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 桃色の御守りに書いてある神社名を頼りに、私は隣町へと来た。手にすっぽり隠れるほどの小さな御守りに、小さな鈴。チリンと最後に鳴らしてみた。


「ではこちらで、大事に納めさせていただきます」


 ネットで調べた御守りの返納方法。専用ボックスが備え付けられているところも多いらしいけれど、それ以外は直接、社務所に持って行けばいいらしい。


 ズラリと並んだ願掛けグッズ。ここで悩み選んでくれた、勇太君の姿が目に浮かぶ。


 空が赤くなる。今朝から破裂しそうだった心臓も、今は穏やかだ。いつか大人になって中学生活を振り返る時、ここで見た茜色を、私は鮮明に思い出すのだろう。



✴︎

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 合格発表後、初めての週末。父と奈緒さんが揃って家にいるタイミングで、試験の結果を伝えてみた。


「やったじゃない乃亜ちゃん!」


 拍手と共に喜んでくれる奈緒さん。一方の父も競馬新聞は閉じなかったが、私の顔を見て「頑張ったな」と言った。


「制服の採寸とかしに、学校行くのよね?昼間ならお店の前に私──」

「大丈夫だよ。ひとりで行ける」

「……そっか。じゃあ必要なお金がわかったら、お父さんにちゃんと払ってもらってね」


 彼女は父の背中を軽く叩く。「はいはい」という父はまた、新聞に目を落とす。そんな彼に微笑むと、彼女はどこかそわそわし始めた。


「乃亜ちゃん。今日のお昼、みんなで一緒に出かけない?」

「え」

「近くにフランス料理屋さんができたの。みんなでランチでもしましょうよ」

「い、いいの?高くない?」

「いーのいーの!お父さんが出すわよ。ね、お父さんっ」


 彼女はまた、父の背中を叩く。彼はゆっくりと新聞を閉じた。


「そうだな、行くか。乃亜のお祝いだし」


 そして、私のことを見た。


 最近、感じ始めたことがある。奈緒さんがいるといないとでは、家の空気が少し違うことだ。父とだけでは弾まぬ会話も、彼女が間に入ればなんだかんだで繋がったりもする。少なくとも、話題に困るということはない。



「何着て行こうかなあ。スカートにしようかなあっ」


 鏡の前、服を選ぶ奈緒さんの姿。彼女は父と私と過ごす時間を嬉しく思ってくれている。だから彼女がいるだけで、雰囲気が変わる、明るくなる。


「おばさんのワンピース姿は、誰も見たくないわよねえ?」


 長いこと今日の一着を決められぬ奈緒さんは、初デート前の乙女のよう。私は見たままの感想を素直に伝えた。


「ワンピース似合うよ。可愛い」


 その言葉に彼女は照れ笑い、手にしたワンピースと鏡に映る自分をチェックする。そして私の方を振り向き言った。


「じゃあ、これにしようかな」


 初めて天国の母に報告がしたいと思った。私の家に、奈緒さんという人がいるよって。お母さんも、もしかしたら嫌いじゃないかもよって。

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