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 その日の夜。勇太君の家を訪れて、彼のご両親に事情を説明する。彼の母は「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も私に頭を下げ、父は彼を怒鳴っていた。


 私の父はといえば、平日の夜なんてどこかで呑んでいるに決まっていて、私の電話には出なかった。けれど勇太君の家の固定電話からかけた途端、たったワンコールで「はい」と出た。知らぬ番号はビジネス関係かもしれない。父はきっと、そう思ったのだろう。


 勇太君のご両親は、私の自宅まで出向いてくれた。ほろ酔いで帰宅した父に妊娠した事実を話しても、中絶費用ばかりを気にされて、気が滅入る。それでもただひとことだけ──


「乃亜。体は大事にな」


 と、親らしいことを口にしていた。それが本心なのか建前なのか、父にしか知り得ない。勇太君のご両親は、終始平謝りだった。


 マンションの下で三人の背中を見送っていると、勇太君だけ反転し、こちらに向かって駆けてくる。


「どうしたの?忘れ物?」


 私がそう聞くと、彼は少し切れた息を整えながら「少しだけ話せる?」と言った。


 一番星がひとつ瞬く空の下、近所の広場のベンチに座る。


「乃亜、今日はありがとう。なんか丸一日かかっちゃったね。体調大丈夫?」

「平気だよ。こっちこそ勇太君のご両親にわざわざ来てもらっちゃって、ありがとう」


 勇太君の口元は微笑んでいるのに、瞳には悲しみの色が見てとれた。


「俺達が大人だったら、この子の未来は変わっていたのかな……」


 私のお腹に手をあてがった彼は「悔しい」と歯を食い縛った。この人は命の尊さを知っている。お腹の上の彼の手に、私も自分の手を置いた。


「ねえ、勇太君」

「うん?」

「この子の父親が、勇太君で良かった」


 その言葉で、彼の瞳が揺蕩った。


「心の底からちゃんとこの子を想ってくれる、勇太君で良かった」

「乃亜……」

「勇太君ってほんと、すごいねっ」


 広場では、キンモクセイの香りが漂っていた。だけど突然、勇太君の匂いしかしなくなった。


「勇太、君……」


 それは、彼が私を抱きしめたから。


 彼の腕の中は、秋の夜にも関わらず熱かった。そして、そのタイミングでどうしてだか。


「乃亜?」

「は、吐きそうっ」


 つわりが私を苦しめる。

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