⑦
「わっ。そのふたりで登校とか珍しっ」
人目憚らず、自転車で通学路を進む凛花。陸と私の横で速度を落とした彼女に言った。
「凛花ってばまた自転車通学っ。そろそろ見つかるよー」
「平気だって。ピャーって行けばバレないバレないっ。じゃねっ」
途端に風を切る彼女。その背中に目を奪われていると、背後から肩を叩かれた。
「乃亜っ、陸っ」
振り返ると、そこには息を切らせた勇太君がいた。
「おはよう勇太君。どうして急いでるの?まだチャイムまで余裕あるよ」
淡い色のハンカチを取り出して、額の汗を拭う彼。
「乃亜が見えたから、ついっ。今日は陸と一緒に来たんだね。俺もいい?」
そう言うと、彼は私の手を握る。陸は不快な呆れ顔。
「んだよ、朝から見せつけんなよ。俺先行くわあ」
「ちょ、陸っ」
私の声など完全無視で、陸はスタスタ行ってしまった。
「気なんて使わなくていいのにね」
そう呟いた勇太君に、私も「ね」と苦笑で返した。
「昨日の俺のメッセージ、見てくれた?」
遠くで友達と合流した陸の姿を目にしていると、横からぬっと勇太君の顔が視界に入り込む。
「き、昨日?」
「うん。夜十時頃だったかな」
昨晩十時の私は交番か陸の家か。どちらにせよ、恋人に伝えるような場所ではない。
「ご、ごめん。昨日は早くに寝ちゃってて」
「そうだったんだ。ならいいんだ」
「ごめん……」
「いいっていいって。急用じゃないし」
ごめんともう一度言いかけた私は、一体何に対して謝りたいのだろうか。
✴︎
「乃亜、寝過ぎっ」
机にうつ伏せる私の頭頂部を、凛花はうちわの柄で小突く。
「もう放課後だよ。授業中ほとんど寝てたでしょっ。夜更かしでもしたの?」
「うんー……ちょっと女子会」
こんな一日中やる気のない受験生を、同じクラスの勇太君はどう見ただろう。
まだ眠い。帰ることすら面倒くさい。
机からなかなか剥がれぬ己の頭に困っていると、ふいに呼ばれた名前。
「乃亜──」
「おい乃亜!」
一瞬、勇太君の声がした気もしたが、ズズズと角度だけを変えた顔と共に目に映るは、扉付近にいた陸だった。




