⑥
凛花と別れた後、万が一の可能性にかけてコンビニや公園へ寄ってみたけれど、陸の姿はなかった。そんなことをせずに電話でもすればいいのだろうけど、今日だけはしたくない。約束なんかじゃなくて、逢いたい気持ちが重なりたいんだ。
もどかしさを抱えたまま帰宅もできず、川辺を歩く。ベンチに腰掛け、携帯電話を取り出して、今日撮影したたくさんの写真を見返した。その中には成人式まで会わなそうな友人も、ちらほらと写っていた。
「なのになんで陸とは撮れないのっ」
写真を捲れば捲るほどに、フラストレーションは溜まっていく。悔しいけれど、素直になろう。
私は陸のアイコンをタップした。
『今どこにいるの?』
✴︎
シャワーを浴び終えた夜八時。ようやく携帯電話が鳴る。
『今帰ってきた、何』
今の今まで、陸は私のことなど気にしていなかった。そう思ってしまえば腹は立つ。
『あっそ。もういい』
作成するは冷たいメール。何故なら私は知っているから。陸は私の機嫌が悪くなると。
『今、家?』
すぐに、反応するって。
「俺、何かした?」
マンションの下まで駆けつけた陸は、若干面倒くさそうだった。
「べつに。何もしてないんじゃん?」
「じゃあなんで怒ってんだよ」
大きな溜め息を吐いて、柱にもたれかかる陸。そのままズズッとしゃがみ込む。
「悪かったよ返信遅れて。ダチ等とあのままファミレス行って飯食ってたら、すんげー時間経っちゃって。気付いた時にはもう、電池がなかった」
べつにいいのだ。陸には陸の大切な時間があるのだから、返信が遅くなったことくらい。
「ごめんな、乃亜」
私がつむじを曲げたのは、そこじゃない。
「制服……」
「制服?」
「陸、もう制服着てないじゃん」
「だって家帰ったし。って、乃亜もじゃん」
陸の目の前で、私も膝を折り曲げた。
「制服で、写真撮りたかったの……」
「え」
「中学生最後の日に、同じ制服で、陸と並んで写真撮りたかったの」
ぽつりぽつりと伝えると、陸がふふっと微笑んだ。
「そんな理由で、怒ってたの?」
恥ずかしくて、足下に目を落とす。
「撮ろうよ」
しゃがんだまま、器用に隣へ来た陸は、携帯電話をカメラのモードへ切り替えた。
「え、今?やだやだっ」
「撮ろうって言ったの乃亜だろ?」
「だってもう、制服じゃないしっ」
「いいから、もっとこっち来て」
陸の腕が、私の肩に回される。思えばツーショットの写真なんて、小学校入学式以来かもしれない。
「乃亜笑えー」
画面に写る陸と私。なんだか照れ臭い。
「なんかお前ぎこちないけど、まいっか」
一枚撮り終え、ふたりで見入る。望んだ制服姿ではないけれど、夜の中くっつきながら撮影したこの写真は、恋人同士のようだった。
「よしっ。じゃあ行くかあ」
伸びをしながら立った陸。ぽかんとする私を見下ろして、白い歯を見せてくる。
「行くってどこに?」
「卒業の日の思い出作り」
「もう卒業したじゃん」
「ばーか。家に帰るまでが卒業式だ」
「もう、一回帰ったじゃん」
陸は「うるさい」と口を尖らせて、私の手をとって起こす。そしてそのまま走り出した。
「ちょ、どこに行くの!」
「いいからっ」
繋がった手と陸の背中。私はそのふたつを追いかけた。




