表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/96

 翌朝、ベランダに遊びにきた雀の声で目を覚ます。時刻は十一時半。陸はピザ屋のバイトへ行けたのだろうか。


 昨夜の私はメールをチェックしては落胆し、またチェックするという行為を深夜まで繰り返した。陸へ残った微かな信頼が、事故や事件を思わせる。


『陸いる?』


 だから楓にメールを送った。もしも今病院ならばどうしようと、不安も抱えながら。しかしすぐにきた楓の返信が、容易に私の胸を抉った。


『お兄ちゃんはもう、バイトに行ってるよ』


 事故でも何でもなかった。陸は普通に起きて、普通にバイトへ行った。


 暫時思考が停止した後押し寄せたのは、もの凄く静かで、もの凄く大きな憤り。

 気付けば陸の働くピザ屋まで足を走らせていた。彼の終業時刻も知らないが、店の前で待ち伏せすればいいと思った。そんなことまでするのかと、己で己を軽蔑しながら。


✴︎


 三時間ほどが過ぎた頃、店から出てくる陸の姿が目に入る。


「り、陸!」


 自転車のペダルに足をかけた彼の横顔にそう叫ぶ。彼の目はみるみる見開き、まるでお化けにでも遭遇したかのよう。


「の、乃亜。どうしてここに……」

「なんでっ、メールするって約束──」


 言葉に詰まる。その顔を見ただけで涙が落ちる。


「乃亜っ」


 ガタンと音を立て倒れた自転車を気にも留めず、陸は私に駆け寄った。

 ちゃんと責めたいのに、ちゃんと理由を聞きたいのに。涙がそれ等の邪魔をする。


 静かに泣く私の肩に、陸は手を添えてこう言った。


「ここ店の前だから、違う場所で話そう」



 人気(ひとけ)の少ない路地の隅、自転車を止める彼。私の涙も、その頃には少し穏やかに。


「陸……二次会行ってたの?」

「行ってない。行かないって言ったじゃん」

「じゃあなんで、連絡できなかったの?」

「それは、ごめん……」

「なんで?」


 今度は陸が言葉を詰まらせる。それはとても珍しいことで、大きな不安が押し寄せた。


「……凛花が、さ」

「凛花?」

「誰か知らねえけど、バーベキュー場に酒持ってきた奴がいて、凛花がそれを間違って飲んだんだ。それで、ふらふらになって危なっかしかったから、おぶって帰った」


 それは、連絡できなかった理由に値しないと思った。凛花と別れてから、いくらだって時間はあった。

 責め立てたい気持ちをグッと堪える。


「凛花、大丈夫なの?」

「ああ、今朝メールした時はもう平気だって言ってた」


 私をそっちのけで、凛花とはメールをした。黒い感情が、心を支配していく。


「乃亜……俺、さ」


 もはや悪魔にも見えてきた陸が、次のひとことで閻魔と化した。


「俺、凛花と付き合った」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ