③
凛花は言う。
「乃亜ってさあ、付き合ってはすぐ別れておしまーいって感じだけど、菊池勇太タイプには、絶対そんなことしちゃダメだよ」
「はあ?」
「あんな真面目君、遊んでポイしたらトラウマ抱えるよ」
言葉とはあべこべに、キャハハとどこか楽しげな彼女。
「何もべつに、私だって別れたくて別れてるんじゃないんだけどっ。フられる方だってあるし」
私はまた、黒目を転がした。彼はいないが念の為、声のボリュームを落とす。
「大体、中学や高校で付き合ったって結婚するわけないんだから、みんな別れるの前提で付き合ってるんでしょ?今までの人もそうだし、勇太君もそう。終わって当たり前」
私のその発言に、凛花はこれぞ呆れ顔という顔を、惜しみなく顔面に貼り付けた。
「うっわ、乃亜のそういうところ悪魔!なんでそんなあんたに彼氏がいて、私にいないのよ!」
うちわを唇で噛み締めて、キイーとか言ってくるものだから、私は爆笑しながら彼女の頭を叩いた。
「乃亜のどこが悪魔なの?」
突如背後からしたその声に、背筋が凍る。
カクカクとロボットのように振り向けば、真顔の勇太君が立っていた。
ピリリと張り詰める空気。私ひとり、狼狽え出す。
「ち、ちがうのっ。これは凛花が勝手に言ってることでっ」
いつからいた、どこから聞いていた。焦れば焦るほどに、口は上手くまわらない。
彼はそんな私のさまを見て、柔和に笑った。
「あははっ。乃亜は朝から賑やかだね」
その言葉にも何を返せばいいのか困った私は、とりあえずもう一度、凛花の頭を叩いておいた。
昨日。「はい」と勇太君の手をとった。彼は驚いたように、そして嬉しそうに「ありがとう」を口にした。彼は確かに、私のことが好きなのだと思う。けれどその気持ちは、一時的なものだろう。
恋心など続かない、愛などいつか冷める。例え愛し合えたとしても、終わりというものはやってくる。だから恋愛なんて、本気で好きな人とするものじゃない。