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 洗面所へと立った陸を機に、女子トークを再開させようとすると、口角を上げた楓に肘で突つかれた。


「ねえ乃亜ちゃん。体育祭の彼とは別れたんだよね?」

「ああ、勇太君?別れたよ」

「じゃあ、お兄ちゃんどお?」

「え」

「お兄ちゃん、絶対乃亜ちゃんのこと好きだもん。付き合ってあげてよっ」


 陸と私の間で交わされたフりフラれを、彼女は何も知らないのだろう。期待に胸を膨らまさせて申し訳ないのだが、私の口からはこんなことしか言えない。


「陸とはただの幼馴染だよ」


 途端に彼女の顔が歪んだ。


「えー。お兄ちゃん、超葛藤してんのにっ」


 ピンッと楓の人差し指が立つ。


「この前ね、夕ご飯中にやたらとスマホ触るから、覗き込んでやったの。そしたら乃亜ちゃんとのメール画面開いてるのに、送信ボタンで手が止まっちゃってるんだよ。おかしいでしょ?それにね──」


 人差し指そのままに、中指も立てた彼女。陸が洗面所から顔を出す。


「おい楓!余計なこと言うなっ」


「はいはい」とあしらって、楓は笑う。


「お兄ちゃん、バレバレだっつーのっ」



「よしっ。じゃあ朝飯買いがてら、漫画も買うか。楓、何かいる?」


 近所を歩けるくらいまでに身なりを整えた陸が聞く。


「お菓子ー。甘いのー。お兄ちゃんのバイト代でよろしくー」

「まだ給料入ってねえよ。後できっちり請求するぞ」


 そんなふたりの会話は、私の脳に確と残った。


 コンビニまでの道すがら、気になったそれを陸に尋ねる。


「陸、バイト始めたの?」

「おう」


 バーベキューやボーリングに続き、これも初耳だ。


「なんのバイト?」

「ピザ屋の裏方。作る方」

「ふぅん」


 一気に削ぎ落とされていく、先ほどまでの喜楽の感情。


「陸って、私に何も言わないんだね」

「はあ?今言ったじゃん」

「違うよそれは。私が聞いたからじゃん」

「どっちでもよくね?」

「バーベキューの話も聞いてないし」

「バーベキュー?あー、高校のか。どうして乃亜が知ってんの?」

「凛花から聞いた」

「ああ、そっか。じゃあいいじゃん。俺からわざわざ言う必要ねえっしょ」


 相手の全てを相手の口から知りたいと思うこの気持ち、陸は私に抱かないのだろうか。


 この理不尽なヘソ曲がりが嫉妬だと勘付いたのか、陸は話題を変えた。


「乃亜は最近どうなんだよ。何してんの」


 たちどころに、仕返ししてやりたくなる。


「森君とふたりでお茶した」


 だから、細かい説明を省いたんだ。


「は……なんで森?元彼だろが」

「べつにいいじゃん。陸に関係なくない?」


 思惑通り、陸もすっかり不機嫌に。


「乃亜だって、何も俺に言わねえじゃん」


 外方を向いて舌を弾く陸を見て楽しくなるなんて、私は相当な性格の持ち主だと思う。


「陸、やきもち?」


 そんな陸に、もっと意地悪したくなるのだから、どうしようもない。


「森の野郎〜」

「森君ね、陸がボーリング圧勝したって悔しそうだったよ。今度私も行きたいな」

「この俺がアイツに負けるかよ。乃亜にも負けないぞ」

「森君と三人で行く?」

「は?じゃあ行かねえ」

「あははっ。うそうそ、ふたりで行こっ」

「絶対ふたりな」


 コンビニへ着くまでたった数分なのに、陸といると、心が忙しくてしょうがない。

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