⑤
卒業式のリハーサルばかりがやたらと増えたかと思ったら、本番の日はすぐに来た。
仲間の半分以上が同じ学校に進学する小学生の時とは違い、中学の卒業がこんなにも切ないとは。
「あー、終わっちゃった!中学生活、結局彼氏できなかった!」
卒業証書の筒で腿を叩きながら、凛花は空に向かって嘆いていた。同級生や先生との写真撮影も終わり、皆が談笑している校庭。この敷地から一歩外に出れば、もうここへ通うことはない。そんな想いからだろうか、校庭の賑わいは、なかなか収まらない。
「凛花、恋人作りは高校で頑張ろう!彼氏できたら報告ね!」
「そっちこそ彼氏できたらちゃんと言ってよ。この前みたく、事後報告なしだよ」
「あははっ。了解」
そんなやり取りをしている最中も、私の黒目は校庭中を駆け巡っていた。
「乃亜ー」
名を呼ばれて、振り返る。
「勇太君」
わいわい群がる男子の輪を抜け、勇太君が駆けてきた。
「乃亜、写真撮ろう?」
「うん。私の携帯でも」
いらぬ配慮をした凛花がカメラマン役を買って出て、手際よくシャッターを切る。
「ありがとう、凛花ちゃん」
撮影が終わり、携帯電話を受け取る勇太君。
「菊池勇太の高校はけっこう遠いんだっけ。もうあんまり会わないと思うけど、元気でね」
「凛花ちゃんも元気で。バスケ頑張ってね」
彼の笑顔は、桜ともよく似合う。
「乃亜も、元気で」
そう言って、差し出される手。
「勇太君も」
その手を友達としてとったのは初めてだったけれど、今日の握手が一番しっくりときた。
「そろそろみんな、校庭出てくね。私達も出る?」
疎らになってきた生徒を見て、凛花が言った。役立たずな私の黒目は、未だに目当てを発見できずにいる。
「乃亜、誰か探してるの?」
「陸って、もう校庭出ちゃったのかなあ」
「陸?陸なんか近所なんだから、いつでも会えるでしょ。お別れ言う必要なくない?」
「そうだけどさ」
「本当、あんた達の幼馴染愛はすごいね」
勇太君でさえ気付いた私のこの気持ちを、凛花はとうとう三年間知らぬままに終わった。
「やっぱいいや。帰ろっか」
後ろ髪を引かれたが、この場を離れることを決めた。
校庭からコンクリートに変わるギリギリの位置に立ち、凛花が言う。
「いっせーのせで、この線越えない?」
「うん」
「行くよ」
「「いっせーのっ──」」
さようなら、中学生の自分。
「「せ!」」
グレーの地面に着地して、ゆっくりと後ろを振り向けば、校舎はもう懐かしく思えてしまった。
「ばいばい中学!今までサンキュ!」
凛花は少し、涙ぐんでいる。私も叫んだ。
「いっぱい青春をありがとう!」




