②
園内の飲食店はどこも満席で、とてもじゃないけど四人席は確保できそうになかった。
「乃亜と凛花で座ってゆっくり食えよ。俺達はどっかで立ち食いでいいし。なあ森?」
「うん、そうだね。ふたりなら座れるんじゃないかな」
彩られた数々のメニューを見ても、食欲が湧かぬ私は言う。
「私、まだお腹空いてないの。その辺散歩してくるから、三人で食べて?」
「え、おい」
私の腕を掴もうとした陸の手を躱し、人混みを掻き分けて表へ出た。
「ここら辺にいるから戻ってきてねーっ」
「おっけー!」
凛花の声には明るく応えた、はず。
自動販売機で水を買い、木陰に座る。
夏休み初日である遊園地の賑わいをさりげなく眺めていると、居場所違いな自分に気付いてしまい、絶句した。やり場のない感情、気分が塞ぐ。これは奈緒さんに対する失望なのか、それとも陸への嫉妬なのか、はたまた凛花への羨望か。もはや全てだ。
去年の夏は、勇太君といつも一緒にいた。図書館へ行って、勉強をして、告白をされて付き合って。彼の家にも行ったし、可愛いカフェでジュースも飲んだ。だけど今、私の隣に彼はいない。今年の夏の思い出のひとひらにも、彼が存在することはない。それが、愛を続けられない愚かな人間の実情だ。
今日は長い。太陽はまだあんなに天の高いところ。
先ほどの飲食店へ戻ると、凛花がひとりで手鏡を見ていた。
「お帰りっ。陸達は今トイレに行ってるよ。乃亜、本当に何も食べなくていいの?」
「うん大丈夫。実は朝ご飯、食べ過ぎちゃったんだよね」
「あははっ。それで遅刻するなしー」
彼女はテーブルに手鏡を置いた。
「乃亜、森君どうよ?いい加減、付き合えっちゃえば?」
彼女は私と森君をくっつけたがっている。それは春からひしひしと感じていた。
「森君と乃亜が付き合えばさ、こうやってダブルデートできるじゃんっ。楽しいと思わない?」
「凛花、私と森君はそういうのじゃないよ」
「そお?お似合いだと思うんだけどなあ。あ、そうだ。さっき陸がね、残したおかずくれたんだ。間接キスじゃんってツッコんだら、ちょっと耳赤くなってた。可愛いくない?」
いつの間にやら食い縛っていた奥歯には、更にきりりと力が入る。
「乃亜も森君の耳、赤くしてみてよっ」
これは彼女だけに対する感情ではなかったと思うけれど、口走るとは、おそらくこういうことを言うのだろう。
「あのさあ凛花。いい加減にしてほしいんだけど」




