⑨
その日の放課後。凛花の塾までの隙間時間。私達はファーストフード店で小腹を満たす。
「凛花、そんなに食べたら眠くならない?」
彼女は体型に似合わずもともと大食いの方だが、今日は一段と食べていた。
「あのダンスのせいで、グーグーよ」
私は夕ご飯代わりの、ポテトLサイズ。
「それよりさあ、乃亜は菊池勇太と順調なんだよね?」
ハンバーガーを頬張りながら、彼女は聞いた。
「ぶっちゃけ心配だよ、そんなに好きでもない人に体を許したのかと思うと。菊池勇太といる時の乃亜は、ちょっと緊張してる気がするし、今日の騎馬戦は応援もしなかったし」
ポテトで口を塞ぐ。順調なのかどうなのか、それはどのものさしで測ればいいのだろうか。
「本当に好きだから、だから菊池勇太丸ごと受け入れたって思って、いいんだよね?」
イエスオアノー。不安げに揺蕩う彼女の瞳には、彼女が思う正解をあげたい。
「勇太君の愛、大き過ぎて返せないの……」
でも、それはできなかった。
「大き過ぎて、受けるのが精一杯で、全然返せないの……」
だって勝手に、涙が落ちたから。
「返せないのが申し訳ないの。好きかどうかもわからないし、こんなの、別れた方がいいよね……?」
テーブルに置かれた私の手の上に、凛花は手の平を重ねて言った。
「乃亜。菊池勇太はあんたの初めての、大事な相手でしょ。乃亜がもし今までの奴と同じって思うならすぐ別れればいいと思う。でも、今までの奴とは違うって少しでも思うなら、もし少しでもそう思うなら、もうちょっと様子を見てもいいんじゃないかな?」
過去に付き合った人と比べるつもりはないけれど、勇太君がくれる愛は誰よりも大きい。
「あんたのその涙が菊池勇太を想って流れてるなら、もう少し考えてもいいと思うよ」
凛花が塾へ向かった後も、私はひとり、店内に残ってシェイクを啜っていた。
窓の外を眺めながら、豪快に落馬していた陸を思う。
「陸、大丈夫だったかな……」
指は、携帯電話の画面を走った。
『陸、大丈夫?』
そう送れば、返事はすぐにきた。
『何が』
『騎馬戦』
『だから、騎馬戦の何』
平気なようだ。
『やっぱいいや』
『はあ?ていうかそれより』
『え?』
『今どこ?』
✴︎
私がコンビニへ着くと、陸は壁沿いでチキンを咥えていた。
「こんな時間にそんなもん食べてたら、夕ご飯食べられなくなるよ」
陸が腰を下ろしていたから、私も隣に座る。
「仕事長引くって親から連絡きたから、晩飯は八時以降。よって、今チキン食っても大丈夫」
「じゃ、楓の分も買って行ってあげなよ」
「楓はまだ友達んちにいるとかで、帰ってきてねーわ」
「ふぅーん」
地面に落ちている小石を拾い、私はコンクリートに落書きをした。何を描きたいわけでもなかったけれど、手持ち無沙汰だったからなんとなく。
一本二本と線を引いていると、九本目の線で陸は言った。
「首のとこの絆創膏、どうしたの?」




