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十一話 昇級試験


 昇級試験。

 そう一言で言っても、冒険者皆が同じ内容を受けるわけではない。

 そんなことを実感したのは、試験開始の際に会場が分けらてからだった。


「フェイスは一人だけど大丈夫かな?」

「ああ見えてしっかりしてますからね。心配ないでしょう」


 ボクが思わずつぶやいたこの言葉から分かる通り、今現在、フェイスとは別行動をしている。

 今ここにいるのは、ボクとエインセルだけだ。


 なぜ、こんなことになっているかと言えば。


「まさか、魔法職とそれ以外の役職への扱いがこんなに違うとはね」

「まあ、仕方がないですよ。剣士や戦士といった前衛職比べて魔法師は冒険者には少ないですし。大抵はセオの様に国に持ってかれます」


 仕方ないとエインセルが言うように、これには魔法師の希少性が関係していた。

 ボクは身をもって体験しているが、この国では、魔法師は国によって、学園に入学させられる。

 そして、学園の割合で見れば、六割が貴族であり、更に残りの四割が平民である。

 貴族が冒険者になるなんてことはまずないと考えても、残りの四割の内の平民がどれだけ冒険者になるのかと考えてみれば、それでも、一年度につき、数人が精々だろう。

 何故なら、平民であったとしても、学園に通っている限りはエリートである。

 つまり、それなりの将来が待っていると言っても過言ではない状態だ。

 そんな中で、一体どれほどの人間が、危険が付きまとう冒険者になると聞かれれば、それはほぼいないと言っていいレベルであった。


「魔法師の人で受けるのはボクたちを含めて、四人だね」


 周りを見渡せばその希少性を表すようにボクたちの他にいたのは女の人と男の人が一人づつだけだった。

 ただ、ギャラリーは比べられないほどいるようだ。

 と言うのも、先ほどから、建物の吹き抜けとなった二階に位置するであろうあたりからちらほらと顔が覗くのだ。

 いや、なんなら、騒いでいるのでうるさい。


「えー、時間になったので、始めさせてもらいます」


 喧騒の中で、そんな通る声が聞こえた。

 その声の主であろう、監督官の方をボクは向いた。

 監督官は、男であるのだが、少々体の線が細く、恐らく魔法師であることがわかる。

 ただ、それから語った試験内容を聞けば、魔法に詳しくなくとも勤まるのではないかと言う疑念も生まれた。


「では、これから試験を始めますが、そうは言っても、今回は三級昇格試験、しかも、魔法に置けるものですので、魔法を発動できるか見るだけです」


 その言葉を聞けば、当然疑問がわいた。

 そして、それはボクだけではなかったようで、隣の方から声が上がった。


「それだけ?」


 そう訊いたのは、ボクたち四人のうちの一人である、女の冒険者であった。

 確かに、それだけと言う気持ちはすごくわかる。


「そうです。魔法職自体が貴重ですのでね。実力に関しては、参加資格を満たしていれば十分と判断してます」


 魔法が使えるだけで、と言うのならば、登録した瞬間に三級からスタートで良いだろう。

 ただ、正確には、試験の受付の際に、一定以上の任務の実績が必要になる。

 そして、その実績は、例え魔法を使用した成果でなくとも最低限実力を証明する証となる。


「他に質問がないなら始めます。早速ですが、受付番号順に魔法を行使してください」


 監督官は、更に質問があるかを確認した後、誰も反応しなかったためか、試験の進行に移った。

 そして、監督官は黙って聞いていた男の人の方を見た。

 彼が、一番だとすると、ボクとエインセルは三番と四番だから、残った女の人は二番と言う事になるだろうか。

 そんなことを、内心思いながら、ボクは魔法を使うと言う男の人に注目した。


「では、一番の方、お願いします」

「わかりました」


 男の人は静かにそう言うと、杖を取り出した。

 その様子には、特に緊張の色は見られない。

 魔法の発動が出来れば、まず落ちないので、気楽に臨んでいる様子であった。

 

 そして、口を動かした。


「ザ・ヴァイツ」


 それだけ言うと、杖の先端が輝きだした。

 白魔法である。

 七第属性に基づけば、その純粋な魔力の形は「光」である。

 そして、それを裏付けるようにして、現れたのは光の球であった。


 ただ、特筆すべきところは、そこではなく、ザ級を扱って見せたところだろう。

 ザ級と言えば、サイラスはすぐに習得してしまったが、一般的な学園の生徒であれば、一年次に習得するのは極めて難しいとされている。


 しかもだ。

 学園の生徒と言えば、国に適性ありと判断された、いわばエリートである。

 その要素を加味すれば、この男の人がなしたことは、偉業とも言えるだろう。

 そして、そう思ったのはボクだけではなかったようで、上の階から見学していた男たちはざわめき始めた。


「白魔法とは珍しい。しかもザ級まで使えるとは」


 そんな、ざわめきの中、監督官も例外ではなかったのか、驚いたように言った。

 恐らく、冒険者組合で監督官を任されるほどの人物だ、この人も相当な実力者なのだろう。

 そんな人が、褒めたたえるように言ったので、魔法を発動した男の人もどこか鼻が高そうにしていた。

 それに、監督官の人が言ったのでボクも思ったが、確かに、白魔法が使える魔法師はあまり見ない気がする。

 二つの意味で、この男の人は、今回の試験で言う注目株なのだろう。


「次は、二番の方」


 ただ、そんな、凄い人でも、監督官は慣れているのだろうか、進行の妨げになるほどの間は開けず、すぐに、次の人へと促した。

 そして、二番と呼ばれたのはさっき質問した女の人だ。


「はあ、この空気でやるのはちょっと嫌だけど……」


 前の人が注目を集めたからだろうか、比較されることを予想し、文句を垂れるも女の人は一歩前に出た。

 そして、前の人に倣うように、杖を取り出し、魔法を発動した。


「ガ・ゲルン」


 黄魔法。

 七第属性で言えば、「土」。

 先ほどの男の人の様に、拡張詞を使用しない単純な魔法。

 いや、彼が、ガ級を使用したことを加味するならば、少々劣っているようにも見えてしまうだろう。


 ただ、そんな皆の思いとは裏腹に、彼女は予想外の行動に出た。

 彼女は、杖を宙に向けるのではなく、地面を指すようにして魔法の発動を行ったのだ。

 そして、間を置くことなく、地面に向けた杖の指す先で土が隆起する。


 その結果できたのは、人が足を引っかければ躓くような、少々盛り上がった程度の地面だった。


 ただ、ここにいる冒険者になら分かっただろう。

 恐らく、空中に展開しなかったのは、事故を防ぐためだと言う事が。

 物質である土を黄色魔法で生成した際によくある事故の対処法ではあるが、基礎が良くできていることを示していた。


 ただ、恐らく彼女が意図したのは、そこではない。

 注目すべき最大の点は、最も効率的な魔法の活用を成したこと。

 

 そもそもの話、この昇級試験は何のためのものかと聞かれれば、当たり前だが、冒険者組合におけるランク分けのためのものだ。

 さらに言えば、なぜ、魔法職の見ていても面白いところがない、こんな試験を荒くれ者の冒険者が見に来ているかと言われれば、今回試験に参加するものたちへの品定めだろう。

 冒険者と言う職業は常に死と隣り合わせだ。

 それならば、背中を合わせられるような仲間でなければなりたたない。

 それを見極めた上で、勧誘するために、二階から顔を出してみているのだ。


 魔法職は、希少性が高い、それでも、自分たちの仲間にふさわしい冒険者を選ぶのは当然のことであった。


 そして、その点で言えば、今黄色魔法を発動した彼女は最高の行動をしたことになるだろう。


 地面の隆起、それは、見た目こそ地味ではあるが、魔物と戦うとなれば、それは立派な何よりも設置が早い即席の罠だ。

 さらに言えば、その行動をこの試験で意図して、行ったことも評価につながるだろう。


 そして、彼女は女性だ。

 であるならば、出来るだけ同性と同じパーティを組みたいと考えるのは当然である。

 今の行動はきっと、彼女の選択肢を増やす最善の一手であったと考えるべきだろう。


 この結果にギャラリーは特別大きな声は出さなかった。それでも、仲間内で小声で話す姿は、彼女の一手が成功したことを告げていた。


「黄色魔法。では、次、三番」


 そして、次は僕の番だ。

 ボクも、前の二人同様枝のような杖を出す。

 

 本来であれば、大精霊エインセルと契約したボクが、杖を使う必要はない。

 それでも、杖を取り出して一端に構えたのには理由があった。


 簡単に言えば、大精霊とボクが契約しているということがバレないようにである。

 どんな、魔法師でも基本的に杖なしでは魔法に指向性を持たすことは不可能であるのに、それがボクに出来たら、明らかにおかしい。

 ここから、大精霊につながるかは、疑問が残るところではあるが、念には念を入れておこうと言う事である。

 それに、そんなことに関係がなくとも、目立つことには変わらないのだから。


 ただ、問題はそれだけではなかった。

 杖は良いとして、肝心の契約精霊がいないのだ。

 正確にはエインセルではあるのだが、そんなことは言えるはずもない。


 と言う事で、小精霊の再現も必要であったのだが、それは、流石に再現は出来なかった。

 それでも、何故こんな人前で魔法で行使しようとしているかと言えば、小精霊を再現するほかにも、対応策があるからである。

 

 その名も、「服の内側に精霊いるよ大作戦」だ。

 と言うのも、魔法師の中には服の中に小精霊を隠す人は少なくない。

 単純に精霊も生きているため、そう言ったところを好む個体がいると言う事と、属性がばれないように意図的に隠す場合があるからだ。

 ただ、隠すのが目的の場合、一回魔法を使えばバレてしまうので、あまり効果はない。

 と言うか、実力者に限って見せびらかすかのようにして、外に出している。


 まあ、ともかく、問題は解決していると言うわけだ。

 だから、気にせずやらせてもらおう。


 ボクは緊張をほぐすように、軽く息を吐いた。

 前二人は、気にした様子もなかったけれど、ボクの番になればおのずと注目は集まるため、少しは緊張してしまうのだ。


「よし」と心の中で、気合を入れて、杖を宙に振り上げる。

 さっきの人を真似しても良いけど、ボクが今から使う魔法では意味をなさない。


 ボクは一言呟いた。


「──ガ・ローオ」


 個体ごとに、属性が限られている小精霊と違って、大精霊はすべての属性を扱えると言う。

 そして、それは大精霊と契約したボクも例外ではない。


 だから、赤魔法以外ももちろん使うことは出来るけど、やっぱりボクは、この魔法を使った。

 なじみ深い、なんども学園で練習した魔法。

 正直なところ、練習と言っていい段階まで、行ってなかったけど。


 それでも、今は簡単に使える。


 そんな思考を消し去る様に、手からではなく、杖から出すように意識して発動する。

 そうすれば、赤魔法によって現われた炎は、その場で球体を象った。

 大きさは、大体二十セリオ(センチ)である。


 初めて使ったときの様に、驚くこともないけど、それでも、魔法が使えるのだと、あらためて実感する。

 ただ、野太い声が、そんなボクの感動を吹っ飛ばした。

 聞こえてきたのは、二階からだった。


「おい!なんだあの大きさ?」

「あの嬢ちゃんにあんな魔法が使えんのか?」

「それより、凄腕の魔法職の冒険者レベルなんじゃ?」

 

 そんな、声が次々と聞こえて、野次馬の声がでかくなったところで、ボクは失態に気付いた。あと、ボクは男だ。

 威力を出し過ぎたのである。

 そもそもだ。

 ボクの基準ではあるが、天才とされるサイラスが使うガ級があの時、これより小さかったのだ。

 つまり、ボクはサイラスを超えるような記録を出してしまったことになる。

 しかも、魔法においては平均値が低いであろう冒険者の昇格試験において。


 ただ、そんなボクよりも、口をあんぐりと開けた監督官の方が先に我を取り戻したように口を開いた。


「…………………………はっ、では次の四番の方お願いします」


 そんな声を受けてエインセルは魔法の発動に取り掛かる。

 エインセルも、ボク同様に偽装をして杖を持っている。

 ただ、ボクの後であったからか、ギャラリーが騒がしくなってきた。


「あのフードの嬢ちゃんも凄かったするか?」

「いや、流石にないだろ?」

「でも、さっきの嬢ちゃんとは仲良くしてたし、もしかしたら」


 そんな声が聞こえて、ボクは少し不安になる。

 なんたって、エインセルは大精霊だ。

 ボクとは比べ物にならない。

 もしかすると。


 そう、ボクが思っていると、彼女は杖を振り上げる。


「ガ・ローオ」


 杖の先から、炎がでて、先ほどと同じように球体を象った。

 その様子を見て、ついボクは身構えたが、出来たのは三セリオ(センチ)ほどの小さなものだった。

 野次馬も、まさか、まさかと湧いていたが静かになった。


 でも、そうだ。

 よく考えてみれば、魔力の操作はエインセルが圧倒的に上である。

 彼女であれば、大きさを小さくすることなど容易いのだ。


 いや、ボクも忘れてなければできたけど。


「ふぅ。こっちは普通ですね。いや、普段で言えば凄いですが」


 監督官は疲れたように、息を吐いて言葉を続けた。


「では、皆さん合格です。あとの詳しい手続きは受付で行ってください」


 彼は、あっさり合格を言い渡すと出て行った。

 向こうの方で、「天才が現れたぁ!」と焦ったような声が聞こえたが気のせいだろう。

 そんなことを思っていると、エインセルがこちらに顔を向けた。


「まだまだ、時間もありますし、フェイスの様子を見に行きますか」


 エインセルに言われて、思い至る。

 そう言えば、皆が魔法を発動しただけで終わったボクたちと違って、フェイスの方の試合はまだ終わってないだろう。

 そう思って、ボクは頷いた。


「そうだね」

 

 ボクたちは、思いの他早く終わったことに驚きながらフェイスのもとに行こうとして歩き出した。

 道中、勧誘されそうになるのを回避しながらその場を離れた。

 これこそが、ギャラリーのいた理由だった。







「で、私たちはなんでここにいるの?」


 ソフィ・ウィロウは目の前の光景を見ながらそう言った。

 薄い金髪が特徴的な彼女だが、大人っぽい顔の造形からは想像のつきにくい口調で隣にいた男に質問を投げかけた。


「私たちは昨日子爵に頼まれごとをされたよね?」

「されましたね」


 質問を投げかけられた男、ルイス・エーベルは簡潔に答えた。


「じゃあ、なんで、冒険者組合の、それもたかが三級昇格試験を見せつけられているわけ?」

「そりゃあ、子爵の他にも、ここの冒険者組合の支部長にぜひ見てくれと言われたからですよ。それと、三級昇格試験なのは日程の問題ですよ」


 不満たらたらと言った様子の、ソフィに向かって、今まであった出来事を伝えるようにルイスが言った。


「なんで、こんな野蛮な」


 そう言って、彼女が見る先には、剣を交える男たちが居た。

 勿論女もいるが、大半は男だ。

 それも、一対一での戦闘ではない、数十人が一気に戦うバトルロイヤルだ。

 自分以外が全員敵、最後まで立っていたものが勝者だ。

 そんなものを、見れば野蛮と言われても仕方がないと思えるほどであった。

 ただ、それにも理由があるのだ。


「仕方ないですよ。数人しか受験者がいない魔法職とは違い、前衛職は余るほどいますからね。トーナメント戦なんてしていたら日が暮れますよ。それこそ、こういったのが好みでないのなら、魔法職の会場に行けばいいじゃないですか?」

「あんなのすぐ終わっちゃうじゃん。それに、冒険者のレベルだと、学園の新入生の方が優秀ってことも全然あり得るし」


 そう言われるのも仕方がなかった。

 才能があるのなら、学園に行くわけで、冒険者になるような人間であれば、それに漏れたか、実力があっても後ろ暗い人間くらいしかない。

 それならば、見る価値もないと一蹴されても仕方がなかった。


「それに、あの女の子のおかげでこっちももう終わりそうだしね」


 そう言った彼女が見れば、すでに残るのは二人だけであった。

 そして、その片方である少女が、今回の試験の終結を早ませた原因でもあった。

 と言うもの、恐らく十代半ばの少女でありながら、この会場にいた冒険者の多くを倒したのは彼女だったからだ。


 試験開始直後こそ、顔が綺麗なこともあってか、彼女を狙うものは少なかった。

 それ自体は、女が少ない冒険者の試験ではよくあることであり、毎回試験の最後まで女が残ってるなんてことは珍しくもないのだが。

 今回は違った。

 いや、他の冒険者の対応は変わらなかったのだが、あの女が次々と喧嘩を吹っかけて、男どもを倒しに行ったのだ。

 そして、流石に他の冒険者も、無視する負けにもいかなくなったのか、一斉に襲い掛かった。

 その結果が、少女一人に惨敗というものであった。


「稀にいますが、前衛職であそこまで強い女の子ですか。珍しいですね」

「まあ、確かに」


 そう言って二人が見る先で、対峙しているのは、女と大男であった。

 どう見ても絶望的な絵ではあるが、此処まで立っていた一部始終を見ていた、彼らは特に心配もしていなかった。


 そして、そんな様子を見ながら、ソフィは軽口を叩くようにして、口を開いた。


「それで、剣聖さん的にはどうなの?あの女の子?」


 隣に、“剣の”とは付くが、その手の達人がいるのだ、聞いても良いだろう。

 そんなことを、思っての質問であったが、何もソフィが本気で実力を測れないだなんて言う話ではなかった。

 それこそ、意見を求める側の剣聖の実力を見たことあるのだから、剣の世界に生きていなくても、これくらいのことは分かる。

 これは、本当にただの軽口であった。


「そうですね。冒険者全体で見れば強い方だと思いますよ。まあ、魔物との戦いは人対人とは違うので正確には分かりませんけど」


 そして、剣聖である彼は、無難な回答をだす。

 ただ、彼女はそれに突っ込む様な質問をした。


「剣聖と比べたら?」


 剣聖と比べる。

 たかが、三級にも到達していない様な、冒険者の少女と比べる?

 バカな、そんな言葉が返ってきても良いような質問だった。


 でも、ルイスは嫌な一つ浮かべずにして、おどけたように返した。


「それ聞きます?」

「だよね~」


 わかり切ったことをと言った表情をして二人は笑った。







「まだ、終わってないようですけど」

「うん。でも、終盤みたいだね。フェイスは無事みたいでよかった」


 ボクたちは、自身の試験を受け終わったあと、フェイスの様子を見に来ていた。

 ちょうど、着いた時には立っていたのは、フェイスと大きな男性だけだった。

 たくさん人がいたのに、思ったより早く戦局は進んでいたようだった。


「あの人大きいね」

「そうですね。でも、フェイスなら大丈夫ですよ」


 エインセルは自信満々にそう言った。

 そして、ボクもそれはよくわかっている。

 ここ数日、ムラマエに滞在していた時には、魔物を倒す過程で何度か彼女の実力は見ている。

 始めは巫女なのにと驚いたけれど、今ではその力に信頼を置くほどにまでなっていた。


「ボクもフェイスみたいに、前衛職として受ければよかったな?ほら、エインとも聖域で特訓したし」


 冒険者か傭兵になりたいと言ったあの日から、エインセルには少しだけだけど、特訓をしてもらっていた。

 そんなことを思い出しての、言葉だった。


「え?あ、そうですね。でも、あれですよ。あの、あれです!」


 でも、エインセルは、ボクの発言に何か慌てたように言った。

 要領を得ない発言ではあったが、言いたいことはなんとなくわかる。


「わかってるよエイン。魔法職の方で受けた方が確実だって。それに、こっちは上位数人しか受からないから、枠が少ないってことだよね」


 そう、こちらはさっきのボクたちが受けた試験と比べると大分厳しいのだ。

 それは、前衛職が有り余るほどにいるのが起因しているのだが、それにしても厳しすぎないかとも思う。

 ただ、ボクが考え込んでいるうちに戦況は動いたようだった。


 一瞬、お互いを見るようにして、向かい合っていたフェイスと大男だが、突如として、両者が一斉に動いた。

 タンッ、と床がなったと思った瞬間にお互いの刃がぶつかった。

 十代半ばの少女であるフェイスと、彼女の何倍も体の大きい男のせめぎあい。

 一見、フェイスが押し切られてもおかしくない光景ではあったが、実際目の前で繰り広げられていたのは、両者の武器が火花を散らして、拮抗している様子であった。

 いや、拮抗しているかに見えた光景はそう長くは続かなかった。


 次の瞬間には、大男の攻撃をいなすようにして、フェイスは短剣で攻撃を促した。

 ただ、それだけ。それだけで、男は良いようにいなされる。

 男が一瞬バランスを崩す。

 そして、それをフェイスが見逃すはずもない。

 隙をつき、懐にもぐりこんだ。

 男が、気付いた時には、フェイスの短剣が添えられていた。


 その瞬間に、勝負は決まっていた。


 そんな光景を見て、エインセルにボクは話しかけた。


「凄いね。エイン」

「そうですね。流石私の巫女なだけあります」


 ボクがほめると、エインセルは鼻が高そうに、胸を張った。

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