

 精霊を祀る宗教、そして、その軍の話だ。


「詳細は省きますが、軍が進行する中で多くの犠牲が出ました」

「確か、辺境の村々でも、被害が出たって。食料や貴重品が盗まれたって」

「そうです。ですが、それだけではなく。人が大量に死にました」


 つまり、その軍に殺されたと言うことだろうか。


「そして、そこで被害にあった人やその家族の方には精霊教軍を恨む人が多く生まれました」

「じゃあ、あの人たちは」

「反精霊教組織「断罪の光」。当時被害を受けた方々でしょう」


 ボクはエインセルと対峙する男たちを見るが、きっとあの人たちの他にも大勢いるのだろう。

 正直、ボクの生まれる前の話で、ボクには同情する義理も資格もないので可哀そうだなんて言わないが、少し納得することもある。

 でも、一つ気になることがある。


「でも、それなら、大精霊を倒すんじゃなくて、その精霊教軍に復讐するのが道理だと思うけど」

「そうですね。ですが、残念なことにと言えばいいでしょうか。精霊教軍は一時的に編成された軍です。遠征が終了してすぐに解散しました」

「復讐する相手が居なくなってしまった。だから、その軍、精霊教軍の象徴でもあった大精霊を倒そうと……」

「そう言うことになります。それに、実際、念願かなって大精霊を抹殺するなんてことが成功してしまえば、精霊教には大打撃を与えることになりますしね」


 怒りを向ける相手がいないことは、大変なのだろうか。

 大変なのだろうけど、その中で、無茶で無謀な大精霊の抹殺を思いついたわけか。


「とは言え、現在その組織の活動は大精霊の抹殺というものではなく、当時精霊教軍に所属していた者たちを見つけ出して殺すことにあるそうですが」

 

 三十二年前の遠征。

 その時に軍に所属していたなら、もう結構な歳だろうに。

 組織が歳老いて、力をそがれた瞬間を狙って今動いているのか、調査に時間がかかってやっと動き出したのか分からないが、襲撃を受ける側は大変だろうな。


「本当にバカげている」


 ふと、黙っていたデリックが呟く。

 

「デリック?」

「ん、ああ、すまん」


 それだけ言うと彼は黙ってしまった。


「では、合図は……そうだな、コインでも投げるか?」

「いえ、それには及びません。開始はそちらに任せます。最初の攻撃をもって試合開始と行きましょう」

「随分余裕そうだが……じゃあ、お言葉に甘えさせてッ!」


 男は、言葉を言い切る前に地面を蹴り、エインセルに接近する。

 すでに抜かれた剣はエインセルへと叩き込まれる。


「──ヤレ・ガ・ゲルン」


 ただ、一言だけそう呟く。

 動こうとしないエインセルにボクはヒヤヒヤしたが、男に剣は狙いを外れて背後の地面に掠る。

 簡単な話だ。

 エインセルが地面を少しだけ隆起させて、男がそれにつまずいた。

 剣はあらぬ方向へ行き、男は体制を崩した。


 しかし、安心するのにはまだ早い。

 男たちは全部で八人、囲い込むようにして襲い掛かる。

 剣、槍、槌と武器は様々だが、それらはもれなくエインセルへと刃を向ける。

 男たちも弱いはずもなく、彼らの武器はゴウと音を立てながら空を切る。

 当然当たればただでは済まない。


「──スツ・キボ・ガ・グリュプ」


 エインセルが瞬く間に詠唱する。

 そして、エインセルを囲い込んだ男たちの表情が驚愕に変わる。

 それも仕方のない事なのだろう、なぜならば、男たちが振り下ろさんとした数々の武器はエインセルに到達する前に止まってしまったのだから。


「あれは…………?」

「緑魔法での壁ですね。小さい盾のようなものを作って、それを七つ、更にピンポイントで武器に当たるように展開しています」

「数も凄いけど、武器に当てるようにって凄いな」

「そうですね。あれは人間には難しい。いえ、できない芸当です。通常、杖で初級魔法ですら指向性を持たせているのに対し、エイン様はそれさえなしに背後の攻撃にまで対応している。素晴らしいです」


 学園で天才と呼ばれるほどに凄かったサイラスでも杖を使っていたくらいだし、相当凄いんだろう。

 ボクも一応エインセルと契約したおかげか杖なしでも安定した魔法が使えるけど、それでもあれを真似出来るかと言われれば絶対に出来ないと言い切れる。


「でも、出来るできないはともかく、ああいう防御魔法って白魔法を使うんじゃないの?」

「普通ならそうでしょうが、エイン様は緑魔法の方が得意ですので代用しているのでしょう」


 そう言うものかと納得する。

 そもそも、緑魔法が得意でも風を操って盾を作るなんて再現性がなくて人間には不可能だろう。


 そうこうしているうちに、戦況は動いている。


「クッソ。魔法さえなきゃ」


 一人の男が呟く。

 当たり前のことだが元も子もない。

 だが、先ほどと同じように男たちは襲い掛かる。

 復帰した八人目も含めて武器を振り下ろすが、先ほどと同じ要領で防がれる。

 数だけじゃない。

 武器の入れかた、狙う位置も変え、フェイントも入れるが反応される。

 ただ、そこで止まるようなことはしない。

 もとより、狙っていたのだろう。

 男は、瞬時に吹き飛ばされる武器から手を放し、拳を握りしめる。

 

「詠唱させる前に殴っちまえば関係ねーだろ!」


 エインセルは魔法師、魔法を使うには詠唱が必要だ。

 更に、先の魔法は武器を防ぐと言う役割を終えて消えている。

 いくら、エインセルが流れるように詠唱を開始しても発動するまでには間に合わない。

 そう思ったのだろう。

 いや、それであっている。

 でも、一つ誤算があるとすれば──


「ッ!ぐあぁ!」


 魔法師は大抵接近された場合に一度くらい対処できるような何かしらを持っている。

 そして、エインセルもそれは同じ。

 男も、エインセルの外見を見て子供だと判断したのだろう。

 しかし、それは間違い。

 殴り掛かった男は、その力を利用されて吹き飛ばされる。

 そもそも、エインセルは、接近戦も強い。

 流石に正面切っての戦いはあまり得意ではないが、特別な訓練もしていない相手に無手でも負けることはない。


「──サカル・ナゴ・ザ・ブラト」


 詠唱するには十分すぎる時間をもってエインセルは詠唱を完了する。

 詠唱するのは青魔法、エインセルを囲むようにして地面から氷が針のようにして飛び出る。

 それだけで、男たちは負傷を負い、動けなくなったようだった。


「はあ、負けだ。降参だ」

「もういいんですか?」

「ああ、これ以上は無駄だ」


 男は手を上げるようなポーズをとって降参宣言をする。


「わかりました。では、実力は十分と言う事で良いですか?」

「ああ。準備に時間がかかるから、落ち合う場所を決めてくれ」


 どうやら上手く行ったようだ。

 ボクは良かったと胸を降ろした。 

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