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 川辺のベンチに座り、コーヒーで乾杯。夏でもこの場所は、幾らか涼しい。


「陸さ、並河高校の合同レク相手が、私の高校だって知ってたの?」

「いや?知らんかったけど乃亜目立つもん。金髪ロング」

「まだ金髪まで明るくなってないでしょ」

「色抜けすぎ。もうこれ、金髪だよ」


 川風に靡く私の髪を、陸が指で掬って取った。


「そういうの……しない方がいいと思うけど。凛花に悪い」


 ただでさえもう、罪悪感でいっぱいなのに。


 おもむろに、その指を離した陸は言う。


「俺、凛花に魚のぬいぐるみ、あげてねえから」


 ゲームセンター傍で蹲る私を、彼は目撃している。そのさまから私の心情を、察したのだろうか。


「全然やらない俺に痺れ切らせた凛花が、自分で取ってた。アイツうまいのな、一発目で成功してたよ。ノアギョ人気らしいぜ?調べたら即ヒットした」


 陸は凛花にプレゼントを贈っていなかった。制御の利かぬ心が、口を滑らせる。


「私、陸に言いたいことがある。今は言えないから、今度言う」


 捲し立てるような口調の私に、陸は唖然し、笑っていた。


「なんだよそれ、気になるじゃんか。今言えよ」

「今度」

「はあ?無理」


 立ち上がる陸。私の真向かいにしゃがみ込み、上目で見つめてくる。


「乃亜、言って」


 喉まで出かかっているこの言葉は、今はまだ言うべきではない。凛花と向き合う覚悟が決められない。それなのに、陸へのこの強い想いが今すぐにでも空気に触れてしまいそうで困ってしまう。


「乃亜お願い、言って」


 大好きな人に大好きと伝えたい。箱の中にしまったふたりの恋を、取り出したい。


「わ、私……」


 でも今は。


「私──」



 プルルルル。


 助けてくれたのは、陸のポケットから響いた着信音。プルルプルルと、何度か鳴る。


「で、出て、陸」

「やだ。お前が言ってくれるまでは出ない」

「凛花だったら私、後悔する。だから出て」


 逸らさぬ視線、真剣な顔。だけど十回も聞き流してしまえば、申し訳なさが勝つ。


「あーもう!」


 地面に足を叩きつけて立ち上がり、陸は通話ボタンをタップした。


「もしもし。あー、今は外。テレビ電話?できねえよ。外じゃ恥ずい」


 電話の向こうには凛花がいる。そう悟った。


「遊園地のチケット?」


 デートの誘いだと思ったけれど、どうやら少し、違うらしい。


「いや、森は来ると思うよ。だけどなんでそこに乃亜なの?森と付き合ってるわけでもねえじゃん。それじゃまるで、乃亜と森をくっつけ──」


 最後まで言い切れずに、陸は歯痒い顔で画面を見る。私は自分の名が出た理由(わけ)を聞く。


「陸と凛花、遊園地行くの?そこに私と森君も?」


 頭をがしがし掻く陸は、不機嫌そうにベンチへ座った。


「なんか、無料チケットがあるとかなんとかで。夏休み初日、乃亜と森も誘って四人で行こうって。凛花の奴、心のどっかでお前等を付き合わせたがってんだよなぁ」


 陸は小さく舌を打つ。そんな彼の仕草に一瞬だけど、期待を寄せた。もしかすると陸はまだ、前へ進みきれていないのではないかと。


「どうしよう。私、凛花に誘われるんだよね?」


 陸と凛花のセットは見たくない。だけど純粋に、陸と遊園地に行ってみたい。そんな葛藤を抱え悩み出した私に、彼は容赦なく爆弾を投げつけてきた。


「誘われても断れよ。どうして俺達カップルのとこに乃亜が来るんだよ」


 その爆弾は豪快に爆発すると、私のてっぺんからも湯気を出す。


「カップル、ね……あっそ。私もじゃあ、森君と仲良しこよしで行けばいいね」

「はぁ?」

「そっちはそっちで凛花とラブラブやればいいじゃん。私は森君とずっと喋ってるし」

「うわあ、なんだよそれ行きたくねえ。意味わかんねえその四人組」

「その日ふたりでバイト休んだら、店長に怪しまれちゃうかなあ。あ、陸には言ってなかったけど私、森君と同じとこでバイトしてるんだよね」

「聞いてねえ、知らねえ、なんだよそれっ」


 こんなにも怒りに満ちているのにもかかわらず、会話の合間合間に感じた陸の嫉妬のようなものが、全身をくすぐっていた。

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