表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/96

「乃亜ちゃん、乃亜ちゃんっ」


 その声で、瞼を開ける。そこには見慣れた天井と、涙目の奈緒さんの姿。帰宅した記憶は全くなかった。


「私……どうしたの?」


 むくりと上半身を起こせば感じる頭痛。私は額に手をあてた。


「乃亜ちゃん、土手で寝ちゃってたでしょ。付近の人が警察に通報して、警察からお父さんのところに連絡があったの。ちょうど家にいたから、すぐに行けて良かったわ。いくら声かけても起きないし、熱がけっこうあるみたいだし、様子見て病院に行こうと思ってたところ」


 ゴールデンウィークの最終日は、とことん最悪な日となった。


「お父さんは?」


 ティッシュで目元を拭う彼女に聞いた。


「お父さんは久々のおんぶに腰を痛めたのか、居間で休んでるわ。ついさっきまでここで、乃亜ちゃんを心配そうに見てたんだけどね」


 父のそんな姿は、少しも想像がつかなかった。


「乃亜ちゃんがお母さんみたいに死んじゃったらどうしようって、思ったのかも」


 父の涙は、母が亡くなった時に一度だけ見た記憶がある。仏壇の前で声を殺し、ひとりで静かに泣いていた。


「何か食べる?」

「うん。少しだけ」

「じゃあ、スープでも作ろうか」


 そう言って台所へと向かった奈緒さんに遅れること数分、私も自室を出る。居間にはいつも通り、新聞に目を通す父。


「お父さん、心配かけてごめんなさい……」


 父は私を見なかった。だけど震えた声で、こう言った。


「家族が亡くなるのはもう、お父さん嫌だからな」

「うん……」

「あまり心配かけるな」


 母が亡くなったあの日から、父の家族は私だけ。そして私の家族も父だけだ。


「ごめんね、お父さん」


 そんなことを、私は忘れていた。


 

「お待たせ。味付けは薄めにしたから、飲みやすいと思う」


 奈緒さんは、スープを啜る私をじっと凝視し「どう?」と聞いた。


「うん。美味しいよ」

「ほんと?よかった。まだまだいっぱいあるからね。あ、お父さんも飲むー?」


 私はまた、ズズっと啜る。


 懐かしい味だった。薄味好きの母が作るスープと、どこか似ていたのかもしれない。



✴︎

 ✴︎

✴︎

 ✴︎

✴︎



 次の日は、学校とバイトの両方を休んだ。朝から鳴る、携帯電話。


『乃亜おはよ!昨日はありがとねっ。後半ボーッとしてたけど、大丈夫?』


 酷い対応をしたにもかかわらず、私を心配してくれる凛花にズキンと胸が痛む。


『実は熱があって、今日は学校休むの』

『やっぱりそうだったんだ、お大事にね!』

『ありがとう』

『隣で陸も、心配してるよー』


 その瞬間、頭痛に追い風。返信する手がピタリと止まる。恋人同士のふたりが待ち合わせをして、一緒に登校することは不思議ではないとわかっている、わかっているけれど。


 溢れる涙を止めるには、一体どうしたらいいのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ