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十四話 道案内


「男子禁制って、そいつは男だろ?」


 目の前の青年はそう言った。

 確かにそうだ。


「とにかくダメです。凄く怪しいです」

「先ほどからいやらしい目をこちらに向けて……」


 エインセルとフェイスが立て続けにそう言う。


「いや、怪しくは……まあ、それは認める。そう言えば名前も名乗ってねぇしな。俺はデリック・フラン。いや、名前だけじゃ分からないか。そうだな、ディランさんに言われてきたと言えばいいか」


 ディランと言う名前に心当たりがなく、ボクは首を傾げる。

 しかしその横で、エインセルは得心が言ったかのように表情を変えた。


「貴方が、渡りをつけてくれると言う事でいいんですね」

「そうだ」


 二人の間で話が成立しているが、ボクには分からないことだらけだ。


「ねえ、エイン。つまりこの人とは知り合いってことで良いの?」

「初対面ではありますが、まあ、それでいいです。この人は私たちの目的に必要な人と考えてくれれば構いません」

「まあ、詳しい話は歩きながら出良いか?どうせ移動しなきゃなんないからな」

「どこに行くの?」

「道具屋だ」


 そんな彼の言葉に従ってボクたちは移動を開始した。







「つまり、大精霊を倒すために必要な仲間をデリックさんが紹介してくれるってことで良いの?」


 家々の間、つまり路地裏と言われるような場所に入った所でボクはそう言った。

 道中話したことを踏まえればそう言うことになるのだろう。

 

「ああ、それでいい。それと呼び捨てで構わない。これから長い付き合いになるからな」

「それって」

「俺も大精霊の討伐に参加すんだよ」


 意外な言葉にボクは驚く。

 てっきり案内だけの仲介人のような立場だと思っていたから。


「それは構いませんが、もしかして、これからしばらくの間の旅にもついてくる気ですか?」

「ああ、そうだが。悪いか?……いや、悪いんだな。そんな露骨に嫌そうな顔をするな」


 エインセルが顔を出してデリックに話しかけると、彼からの返答に顔をしかめる。


「……それより、着いたぞ」


 デリックも微妙な顔をしていたが、目的地に着いたようで足を止めた。

 彼の視線の先には扉があった。

 少々古いが、一般家屋のものよりしっかりしているように思う。


 そんなことを思っていると、躊躇なくデリックはドアに手をかけた。

 そうして、ドアを開けたデリックだが、その先にいたのは老人であった。

 老人はこちらに気づいたのか口を開けた。

 

「金はあんのか?冷やかしなら……坊ちゃんか?」

「坊ちゃん?」


 その言葉にボクは首を傾げる。

 デリックのことを指しているだろうことはわかるけど。

 そうしていると、デリックは少しこちらに顔を向けて口を開けた。


「セオドルでよかったか?こいつの言う事は気にするな」

「え、うん」


 恐らく道具屋だろう内装に身をひそめるようにしてカウンターの向こうにいた店主であろう老人の言葉にボクが疑問を抱くとデリックは軽く振り向いてそう言った。

 一瞬纏った気迫のようなものに気圧されそうになる。

 ただ、それも一瞬のことで、デリックは直ぐに老人を見て話し出した。

 

「それよりだ。アジトの場所だ」

「良いんですかい?」


 デリックの言葉を聞くと、ボクたちの方を横目で見て老人はそう訊いた。


「ああ、問題ない。と言うか、むしろそれを知りたいのはこいつらだ」

「そこの嬢ちゃんたちが?」


 一瞬訝しむ様子を見せるが、デリックが急かすと、老人は重い腰を上げるようにして棚をあさり始めた。

 まるで客を招き入れる気配のないほど立地の悪い店だが、壁一面に積まれた棚や商品らしきものを見ればなるほど他の道具屋と変わらない。

 手の届く範囲だけを掃除しているのか棚の上の方は埃が積もっているがそれでも品ぞろえとしてみた時には不満がでそうもない。

 ここまで、商品を揃えて表の看板がほぼかすれて読めないのはもったいなく思える。


「確かここに……あったあった」


 老人はゆっくりとそれを取り出すとカウンターに広げた。

 丸まっていたせいか癖がついているが慣れた手つきで重しが置かれる。

 

「嬢ちゃんたち、こいつを見な」

「これは……ラート周辺の地図ですか」

「ああ、それでここがラートの街だ」


 老人は皺の刻まれた枝のように指で地図の一角を指した。

 そして、ボクたちがそれを捉えたのを確認して再度指をスライドするようにして動かす。


「ここが商業都市ロプト。んで、その二つの街の中間あたり、ここにお探しのものがある」


 そんな老人の言葉を聞いて、ボクたちは店から出た。

 そして、お探しのものとやらの場所に行くにしても準備が必要だと言う話になったことと、もうすぐ夕暮れということもあって一度夕食を取ろうということになった。

 そこでふとデリックが口を開いた。


「じゃあ出発は明日で良いか?もう、日も暮れるし」

「それに関しては特に文句はありませんが、アジトの情報については大丈夫何でしょうね?まさか私たちを嵌めようとは……」

「ねぇよ。情報だけ伝えずに、情報につながる道具屋まで連れてったことが気になったのかもしれないが、場所を知ってただけじゃ意味はないからな。それに、あんたも俺をディランさんがよこしたって知ってるだろ」

「はあ、まあいいです。セオ、明日になったら、すぐ出発しますよ。フェイスも」

「うん。分かったよ」

「わかりました」


 ボクたちはエインセルの声に頷く。






 

 ボクたちは翌日、朝早くに街を出発していた。


「そう言えば気になっていたんだけど、本当に一緒に大精霊と戦ってくれるような人がいるの?」


 それは、デリックの話を聞いてからずっと疑問に思っていたことだった。

 元々ボクたちだけで、大精霊を倒せるとは考えてないけど、それでも一緒に戦ってくれる仲間を探すのはとても難しいことだと考えていた。

 精霊信仰が広まっているこの国で、大精霊を倒すから手を貸してくれなんて言った日には、どう考えても、その人たちから命を狙われるくらいのことはされかねない。

 それに仮に、他国で、それも宗教的思想がゼロの状況にあったとして、それでも大精霊という巨大な存在を前に立ち向かうことが出来るのはわずかだろう。

 大精霊は恐ろしく強いなんてのは世界の常識だ。

 そんなある種の自殺行為みたいなことを一緒にしてくれる人なんてそうはいないだろう。


 でも、エインセルは自身があるようで、薄い笑みを浮かべて肯定した。


「いますよ。それこそ大精霊を倒すために食事や睡眠をとるようなものが」

「そんな人が……」


 大精霊を倒すためにと言う事は、きっと、人生をそれに捧げているのだろうか?

 でも、ボクはエインセルがいるから現実味のある話だけど、普通に生きていて、そんな話は与太話にすらならないほどのものだ。


「ホント、バカだよな」

「それを言ったらボクたちも同じになってしまう気がするけど」


 呟いたデリックの言葉にボクが返答すると、エインセルが口を開いた。


「昔と比べて減りつつはありますが、確かにいます」

「あったことあるの?」

「いいえ。ですが、彼らは絶対にこの世からいなくなることはないでしょう。大精霊である私たちが、実態をもって息をしている限りは」


 それを口に出した時の彼女の表情の意味がボクには分からなかった。

 だから、ボクはそっとエインセルの手を握った。


 




「これは先に行っておかせてもらうが、恐らくアジトに入った瞬間攻撃されると思う」


 デリックは目的地に近づいてきたところでそう言った。


「どういうことですか?」

「そのままだ。情報はいってるはずだが、いや、だからこそ嫌がらせくらいはしてくるだろう」

「なんですか、それ。まあ、了解しました。では、それは私が対処します。手は出さないでください。その方が実力も見せつけるのにはちょうどいいでしょう」


 暫く歩いて、もうそろそろ森に入ってしまうと言うところで、エインセルは何かを見つけて近寄っていく。

 何かの残骸。瓦礫だろうと近づいて分かる。

 長方形の石の詰まれた壁であったであろうものは、その半ばで積み木を蹴飛ばしたみたいに崩れていた。


「これは、教会……」

「そうです。使われなくなってから随分経ってるようですが、恐らく昔は村か何かがここにもあったのでしょう」


 教会、その残骸であろう屋根のない建物にボクたちは近づく。


「聞いた話では、この辺りだと思うのですが……ありました」


 エインセルは恐らく建物の中であった場所に入って床を見渡し何かを見つけた。

 エインセルが見つめる先には蓋をするように置かれた板があった。


「エイン様、私が外します」


 エインセルのしようとしたことを汲み取って、フェイスは先んじて動く。


「おい、流石に俺がやるよ」

 

 フェイスが板を外そうとするとデリックが変わろうとする。

 フェイスはデリックに任せて身を引いた。

 そして、板の端に指をかけてデリックが板をどかした。

 板がどけると、蓋の向こうが見えて来た。


「これがデリックが説明してくれた」

「ああ、この先だ」

「では、行きましょう。それと先ほども言いましたが、ここから先で私に何があろうとも、動かないでください」


 彼女は確認するようにそう言うと、先頭に立って階段を下りて行った。


 壁や床、すべてが石で出来ているのか、外で見た瓦礫の石によく似ている。

 階段まで石で出来ているようだ。

 階段を下ると、エインセルが正面にあるドアノブに手をかけていた。

 ここまで一方通行で、それ以外の道がないからきっとこの先に協力してくれると言う人があるのだろう。


 エインセルは溜めなうことなくドアを開けた。

 そして、彼女がドアをくぐり、ボクがドアの向こうに目を向けると、そこはちょっとした大きな部屋になっていた。


 長いテーブルに椅子が置いてあり、少しボロいが、未だ現役なのか埃が積もる様子はない。

 そして、それに座る数人の男たちはこちらに注目を集めている。

 そうハッキリと確認する前に異変が起こる。


「──サカル・キボ・ザ・ブラト」


 次の瞬間、エインセルが何か呟いたと思えば、眼前には氷の壁。

 そして、そこに突きつけられたいくつかの武器。

 それは、男たちに襲撃され、それをエインセルが防いだことをわかりやすく表していた。


 ボクは、ついナイフに伸ばしそうになった手を踏みとどまらせる。

 先ほど彼女に言われた通り、手を出すことがないようにと考えてからだ。

 ボクと契約したと言っても、彼女は大精霊、そこらの男たちに負けるはずもない。


「チッ。ただのガキじゃねーようだが。ああ、そう言えば誰か来ると言ってたなぁ?お、坊ちゃんじゃないですか。女の後ろに隠れてないで出てきてくださいよ」

「隠れてねーよ」


 男は嘲笑するように言うとデリックはぶっきらぼうに返す。

 

「仲良くお話も良いですが、私の話をしてもいいですか?」


 デリックを横目で見てからエインセルは目をそらす。


「協力の打診に来ました。貴方たちが殺したくて已まない大精霊の討伐についての」


 エインセルは男をまっすぐ見てそう言った。

 その言葉に、エインセルへの注目はさらに上がったが、それはボクも例外ではなかった。

 大精霊を殺したい人がこの王国にいるなんて。

 それに、今の口ぶりでは、此処にいる人たち全員がそうだと言わんばかりだ。

 

「ああ、それは知っている。ふざけた内容に思わず笑っちまったが連絡ミスではなかったのか。まさか本当にガキが三人来るとはな。おっと坊ちゃんを入れれば四人か」


 デリックは舌打ちをするが、エインセルは構わず口を開いた。

 

「取りあえずわかって貰えたなら何よりです。では──」

「──ああ、分かったとも。だが、些か天下の大精霊の相手がこんな子供三人に務まるとは思えんなぁ」


 男は遮るように話し出した。


「何が言いたいんですか?」

「我々とて命は大事だ。大精霊の抹殺をお前たちの協力を得てするのであれば、当然実力がないと認めることはできない。だから、俺たちと戦って力を示してもらう」


 男は笑った。


「模擬戦だ」

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