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「乃亜ちゃん、頑張ってー!」


 双葉の声が耳に届く。万が一の望みにかけた私は、森君の姿を隈なく探した。しかし校庭の隅々まで目を這わせても、彼は見つからない。白旗を掲げる寸前だった。

 


「のーあーっ」


 その瞬間、他の雑音全てが消えた。


「乃亜ーっ、頑張れよーっ」


 時が、止まる。


 

 大勢の観衆の中、私の瞳に飛び込むは、愛しいあの人、陸だった。私は叫ぶ。


「陸!来て!」

「え、俺?」

「早く!」


 戸惑いながらも、陸はコーンバーを飛び越えて、校庭の真ん中に駆けつけた。


「な、何。俺でいいの?なんの借り物?」

「い、いいからっ」


 そう言って握った久しい彼の温もりに、とろけそうになる。



「残念時間切れ!あと三つ足りませんでした!」


 私より早くにゴールした生徒達は、ことごとく失格となっていた。


「乃亜これ、全員同じ内容なの?」


 ちらちらとお題を確認しようとする陸に終始伏せていた用紙を、司会者に手渡す。


「彼女が引いたのも……ジャジャーン!『走者の長所を十個言える人』です!ちなみに二十秒以内!」


 陸の目は見られない、恥ずかしすぎる。私は体操服に皺を作り俯くだけ。


「言っていいんすか?もう」


 あっさりとそのお題を受け入れた陸に、慌ててタイマーを切る司会者。


「いいですよ!どうぞ!」


 無理難題に近いお題。私の周りだけ、空気が淀む。


「えっとじゃあ、いきます。元気なとこ。素直じゃないけど優しいとこ。無駄に明るいとこ。うるさいくらい賑やかなとこ」


 随所随所嫌味は感じるが、陸はスラスラと答え始めた。


「ばか言って笑わしてくるとこ。俺の家族を大事にしてくれるとこ。試験前だけ勉強頑張るとこ」


 あっという間に七個も答える。


「金髪が意外と似合うとこ。太ったとか言うくせにちゃんと体型キープしてるとこ。あと──」


 早口だった陸の口調が緩まった。私は顔を上げて彼を見る。また聞こえなくなる、他者の声。


「あと一番いいところは、本当は弱いくせに強がって、周りを傷つけないようにするところ」


 ストレートに交わる視線。愛を叫びそうになった。


「合格!ビリでゴールした彼女が一等です!いやあ、逆転ってあるものですね!」


 司会者が手を叩いたのを皮切りに、校庭中が拍手で埋まる。退場ゲートまでの道すがら、肩に乗るのは陸の手。


「ふぅー。何かと思ったけど、とりあえず勝ててラッキー」

「よ、よく私の長所なんて、あんなに答えられたね」

「ギリギリだよ。もうない」


 陸の脇腹に、拳を放つ。


「陸はいつも、ひとこと多いっ」

「ははっ。ごめんごめんっ」


 こんなやり取りは久しぶりで、ひとり、しんみりしてしまう。


 ゲートを越えたところで、陸は言う。


「じゃあ俺、ダチ等のとこ戻るわ。最後まで頑張れよ、見てっから」

「うん、わかった。またね」


 陸の背中を見送って、歩き出す。


 こんなにもたくさんの人の中で私を見つけ出してくれたこと、いつも通り会話ができたこと、長所を言ってくれたこと。全てが「愛してる」に繋がってしまう。


 この恋に終止符が打たれる時なんて、くるのだろうか。

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