⑤
「よっしゃ!ダブル!」
陸はボーリングが上手だ。
「ハンデいるか、ハンデッ」
次々と続くストライクに、彼は心底楽しそうだった。
「ほら見て、乃亜。俺のスコアシート」
ボーリング場と同じ館内にあるゲームセンターのベンチで、彼は私の視界いっぱいにそれを広げてきた。
「わ、わかったってば。陸の勝ち勝ち」
結果なんて容易に想像できていた。勝敗云々は関係ない。今こうして陸と過ごすことに意味がある。
満足そうに、用紙を眺める陸に私は聞く。
「バーベキュー、明日だよね。どこでやるの?」
「何。来るのお前」
「い、行かないよっ。べつに、言いたくないならいいやっ」
目を逸らした私の頭、くるっと丸められたスコアシートがぽんと乗る。
「場所は日の出運動公園。九時集合、十六時解散。男女計四十五人参加。俺はクラスの奴等と一緒に行く。二次会あるけど行かない、帰ってくる」
乗せられたものを私が退かすと、陸は優しく微笑んだ。
「満足?」
ただ知りたいだけ。その気持ちを悟ってくれた。
「は、はい……」
「じゃあ遊ぶか。ゲーセン、ゲーセンッ」
いつだって私の機嫌を損ねるのは陸で、直すのも陸。こうして気分転換だってしてくれる。彼は私の取り扱い説明書でも、持っているのだろうか。
「乃亜ー。これいる?」
クレーンゲーム機の箱の前、立ち止まる陸。中を覗くと、そこには名も知れぬ魚のぬいぐるみ。彼はそれを指さした。
「乃亜に似てるから、とってやろうか?なんか簡単そうだし」
「いらないし、似てない」
「そうか?ボーッとしてる感じとか、そっくりじゃん」
私の意などお構いなしに、陸はコインを投入した。
「ここで止めて、と……」
そんなものいらない、そう思っているのに。
「ここでどうだっ。勝負!」
どうして応援してしまうのだろう。
アームからするっと抜け落ちたぬいぐるみに、彼は「あーあ」と嘆息してから、私を見る。
「まじで乃亜じゃん、これ」
「どこがっ」
「捕まえられそうなのに、逃げてくとこ」
悪戯な目だったけれど、それは本音だと思った。
結局陸は、三回チャレンジして諦めた。
✴︎
「あの魚悔しいなあ。掴めるのに落ちんだよ、途中で絶対」
帰り道。未練を残した陸が嘆く。
「ぼけっとしてるのに、逃げるのがうまい」
私はふふっと笑って言った。
「あの魚、一体なんなの?名前あるの?何かのキャラクター?」
「わかんねえ、見たことないよな。きっとアレだ。ノアギョだ、ノアギョ」
「やめて……」
ボスッと一発、陸の腹に入れる拳。
「いってー」
「魚と一緒にするなっ」
あの魚が逃げなかったら、思い出の品ができたのに。




