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 塾のある大通りから、一本外れた路地を歩く。私は勇太君の前を進んだ。


「路地に入るだけでも全然人通り違うね。クリスマスでも、塾にはたくさんの生徒がいるの?」


 ポケットに手を入れたまま横顔で聞くと、彼は少し俯いた。


「乃亜、こんな薄暗い路地なんかじゃなくてさ、公園でも行かない?」


 上目でそう言われ、私は首を振る。


「どこでもいいけど、ここでいいよ」


 冷たい言い方だなと、自分で思った。


 早足で私へと追いついた彼は、私のポケットを見て何か言いたげだったが、口を噤んだ。代わりに私が喋る。


「今日、無理して会わなくてよかったのに」


 彼はきょとんと私を見た。


「無理?」

「本当は忙しいけど、クリスマスなのに私と会わないのも悪いなって思って、無理して会ってくれたんじゃないの?」

「そんなことないよ。俺はただ、乃亜と過ごしたかっただけ」

「こんな僅かな隙間時間使って会ったって、過ごしたって言えないよ。予習や復習だってしたいだろうし、もう塾に戻れば?」


 昨夜の父のことを引きずっているのか、義務で私との時間を過ごされた感覚に陥った。彼の哀しそうな顔を見て、また自分が嫌になる。


 彼はぽつりと呟いた。


「これ、プレゼント」


 同時に小さな紙包が現れた。テープを外し、自身の手の平に中身を出す彼。鈴がついた桃色の御守りが目に入る。ポケットから出した手で、私はそれを受け取った。


「合格、祈願……」

「乃亜に無理言って俺の恋人やってもらってるから、クリスマスプレゼントなんか何あげても重い気がして悩んでたんだけど、御守りなら受験終わったら身に付ける必要もないし、負担にならないかなって」


 白い息を吐いた彼は、自身を笑った。


「いつフラれてもおかしくない、頼りない彼氏だけどさ、乃亜と恋人でいられるうちは、贈り物だってしたい。今日は少ししか会えないのに、わざわざ寒いとこ足を運ばせちゃってごめんね」


 こんなにも哀愁漂う彼なのに、この場が暗くならないよう努めてくれている。

 陸と一緒に彼を裏切った時も、別れを告げた時も、そして今も。この人は何故私を責めないのだろう。ただただ、愛をくれる。


 彼のコートの袖を掴んで、今度は私が俯いた。


「勇太君。私、勇太君にプレゼント用意してないよ……」

「そんなのいいよっ。俺が勝手にあげたかっただけ」

「ごめんね、勇太君……」

「気にしないでよ」


 何か彼にしてあげたい。その思いが行動に出たのかもしれない。


 思い切り抱きついた勇太君のコートは冷たくて、細やかな温もりも感じられなかった。戸惑う彼が私の首元に回した腕も、とても冷たかった。

 チリンと手元で小さく鳴るは、御守りの鈴。喧騒離れた寂しい路地で、チリンと何度か鳴っていた。



✴︎

 ✴︎

✴︎

 ✴︎

✴︎



『あけましておめでとう!乃亜ちゃんも一緒に、初詣行かない?』


 アイドルのカウントダウンコンサートの映像を眺めながら微睡んでいた私に届いたのは、楓のメール。風呂上がりの湿った髪へ乱暴にドライヤーをあてて、スウェットの上にブルゾンを羽織った。玄関の扉が閉まるその隙間から、奈緒さんの声が聞こえてくる。


「こんな時間にどこ行くの?」



 マンションの下には、鼻の赤い陸がいた。


「陸。なんでいるの?」

「なんでって。楓が乃亜も初詣行くって言うからさ、迎えに来たんだよっ」

「こんなに近所だし、ひとりで行けるのに」

「ばか、夜中だろ危ねえよ。お前来るの遅すぎて、まじで凍え死ぬかと思った」


 鼻が赤い理由は寒いからだろうけど、耳が赤いのは、そのせいではないかもしれない。何故なら私も陸を一目見たその瞬間、照れてしまったから。


「新年早々、私の格好真似すんなし」

「うっせ。乃亜が俺の真似したんだろっ。もうちょっとお洒落しろよ」

「あー、出たっ。男はいいけど女はこうあれ的な、最低発言っ」

「ち、ちげえよっ」


 同じ色のスウェットに、これまた同じ色したブルゾン。なんだか体が痒くなる。

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