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①①

 動けず帰れず、座り込んだままでいると、陸の強い声が降ってきた。


「行くぞ」


 手を引っ張り、私の体を起こす彼。そして足早に進んで行く。


「え、行くってどこに……」

「俺んち」


 目も見ずに答えた陸の手に握られた、小さな茶色い紙袋。まさか、と思う。


「何、買ったの……?」


 陸は無視して歩き続ける。今すぐ足を止めたいのに、彼の引力は強い。


「ねえ陸っ。何買ったの!」

「ゴム」


 たったのその二文字が、これから私達がする行為を予感させてしまう。


「陸なんで……」


 何を問えど、陸は一切答えなかった。



 ガチャガチャと鍵を開ける陸の背中にもう一度聞いた。


「陸、落ち着いて?何する気……?」


 玄関へ強引に引き込まれると、扉はすぐに音を立てて閉まった。薄暗い静かな家は、いつもの陸の家ではないみたいだった。


 無言のままの陸は私を自身の部屋へと導いて、ベッドに座らせる。紙袋を枕元へ放ると、私に覆いかぶさるかたちで一緒にシーツへと倒れていった。


 目と鼻の先にある陸の顔に、私はまた聞く。


「何するの、私達……」


 長い間幼馴染をしている私達の顔が、こんなにも近付いたことはない。


「乃亜と勇太がしたこと」


 ようやく口を開けた陸はそう言うと、自身の唇を私の唇に押しあてた。熱を帯びた手が背中に回されて、ピリリと電流が走り抜ける。

 抵抗などする気もないくせに、私は言葉だけで嫌がる素振りを見せた。


「やめて陸っ。こんなのおかしいっ」


 頬も耳朶もその唇で愛でられて、過敏に反応する体。


「陸、ダメだよっ!」


 私のその声で、陸は潤んだ瞳をこちらに向けた。


「なんで……勇太なの?」


 心から傷付いた顔だった。


「なんで好きでもない勇太の告白はオッケーするのに、俺は何度告白してもフラれるの?俺のこと、そんなに嫌い?」


 陸が瞬きをした途端、彼の目からひと粒の雫が落ちてきて、私の頬にぽたんとかかる。


「それなのに、なんでっ……」


 二粒、三粒。四粒目で、陸は大きく息を吸った。


「なんで騎馬戦の時、アイツのことを応援しねえで、俺を応援するんだよっ!」


 陸を追い詰めたいわけではないのに、どうして彼の笑顔を損なうことばかり、私はしてしまうのだろう。


「もうお前まじで意味わかんねえ!捨てるなら捨てろよ、俺のこと!」


 陸には側で笑っていて欲しい。ただそれだけなのに。


 震えたふたつの唇が、今度はゆっくり重なった。頬を伝う陸の涙がしょっぱくて、彼の悲しみが私の中にも入っていく。


 今にも飛びそうな意識の中、耳の底で陸の吐息を聞いていた。


「乃亜」


 瞳をぎゅうと閉じれば名を呼ばれ、瞼を開けて、目が合って。愛おしさが募る。

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