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「なんなのよお。寝かせてよお」


 私はまた、瞳を閉じる。陸は私の目の前までやって来る。


「おい何してんだよ、学校終わったぞ」

「今日一日中こんな感じだよ〜」


 凛花はまた、うちわで私を突つく。


「どうしようもねえなあ。おい乃亜、歴史日本漫ガタリ、今日うちにとりくるか?」


 そのタイトルは、私を覚醒させる魔法の呪文だ。ガタンと勢いよく椅子から立てた。


「行く!」


 陸の家の玄関前。その漫画を受け取れば、気分は高揚。


「ありがとう陸!読むの楽しみ!」


 ほんのり両耳を赤く染めた陸は言う。


「うちで読んでいけば?乃亜が家に帰りづらい日は、少しでも帰宅遅くしていけばいいじゃん。帰りは俺が送るし」


 何も聞かないくせして、私のことをちゃんと気にかけてくれている。心がぽっと温められる。


「じゃあそうしようかなっ。でも、読書の邪魔しない?」

「しねーよ、お前は素直じゃねえなあっ」


「もー」と嘆きながらも揃えたスリッパを差し出してくるから、本で顔を隠して笑った。


 漫画を読んでいるその間、陸は無言を貫いた。数十分後、私の方から話しかける。


「やばい。早く続きが読みたいんですけど」


 ゲーム中だった陸は、ポーズボタンを押す。


「まだ半年は新刊出ないぞ。続きが読めるのは、中学卒業してからかもなあ」

「遠い〜」

「意外とすぐだよ、そんなの。乃亜は高校どこ行くか決めた?」

「迷ってる」

「どことどこで?」

「違くてっ。行くか行かないかでっ」


 私のその言葉に、陸は思い切り顔を顰めた。


「は?まじかよ、行かないつもり?」

「う〜ん……どうしよっかなあ」


 再度開いた本へ目を落とし始めると、陸の声が歪んだ気がした。


「おい、ちゃんと答えろよ。どうすんの?」


 進学とか、未来とか、将来とか。そういった類の話は鳥肌が立つ。


「まだ決めなくていいじゃんそんなの。今二ターン目読んでるから、静かにしててよ」


 はあっと息をついて、壁にもたれて体育座り。膝の上でページを捲っていると、コントローラーを荒く放った陸が、その本を奪って言った。


「乃亜が高校に行くって言うまで、もう読ませない」


 私の目線でぶらぶらと、本を揺らす。


「か、返してよっ」


 咄嗟に伸ばした手はひょいと彼に容易く避けられ、空を切るだけ。


「だって何すんの。高校行かねーで働くの?お前の今後を言え」


 真剣な瞳を寄越されて、思わずたじろぐ。


「……それは考えてない、けど」

「じゃあ高校行けよ、心配かけんな」


 後ろは壁。ぐいと陸に距離を詰められれば逃げ場はなくなる。


「でも、べつにやりたいこととかないしっ」

「そんなのこれから見つければいいだろっ。高校在学中に将来の夢とか見つかるかもしれねえ。高校行っとけばよかったって、俺は乃亜に後から思って欲しくねえ」


 言い返す言葉を探す。陸を黙らせる、反撃のひとことを。


「高校、行く?」


 これ見よがしに、私の頭上で本を行き交わせる陸。私の性格を熟知した上での行動だ。


「い、行くよ、高校行く!だから返して!」


 がしっと陸の腕を掴んで動きを止めた。途端に不敵な笑みを浮かべた彼は言う。


「返せっていうか、俺のだから」


 二ターン目は、ちっとも頭に入らなかった。

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