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「うっわ!乃亜のクマやっば!」


 自転車で私を追い抜かそうとした凛花が、私の顔を目するやいなや、急ブレーキをかけて止まる。

 今日から新学期。高校受験の入試日は、もうすぐそこまで迫っていた。


「昨日も、三時まで勉強してたから……」

「三時って夜中の!?超ヤバイじゃん!」

「そろそろ追い込まないと、ほんと落ちる……」

「もう今月だもんね。緊張するねっ」


 年が明けてからというもの、寝不足の日々を送っていた。



「うっす……」


 気怠そうな声に後ろを向くと、その声の持ち主にも青いクマ。


「陸、ねっむそー」

「うん。めちゃんこ眠い」


 私達ふたりの欠伸を見ながら、凛花が言う。


「駆け込みタイプだね、あんた達っ」


 駆け込めるかどうなのかも、不安な毎日だ。


 自転車から降りた彼女は、陸の隣でカラカラひいた。


「陸、受験の日一緒に行こうよ。陸も妙海でしょ?」

「ん?ああ」

「当日ひとりぼっちは嫌だし、陸と同じ学校でよかったあ」

「凛花はひとりでも圧があるから大丈夫」

「は?それどういう意味っ。てか当日、何時にする?」


 ふたりのその会話に入っていけぬ私は、ただそれを、耳にしていた。


✴︎


 放課後。図書館で勇太君と待ち合わせた。


「乃亜大丈夫?始業式も、けっこう眠そうだったけど」


 半分も目が(ひら)かぬ私に、彼は眠気覚ましのガムをくれた。


「ありがとう。すっかり冬休み中に昼夜逆転しちゃった。早く治さないとなあ」

「試験は午前だから、朝にモチベーション持って行った方がいいよ」


 窓際の席に並んで座り、参考書を開く。


 受験までもうすぐということは、こうして彼とふたりで会うのも、あと三週間もしないで終わりということだ。


 受験が終わるまででもいい……その時までに乃亜の心を救えない情けない男なら、そんな奴、手放してくれていいから。


 勇太君の言葉を思い出す。

 彼を情けない男だと思ったことは一度もない。ただ私が、彼を本気で好きになれなかった。

 思えば去年の夏からずっと、私の隣には彼がいた。幼馴染でも親戚でもない彼とは、中学を卒業すればほとんど会わなくなるだろう。受験後別れたら、そこで終わり。気まずさを乗り越えて友達に戻る、なんてこともないかもしれない。


「乃亜」


 勇太君に名を呼ばれ、現実に引き戻される。


「ボーッとしてる。やっぱ眠いんだね」

「ああ、うん……」

「今日は早めに切り上げよっか。家でゆっくり休んでよ」


 本当に、終わりだ。

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