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十二話 名探偵セオドル


「お疲れ様」

「フェイス。よくやりました」


 昇級試験が終わり、戻って来たフェイスにボクたちは声を掛けた。

 相変わらず、エインセルは嬉しそうだ。


「お二人ともありがとうございます。ですが、私の力なんて大したほどでは。この程度なら、今後役に立てるか危ぶまれるほどです」


 今後、と言うのは、大精霊と戦うときのことを想定しての言葉だろう。

 恐らく、世界有数の剣聖や賢者ですら苦戦をするような相手である。

 それに対してフェイスは今の実力で大丈夫かと疑念を抱いているのだ。


「大丈夫ですよ。フェイスは十分強いです。それに、フェイスの本領は戦闘ではないでしょう」


 エインセルはそう言う。

 フェイスは驚くべき戦闘力を持っているが、エインセルの言う通り、本領はそれではないのだ。

 彼女に期待されるのは巫女の力である。


 巫女にしか扱えない強力な力をエインセルは見込んでいるのだ。

 それは、大精霊の討伐のための、計画を練る際に念頭に置かれるほどに。

 ボクが、魔法を使えるようになったばかりであるのに、すぐに旅に立った理由なども関係してくる。


 巫女の力はとても強力な力ではあるが、その反面、一度使うと長い時間をかけて回復しなければ使えない。

 その期間が、大体ではあるが、七か月から八か月、「大精霊の業」によるリミットを考えれば、七回程度だろう。

 そのため、万が一失敗した時のことも考えて、早めに動いたのだ。

 焦り過ぎてもいけないが、大精霊討伐のために、使用するとして、一柱目を早く倒さないと、最高使用回数も減ってしまう。


 そんなことを思っていると、フェイスはポッと顔を赤らめる。


「エイン様、優しい……」


 フェイスが感動していると、エインセルが思い出したように顔をこちらに向けた。

 

「それより、セオ。例の件について動くなら、一度昼食をとってからにしましょうか」


 例の件。

 つまり、この街で起こっている魔力欠乏についての話だろう。

 昨日、魔力欠乏に陥っていた、あの女の人が亡くなったと言う話。

 そして、恐らく、そこには精霊が関わっているであろうとボクたちは睨んでいた。


 それに、早く終わったせいかちょうど昼時だ。

 この時間なら、そうした方が良いだろう。

 

「うん、そうだね」


 そうしてボクは頷いた。


 


 



 昇級の手続きが無事終わり、昼食をとったボクたちは情報収集から始めることにした。

 つまり、聞き込みだ。


 と言う事で、ボクたちはお店や家々を回り話を聞いた。

 それと通行人も。


 こうやって話を聞くのは初めてなだけあって、序盤は苦戦こそしたが無事に話を聞くことが出来た。

 お店なんかで話を聞くときには、商売をしているだけあって、少しばかり買い物が必要であったせいか少々の出費はあったが、それでも満足のいくだけ情報を集めることが出来たように思う。

 そんなことをして、少し、ボクたちは一度集まることにした。


「ふう……ボクこんなにいろんな人と話したの初めてだよ」

 

 とりあえず、一通りは聞くことが出来たので、休憩だ。

 ボクは息を吐いて路上のわきに腰を掛けた。

 村で生まれたこともあってか、あまり知らない人と話す機会がないボクは思った以上に体力を使っていた。

 学園にも通っていたけど結局話したのはサイラスだけだったし。


「でも、セオが頑張ったおかげでたくさん話を聞けましたね」

「エインが途中途中で足りない言葉を補ってくれたのもでかいよ」

「お二人の力が合わさって大きな結果を……感動です」

「フェイスも手伝ってくれたじゃないですか」

「そうだよ」


 エインセルももちろんだけど、フェイスも手伝ってくれたからこその結果だ。

 ボクたちがお礼を言うと彼女は恥ずかしそうにしていたけどなんだか嬉しそうでもあった。


「そ、そんなことより、情報の整理をしましょう!」


 フェイスは話題を打ち切るようにそう言った。


「そうだね。途中からは手分けして聞いたし」

「では、まず、皆で集めた情報から──」


 フェイスの意向を読み取ったエインセルの提案でボクたちは集めた情報を整理することにした。

 まずは皆で集めた情報からだ。


 ・この街では毎年この時期に収穫祭が開かれる。

 ・それに合わせるように体調不良などで倒れる人がでる。

 ・倒れる原因は魔力欠乏によるもの。

 ・被害にあった人に一貫性はない。魔法師であったり商人であったり様々。

 

 皆一様に言うのはこの四つ。

 これは基本的に昨日聞いたことと変わらなかった。

 ここからが、ボクたちが集めた情報を精査して得た傾向。


 ・魔力欠乏に陥った人は、祭り当日は例外なく(ボクたちが質問した人に限るが)祭りに参加し、人の多く集まる大通りへと行っている。

 ・症状が現れるのは祭りに参加して以降、その場にて症状がでる者もいるが、時間をおいてその日の夜に魔力欠乏に陥る場合もある。しかし、祭り参加前に発症することはない。

 

「こんなところかな」

「そうですね。結果から見れば、まず、祭りに何か影響があると考えた方が良いでしょう」

「今年は収穫祭ではなく、七剣聖と七賢者のための催しに変わりましたが同じ現象が起こっていることから重要なのは祭り自体ではなく、住民、あるいは旅人や行商人などの標的になるであろう人間の行動でしょうか?」


 ボクが情報をまとめると、エインセル、フェイスの順で意見を交わす。


「しかし、一番気にかかるのは、未だに動かない領主の存在ですね」

「確かに。街の人も全く領主さんが調査をする気配さえないって言ってたもんね」


 例え、この事態がなす術がない類のものでも領主が全く動かないのが不思議だった。

 少なくとも、噂としてこの事態が広まって最近は街に出入りする人が減少傾向にあることもさっきの情報収集で聞いている。

 であるならば、街にとって不利益に働くこの状況を打開しようと試みるのではないだろうか。

 それなのに、事実の確認すらしないと言うのは気がかりだ。


「何でも、ここ数年どころの話じゃないらしいですからね」

「一部では大精霊の呪いとか言ってる人もいたし。まあ、他の人は信じてないみたいだけど」

「む。私はそんなことしませんよ」

「そうです。あり得ません!」


 そもそも、この国でそんなことを言う人は少数だ。

 しかし、そんな中で今の言動をする人が出るほどこれは人間離れした所業なのだろう。

 

「まあ、それはともかくとして。一番考えられるのは領主がこれを仕組んでいると言うくらいでしょうか?」









「凄いですね。街の地下にこれほどの精霊がいるとは」


 薄暗い空間。

 若干の異臭と湿気漂うこの空間で七剣聖ルイス・エーベルは呟いた。


 現在地は地下の下水道。

 小さな明かりを頼りに前方へと注意を向ける。

 視線の先には宙に浮く人のような何か。


「ダレだキサマ?」


 それはそう発音した。

 人のような何か。

 それは人のような形をしてはいるが、なり切れていない。

 子供が作った土人形か、はたまた信仰厚いものが、人間からは逸脱した存在として作ったか。

 十時型の盾のようなものを面のように顔に貼りつけ、わずかばかりの装飾を身に着けた体は胡坐をかくようにして組まれている。

 言うなれば二頭身、顔が異常にでかいのか、体が小さいのかは定かではないが、とにかくそれは結果として気味の悪さを演出していた。


 だが、見据える相手は七人しかいない剣の頂点、七剣聖が一人、目を離さんとばかりに睨む姿はその場数の多さと格の大きさを表すようだった。

 彼にとっては珍しくないのか、それとも強者ゆえの風格か、一切の動揺を見せることなく答えた。


「俺はルイス・エーベル、七剣聖です」


 彼の金の髪は囂々と燃える炎に照らされる。

 そして、それ以上に光によって濃く浮かび上がった顔はその自信を物語っていた。








 加工された石が積みあけられ地下に空間を作る。

 地面を流れる川のごとき濁ったそれは掲げられた光をその身に写す。


 七剣聖ルイス・エーベルと時を同じくして七賢者ソフィ・ウィロウも下水道にて異形遭遇していた。

 その姿は、ルイス・エーベルの遭遇したものと酷似していた。

 いや、同じと言っても良いだろう。ただ違うのは顔に当たる部分にある面のようなものの形が違うだけなのだから。

 十字を描く面のような顔も目の前に浮かぶ逆三角形のようなそれも、人の身から見れば、それは等しく同じものだった。


 そして、行動も変わることはなかった。

 それは名前を問うた。


「私は七賢者ソフィ・ウィロウ……いや、何をしに来たって聞きたかったのかな?」


 少女は答え、問い返す。

 端正な顔立ちの印象とは真逆に気だるげな顔で薄い色の金髪を揺らした。







 身体が警鐘を鳴らしていた。

 この暗い地下に引きこもってからこんなことは一度もない。

 いや、何百年と生きてきたが、その中でも一度あったのが精々。

 

「なんだ?」


 恐怖か畏怖か。

 震えるはずのない身体がガタガタと音を鳴らす。

 一秒、一拍ごとに疑問が増していく。

 目などあるはずもないその顔で暗い下水道の先を睨む。


「何なんだ?」


 光もなく先も見えない。

 人間の尺度で考えれば途方も知れないほど長い間いるはずで、この世で誰よりも把握している地形なのになぜが永遠に道が続いているかのような錯覚に陥る。

 石が積み重ねられた下水道の先で何かが来ることだけは分かる。

 いや、この気配は──


「あ、いた」


 そんな声が聞こえた。

 幼く、まるで子供の声。

 

 まるで、ではない、それは紛れもなく子供だった。

 

 だが、違う。

 いや、違わなければおかしい。

 そんなはずはない。

 人間の子供、それも高々十二歳程度の子供からこの気配を感じるはずはない。


「な、なんなんだ!?貴様は!?」


 ラートの街、近く深くにてそれはまるで人間の様に言葉を紡いだ。

 ルイス・エーベル、そして、ソフィ・ウィロウが時同じくして相対するものと同種のもの。

 違うのは顔面に当たるそれが円形、いや、正確に言えば丸を描いていることくらいだろうか。

 宙に浮き、胡坐のような座り方で見下げるそれは酷く動揺していた。

 

 ただ、少年は構わず答えた。


「ボクの名前はセオドル・キオネ」






 時間は昨日(さくじつ)に遡る。


「で、本題はこの街に居座る精霊の対処と言う事ですか?」


 昨夜、子爵邸にてルイス・エーベルはそう言った。

 それは、先ほどまでの会話についての確認だった。


「ああ。そうだ」


 食事に招き、本題を話す前の様子とは打って変わってこの街を管理する子爵であるビリー・ラートは取り繕うことなく簡潔に答えた。

 彼は本来奇妙な笑みを浮かべて機嫌を取るような性格ではないのだ。

 必要がないとなればこういった対応をするのは必然とも言えた。


「私としては報酬もあるってことで断る理由はないけど、その精霊は二柱ってことで良い?」


 そう口を挟むのはソフィ・ウィロウだ。

 彼女は乗り気なのか依頼の確認を始める。


「そうだ。私に接触してきたのは二柱の精霊だった。間違いないだろう」

「ふーん。じゃあ、ルイスさんとは手分けして処理するってことで良い?」

「わかりました。では、その精霊が姿を現すと言う明日の夕刻に対処して見せましょう。場所が分かっているのなら俺がこちら、ソフィにはそちらを任せます」


 ルイスは子爵からの情報を活用して、具体的な計画を立てた。

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