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 勇太君とは別れよう。そう決めた。


「え!別れんの!?」


 デリカシーに欠けた声が、放課後の階段で反響した。


「ちょっと凛花、声大きいっ」

「だ、だって昨日の感じだと、もう少し様子見るのかなあって思えたから」


 凛花は腕を組んで、怪訝な顔。


「自分のキスマークが残ってる彼女に別れなんて切り出されたら、菊池勇太、超へこむんだろうね」


 とんとんと首筋の絆創膏を突ついてきた彼女の手は、勢いよく払い退けた。ここにはふたりの痕があるのです、とは口が裂けても言えない。


「勇太君のことを考えると、伝えるのは体育祭が終わってからかな」


 その言葉に、彼女はあんぐりと口を開けた。


「は?あと二週間は付き合うってこと?」

「だって勇太君、ただでさえ普段から塾や学級委員で忙しいのに、体育祭の仕切りも任されてるんだよ?今は切り出すタイミングじゃないと思って」


 でしょ?と肩を竦めたが、彼女は解せぬと言わんばかりに顔を顰める。


「なあんかそれ、残酷な優しさだね」


 しっかり呆れられたところで、階段下から声がした。


「乃亜、そこにいるのー?」


 爽やかボイス。この声の持ち主は、疑わずとも勇太君。彼の足音が近付いてくる。


「あ、やっぱ乃亜だ。と、凛花ちゃん」


 手すりにかけられた手に続いて、彼の笑顔が現れた。凛花はすぐさま立ち上がる。


「ご、ごめん乃亜、先帰るね!勇太君もばいばいっ」


 突然のご本人登場にばつが悪くなったのか、彼女は脱兎の如く消え去った。私はそんな彼女に手を振る余裕もなし。聞かれてはまずい話しかしていない。


 ガチガチに固まった私の横に、腰を下ろした彼は言う。


「ごめん、せっかくの女子会邪魔しちゃったかな。乃亜の声が聞こえたからさ」


 微笑んだ彼を見て、おそらく内容までは聞き取れていないと判断し、胸を撫で下ろす。


「勇太君、まだ下校してなかったんだ」

「うん。体育委員と体育祭の段取りについて話してた」

「そっか。大変だね」

「意外とやること多くて、参ってるかも」


 彼はそう言うと、ことんと私の肩に頭を乗せた。


「あーあ、早く乃亜に癒されたい。なのに今週は忙しいんだよなあ。来週の火曜日、空いてる?」

「うん。空いてると思うけど」

「じゃあ、俺の家に来ない?」


 その瞬間、昨日の陸の泣き顔が、脳を掠めた。

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