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 地元の最寄り駅に着く頃、陽は傾いていた。


「乃亜、まだ時間平気?少し喋っていかない?」

「平気だよ。どこでお喋りしよっか」

「俺の家でもいい?今日、両親遅いし」


 束の間、悩んでしまう。

 初めて唇を重ねたあの日から、定番になった彼の部屋でのキス。嫌、というわけではないが、今日はここで別れてもいいかもしれないと思った。


「今日は乃亜に、まだキスできてない」


 けれど手を振るその前に、もどかしそうにそう言われ、頷いてしまう自分がいた。



「あ、電気切れてる」


 玄関の天井を見上げながら、彼はパチパチとスイッチを鳴らす。


「暗くてごめん」

「平気平気。見えるよ」


 靴を脱いだ彼の後ろ、私もスリッパに足を忍ばせる。するとその時。


「え、ゆ、勇太君っ?」


 彼は私を抱きしめた。驚き落としてしまった鞄の中身が、床へと散らばる音がした。


「……どうしたの?」


 そう聞くと、彼は吐息混じりの声で囁く。


「今日のデート、キツかったぁ」

「えぇ、なんで」

「だって乃亜に全然触れられないんだもん。こんなに大好きな子が目の前にいるっていうのにさ」


 愛の告白を、もう一度された気がした。図書館での真っ直ぐな彼の瞳が、頭を過った。


 何も言えずに彼の胸元で縮こまっていると、彼は私を抱きしめたまま、ちょこちょこと歩き出す。


「な、なにこれ。歩きづらいよぉ」

「ははっ。もう少し我慢して」


 そうして彼の部屋へと導かれた。


 あれだけ強く抱きしめておいて、ベッドに私を横たえる時は、おもむろに静かに、まるでガラス細工でも扱うようだった。


 この先を予感して、心臓が萎縮して。けれど断る言葉を探す私の唇は、彼の唇で塞がれた。

 無意識に彼の胸板を押さえた両手。ドクドクと間髪入れずに打つ鼓動が、私の鼓動をも巻き込んでいく。


「ゆ、勇太君、私、汗いっぱいかいて──」


 彼に触れられた箇所から力が抜けて、抵抗にもならない手は彼の腕を緩く掴むだけ。


「気にならないよ」


 硬い腕、大きな手、熱い体、荒い呼吸。全てが新しい勇太君。

「大丈夫?」って聞いてくれた。「痛くない?」って気遣ってくれた。


 このドキドキは、初めてだからに決まってる。

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