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 遊園地に行く日は、朝から太陽が照りつける真夏日だった。私がアラームよりも先に目が覚めたのは、耳に嫌でも入ってきたさんざ煩い怒鳴り声のせいだ。


「な、何っ、喧嘩!?」


 居間に駆けつけた私の目に飛び込んできたのは、三角の目をした父と、涙で顔がぐしゃぐしゃになった奈緒さん。父は私にも怒声を浴びせてくる。


「乃亜は黙っていなさい!大人の話に入ってくるな!」

「はあ!?」

「奈緒、もうお前なんかと暮らせない!出ていけ!」


 バンッと椅子を蹴り上げる、気狂いにも似た父の所業。奈緒さんは叫ぶ。


「どうしてそんなこと言うのよ!いきなりそんな、酷いじゃない!あなたの誤解よ!」


 今までに聞いたことのない、彼女の荒立った声。見たこともない、取り乱した姿。


「もういい、出てく!最っ低!」

「ああ、出てけ出てけ!二度とその顔を見せるな!」


 気が動転した私は、その場でおろおろと身を行き来させるだけだった。



 自身の部屋へ向かった奈緒さんは、荷造りをし始めた。混乱する中、彼女の背中に話しかける。


「奈緒、さん?」


 ビクッと上がる、彼女の肩。


「奈緒さん、この家出てくの……?」


 何着かの服を鞄に放り込み、腕にかける彼女。私の横を通り過ぎる際にこう言った。


「ごめんね……乃亜ちゃん」


 パタパタと去って行くスリッパの音。ガチャガチャと鍵を取る音。そしてバタンと扉が閉まる音。全ては虚しく、耳と心の底で響いた。



 煙草に火をつけた父は、ぶつぶつと奈緒さんの愚痴を台所で吐いていた。私は彼女のいなくなった薄暗い部屋を目に入れながら、母が病院から帰って来られなくなったあの日を思い出す。ここは元々母の部屋。一生忘れない、あの日。


 父と別れたら捨てられる。そんなことは承知していたはずなのに、最近の私は、奈緒さんの言動に愛を感じてしまっていたから忘れていたんだ。


 愛など長続きしない。そういえば、そうだったよ。


✴︎


 待ち合わせは地元の駅。凛花は私の姿が見えると手招いた。


「乃亜、おそーい!」

「ごめんっ」


 陸と凛花は手を繋ぎ、森君と私の前を行く。私の顔を覗き込んだ森君は思案顔。


「乃亜大丈夫?あのふたりと一緒で」

「大丈夫だよ。ありがとう、森君」


 なんかだかもう、どうだってよかった。



「次は、あれ乗ろー!」


 凛花は絶えず、楽しそうだった。ずっと陸の隣をキープして、森君と私が並ぶよう仕向けているのがあからさまに伝わった。


「あ、そういえばお母さんに電話しなきゃ。着いたら連絡してって言われてたんだ」

「おいおい、もう昼になるぞ」


 凛花の言葉に返す陸。私の母も生きていれば、こんな風に娘を想って心配してくれていたのだろうか。奈緒さんは時々声はかけてくれていたけれど、約束ごとや束縛はしない。何故なら、血の繋がりがない赤の他人だから。



「乃亜?」


 地面だった視界が陸に切り替わる。


「お前、今日変じゃね?朝から思ってたけど、何かあった?」


 陸の特技は場所を選ばない。川辺だろうが学校だろうが遊園地だろうが、心を読み取る。


「なんで?変じゃないよ?」

「そうか?もし体調悪かったら言えよ」


 今朝、奈緒さんが出て行ったんだって、陸にならば言えるのだろうか。



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