⑤
いつものコンビニで、今宵の飯を選ぶ。パンやおにぎりをカゴに入れ、最後に寄るのは菓子コーナー。ひとつに目標を定めると、棚へと手を伸ばす。
「あ、すみませんっ」
ふいにその手とぶつかった手の持ち主に頭を下げると、そこには陸がいた。
「のーあっ。何やってんの?」
耳から耳まで白い歯を見せて戯ける彼に、教室で抱えた不安が一気に失せた。
私のカゴに目を落とした陸は、目を丸くさせてこう言った。
「うっわ、もしかして晩飯?しけたもん食ってんなあー。栄養にならんぞ」
「か、勝手に見ないでよっ。そしてそのチョコ、買いたいから返してっ」
陸の手には、先ほど私が狙いを定めた菓子箱が握られていた。彼は「これか?」と嫌味たらしくそれを揺り動かす。
「俺も食いたいからやだ」
「はあ!?最後の一個じゃん!返してっ」
「やだねー」
ヘソを曲げる私などお構いなし。陸はスタスタとレジへ進んだ。
会計を終わらせ店を出ると、先に表へ出ていた陸が、犬のように戦利品を咥えていた。
「チョコ泥棒……」
キッと睨んでから家路を行く。陸は後をついて来る。
「乃亜。うまいぞ、これ」
「あっそ。性格悪っ」
「はははっ。くっやしそ〜」
そんなやり取りをしているうちに、陸は自宅を通り過ぎた。
「どっか行くの?」
「夜だし送ってあげようと思って」
意地悪なんだか優しいんだか、彼は時折掴めない。
「晩飯買ってるってことは、親父さんまた遅いの?」
敗者の隣で堂々とふたつ目のチョコを頬張って、陸は聞く。やはり意地悪だ。
「そうっ。今日も明日も明後日も、一週間はコンビニご飯っ」
「そっか……」
陸の声は、僅かに暗くなったかもしれない。心配をかけたかなと思ったその時、ピコンと携帯電話が鳴った。
「メール?」
「うん、勇太君だ。塾終わって今から帰るって」
そのメールに私が返信している最中の陸は、ずっと無言だった。
「私も、勉強しよっと」
マナーモードに切り替えた携帯電話をポケットに戻して、私は言った。
「どうした、急に」
「みんなが頑張ってる中、焦ってるのは事実だし。そろそろ本気で勉強やらないと」
「高校、行く気になったのな」
「行かないと漫画も貸してくれない、意地悪な幼馴染がいるからね」
「漫画の為かよ」
「そう!」と私がきっぱり断言すると、陸も「作戦成功!」と胸を張った。




