③
翌日の放課後。クラスの皆が下校した教室。
凛花とふたりきりの空間で、昨日の出来事を話すと、般若のような顔を返された。
「早過ぎっ。まだ付き合って二週間も経ってないよ」
「私も、そう思う……」
「しかもあの菊池勇太がねー。意外と女の子の扱い、慣れてるんだね」
勇太君は、初めてではなかったのだろうか。
「乃亜痛くなかった?初でしょ?」
「うーん。最初だけちょっと」
「そうなんだ。じゃあさ、その後は気持ちいいの?」
「そ、そんなの言いたくないよっ」
本当のところ、痛みが消えた途中からはよくわからなかった。恥ずかしい気持ちは終始続いていたし、緊張の糸は絶えずピンと張っていた。ただ印象に残っているのは、勇太君が私に向ける、愛おしそうな瞳。
ぽやぽやと昨日を回想していると、凛花に首を突つかれる。
「乃亜、あんたキスマークついてるよ」
その発言は、爆弾を投げつけられるほどの衝撃で、私をドカンと地中に沈めた。
鞄から取り出したミラーで慌てて確認すれば、そこにはくっきりはっきり赤い痕。
「う、嘘でしょ……何これっ。全然気が付かなかった……」
小指の指紋ほどにも満たない大きさだけれど、それでもこの位置の朱色は不自然だ。
「乃亜をジッと見なきゃわかんないよ。でも、ボタンは上まで留めた方がいいかもね」
凛花の言葉は気休めにもならず、私はただただ絶望した。
「乃亜って菊池勇太のこと、本気で好きなんだね」
頭の中、昨日の己に平手打ちをしていると、凛花がそんなことを言ってきた。
「……へ?そ、そうなの?」
「だって乃亜が付き合った今までの彼氏とはキスまでだったじゃん。それなのに菊池勇太とはたった二週間でそういう関係でしょ?それって本気で好きっていうことじゃないの?」
あのドキドキは、だからなのか?
自問しても出ぬ答えに、話を逸らす。
「歴史日本漫ガタリ、凛花も読みなよ、超面白いよ」
「話題の振り幅やっば。私、ギャグ漫画には興味ない」
「ただのギャグじゃないよ、歴史も学べるんだよ」
「そうなの?じゃあ貸してよ」
「私はいつも陸のを借りて読んでるから、今度凛花も陸に借りればいいよ」
「あんたの漫画本じゃないんかいっ。乃亜にとって本当陸って──」
彼女の言葉がそこで止まったのは、扉が勢いよく開いたから。
「俺が、何?」




