⑥
自宅マンションの下まで着くと、別れ際に陸は言う。
「いつでも寂しかったらうち来いよ?楓もいるし、母さんも喜ぶし。乃亜のこと、だいぶ心配してっから」
「うん。ありがと」
手を振って、自動ドアを解除して、中に進む。
「あ、あとっ!」
すると、まだ何か言いたげな陸が叫んだ。閉まりきったドアの向こう側で、私の手元を指さす陸。何かと思い手提げを覗くと、そこには彼がさっきまで食べていたチョコが、半分以上残ったままに入っていた。
「や・る」
唇だけでそう言うと、陸は笑顔で手を振った。
「ふふっ」
コンビニで手が触れた時から。
「あははっ」
その時から陸はこの計画を思いついていたのかもしれないと思うと、エレベータの中、なんだかひとり笑えてきた。
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「お母さん。天国は本当にあった?痛みはない?辛くない?お母さんに逢いたいよ」
いつでも私は乃亜の側にいるわよ。いつもいつも、乃亜を見てる。乃亜、幸せになってね。
母の夢は、定期的に見る。病気で苦しんでいた最期とは打って変わって、夢の中での彼女はいつも笑顔だから、目覚めた時には泣いてしまう。もっと夢の中にいたかったって。
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「乃亜、今日の放課後は、一度家に帰ってからうちに来る?」
勇太君は、今日も爽やかだ。
「うん。家にある問題集取ってから行くね」
彼が私の首筋に痕を残して以来、今日は初めて彼の家に行く。警戒してしまう、身構えてしまう。そんな自分を必死で隠す。
「糖分補給しよー」
勉強がひと段落すると、勇太君は可愛らしいケーキをふたつトレーに乗せて運んで来た。
「何このケーキ。美味しそう」
「これ、この前行ったカフェのケーキ。さっき乃亜が家に帰っている隙に、買ってきたんだ」
「え、二駅も先なのに?わざわざ電車乗ったの?」
「うん。昔食べて美味しかったのを覚えてたから、乃亜にも食べて欲しくってさ。乃亜がうちに来る一分前に、俺も滑り込みで帰って来た」
あははと屈託なく笑う彼。この人を本気で好きになれたなら、どれだけ幸せなのだろうと思う。




