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振り向くとそこには凛花がいた。一瞬にして鳥肌が立った原因は、彼女の隣。凛花と仲睦まじく手を繋ぐ陸の姿だ。
「何、お前等なんで手なんか繋いでんの?まさか……え、ええ!」
森君は陸から何も聞かされていなかったのか、仰天していた。そのさまを見た凛花が言う。
「ちょっと陸、私と付き合ったってそろそろ地元の友達に言ってよね。もうすぐ二ヶ月は経つのにっ」
「そーだそーだ」と森君は、陸の首に腕を回す。
「陸、水くさいぞ!内緒にしてたな!」
「離せよ森っ、悪かったって」
「この秘密主義者がー!」
男達が戯れている間に、凛花は私に耳打ちをした。
「乃亜は、森君とデート?」
「そ、そんなんじゃないよ。バイト帰りにゲームでもしようかって、立ち寄っただけっ」
「ふぅ〜ん?」
ニヤニヤと信じていない様子の彼女は、きっと陸とのデートで浮かれている。
「ところで乃亜達、何見てたの……ってこれ、妖怪魚戦争のボスじゃん!」
クレーンゲーム機の中を覗いた凛花は、「陸!」とフロアに響くほどの大声を出した。森君に解放された首を右に左に傾けながら、陸は「何」と言う。
「これとってよ!このぬいぐるみ!」
「どれ」
彼女の示すぬいぐるみがあの魚だと認識すると、陸はその魚と同じような瞳で私を見た。まあるくぱっくり開けられて、広がる白目。ずいぶん長いことそんな目を向けてくるものだから、感情を探られている気分になった。
「ごめん凛花。俺、こういうのは苦手で」
「えー、いいからやってみてよー」
「いや、でも……」
再び陸と目が合って、心の中を覗かれる。居た堪れない。
「森君、早く戦闘ゲームしに行こーっ」
大きな体を反転させて、私は森君の背中を押した。
「ああそうだな。じゃあな陸、凛花っ」
凛花は笑顔で手を振っていた。陸の顔は見なかった。
バスケ部の定休日に地元を彷徨くのは危険。胸に深く刻まれた。
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それから一時間ほどゲームを楽しんで、表へ出た。
「前の方歩いてるの、陸と凛花だな」
私達の数十メートル前方、外灯に照らされながら並び歩くふたり。凛花の腕にはぬいぐるみが抱えられていた。
「陸の奴、結局取ってやったんだ。なんだかんだで優しいんだよなあ、そういうとこ」
以前は三回挑んで無理だった。ならば今日は何度挑戦してあげたのだろうと思えばもう、悲嘆に暮れた。涙のバケツがものの見事にひっくり返り、そこら中を濡らしていく。
「おい乃亜!」
突として膝から崩れ落ちた私に、森君は狼狽えていた。
「おいおい、どうしたんだよ!」
なんでもないよと言いたいのに、バケツの中身があまりに多く、息をするのも困難だ。
私の名を叫ぶ森君の声に気付き、陸が振り返り見たことは、後日森君から聞かされた。




