表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/96

 陸の家へと勝手に行こうが、偶然会おうが、私が帰ると言えば、陸は必ず家まで送ってくれる。そして彼といる時は、遠回りの川沿いコースが多い。


「乃亜に会えてよかった。ゼリー届けにピンポンしようかと思ってた」

「電話くれればいいのに」

「電話は勇太が出る可能性があるだろっ。あれ以来、トラウマ」


 陸はぶうっと頬を膨らませてみせた。


「あ、あの時はたまたま勇太君に携帯預けちゃっててっ。ごめんね、もうないから」

「絶対?」

「絶対っ」


 重そうな袋を持つ手を肩に乗せて、陸は笑った。


「手術の日、決まったの?」

「決まった決まった、明日」

「おい明日かよ、報告しろよ。ゼリーこんなにいらなかったじゃん」


 拗ねる陸の横顔の向こう、目を奪われるほど美しい赤に、足が自ずと立ち止まる。


「わあ、綺麗な夕陽……」


 陸も足を止めて、それを見た。


「ほんとだ。真っ赤だな」


 あの夕陽が沈めば、きっとすぐに明日はやって来る。ちょっと待ってはもうきかない、お腹の子とは、ばいばいだ。


「陸」


 水平線が太陽のてっぺんを隠したその瞬間、私は陸の名を呼んだ。


「明日が終わって体調が戻ったら、陸の家に行ってもいい?おばさんと楓にもお礼を言いたい」


 陸は「今更?」と前置きをしてから言葉を続けた。


「うちに来るのに許可とかいる?お礼もべつにいらんし。乃亜は家族同然じゃん」


 ふふっと私が微笑めば、陸も小さく笑みを溢す。


「ちょっと休憩」


 ゼリーがたっぷり入った袋を地面に置いて、陸は土手の段差に腰掛けた。私も隣に座り、太陽が残した()の色が、段々と薄れていくさまを眺める。


「勇太と殴り合った理由、アイツから聞いたっしょ?」


 陸は自嘲気味に言った。


「聞いてないよ」

「まじかよ、聞いてないの?」


 頭をがしがし掻く陸は、ばつが悪そうだ。


「乃亜と寝たこと、バレた……」

「え」

「墓穴掘ったわ、ごめん」


 その時抱いた陸に対する怒りは手に負えないものではなく、むしろスーッとすぐに、姿を消した。


「いいよ、しょうがない」


 あっけらかんとした私の態度に、陸は亀の如く首を出す。


「怒んねえの?」

「それで勇太君が私に幻滅してくれるなら、お互いすっぱり別れられていいかな。ほら、あっちだって未練がない方がいいでしょ」

「そういうもん?」

「そういうもん」


 辺りが暗くなる。頬を撫でる風も冷んやりとしてきた。


「そろそろ行こっか」


 そう言って腰を上げた私に、陸がこんな質問を投げてきた。


「乃亜と勇太が別れたら、俺、お前に告白していい?もちろん、ゲームじゃないやつ」


 夜に近い空の下、曇りのない陸の瞳から彼の決心が伝わった。イエスとも言えず、ノーとも言えず、私は曖昧に俯くだけ。


✴︎


 たくさんのゼリーを冷蔵庫に入れると、空っぽだった庫内が鮮やかに彩られた。


「ずっとこのままでいようよ、陸……」


 そう呟いて、ひとつを取って。静かな部屋で、ひとりで食べた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ