②
空がオレンジ色に染まる頃、陸を誘う。
「なんだよ乃亜、昨日の話も中途半端なまんま、急に帰っておいて」
私がコンビニへ到着するよりも前に、彼はいた。
「そんな話いいから夕飯奢ってよ。私今、全財産百三十二円しかないんだからっ」
「あーあ、俺んち今日カレーだったのに!」
頬を膨らませながらも、陸は私の頭を優しく寄せる。
「乃亜の夕飯くらい、用意してから遊び行けよな親父さんっ」
ピザ味のパンを手に取って、陸に渡す。
「それだけで足りんの?」
「足りる」
「うさぎより少食じゃんか」
会計時、ポケットから出したありったけの小銭をキャッシュトレーに置くと、陸は「お釣り」と言って、百円玉二枚を私の手に押し付けた。
「陸さま、いただきます」
店の壁際にしゃがみ込み、パンで乾杯。陸は聞く。
「今日も親父さん遅いの?飲み会?」
パンを飲み込んでから、私は答える。
「そうなんじゃない?彼女の店に行くらしいし」
「彼女……ああ、スナックの経営してるっていう」
「そう。カウンター越しのナンパから始まったくせして、一緒に住むとかすごくない?」
「え、まじで?親父さんの彼女、乃亜んちに住んでんの?」
陸の口からは、ぽーんとひとかけらのパンが駐車場へ飛んで行った。
「先週だったかな?いきなり荷物まとめて来た」
「まじかよ」
「べつにこんなの、初めてのことじゃないから慣れてるけどね。今日もふたり揃って仲良く酔っ払ってるんじゃない?パンごちそうさまっ」
立ち上がって、うーんとひとつ、伸びをした。チキンを口に押し込んだ陸は言った。
「乃亜、ちょっと川行くか」
「川ぁ?」
「散歩散歩っ」
私の手からパンの袋を奪った陸は、代わりに自身の手をあてがった。