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「よっしゃ!ダブル!」


 陸はボーリングが上手だ。


「ハンデいるか、ハンデッ」


 次々と続くストライクに、彼は心底楽しそうだった。

 


「ほら見て、乃亜。俺のスコアシート」


 ボーリング場と同じ館内にあるゲームセンターのベンチで、彼は私の視界いっぱいにそれを広げてきた。


「わ、わかったってば。陸の勝ち勝ち」


 結果なんて容易に想像できていた。勝敗云々は関係ない。今こうして陸と過ごすことに意味がある。

 満足そうに、用紙を眺める陸に私は聞く。


「バーベキュー、明日だよね。どこでやるの?」

「何。来るのお前」

「い、行かないよっ。べつに、言いたくないならいいやっ」


 目を逸らした私の頭、くるっと丸められたスコアシートがぽんと乗る。


「場所は日の出運動公園。九時集合、十六時解散。男女計四十五人参加。俺はクラスの奴等と一緒に行く。二次会あるけど行かない、帰ってくる」


 乗せられたものを私が退かすと、陸は優しく微笑んだ。


「満足?」


 ただ知りたいだけ。その気持ちを悟ってくれた。


「は、はい……」

「じゃあ遊ぶか。ゲーセン、ゲーセンッ」


 いつだって私の機嫌を損ねるのは陸で、直すのも陸。こうして気分転換だってしてくれる。彼は私の取り扱い説明書でも、持っているのだろうか。


「乃亜ー。これいる?」


 クレーンゲーム機の箱の前、立ち止まる陸。中を覗くと、そこには名も知れぬ魚のぬいぐるみ。彼はそれを指さした。


「乃亜に似てるから、とってやろうか?なんか簡単そうだし」

「いらないし、似てない」

「そうか?ボーッとしてる感じとか、そっくりじゃん」


 私の意などお構いなしに、陸はコインを投入した。


「ここで止めて、と……」


 そんなものいらない、そう思っているのに。


「ここでどうだっ。勝負!」


 どうして応援してしまうのだろう。


 アームからするっと抜け落ちたぬいぐるみに、彼は「あーあ」と嘆息してから、私を見る。


「まじで乃亜じゃん、これ」

「どこがっ」

「捕まえられそうなのに、逃げてくとこ」


 悪戯な目だったけれど、それは本音だと思った。


 結局陸は、三回チャレンジして諦めた。


✴︎


「あの魚悔しいなあ。掴めるのに落ちんだよ、途中で絶対」


 帰り道。未練を残した陸が嘆く。


「ぼけっとしてるのに、逃げるのがうまい」


 私はふふっと笑って言った。


「あの魚、一体なんなの?名前あるの?何かのキャラクター?」

「わかんねえ、見たことないよな。きっとアレだ。ノアギョだ、ノアギョ」

「やめて……」


 ボスッと一発、陸の腹に入れる拳。


「いってー」

「魚と一緒にするなっ」


 あの魚が逃げなかったら、思い出の品ができたのに。

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