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「な、何をするんだ!」


 バサンッと投げたのは父の方面。ビールが彼の服にかかる。


「何その言い方!私だって私なりに、受験のこと考えてるんだけど!」


 父は卓を一撃、音を立てる。


「塾なんか行ったって、乃亜はすぐ辞めるだろう!」

「はあ!?」

「じゃあ今まで一体何が続いたんだ、言ってみろ!ピアノだって水泳だって、一年も続いてないじゃないか!母さんも困ってたぞ!」

「そ、それはっ」

「父さん、間違っていないだろう!?」


 大きな咳払いをした父は、台所に行くと煙草に火をつけた。換気扇に向かってぐちぐちと吐く、私への不満。


 父の意見は全くもってその通りだ。親の金であれをして、これをして、全部投げ出してきた。けれど私は子供だから、今この状況で感謝など口にできない。血走った目で私を怒鳴りつける父に、反抗したくなるんだ。


「自分だって、何も続かないくせに……」


 私のその言葉で、父は口から煙草を外す。


「禁煙も女遊びも、ずっとやめてないじゃん!お母さん苦しんでたのに!お父さんの浮気が判明してからずっと泣いてたのに!なのにお父さん、お母さんが癌になってもずっと浮気してたじゃん!お母さんが死ぬまで!」


 何も返さず戸惑うだけの父に、私はまた新聞紙を投げつけた。


「お父さんなんか大っ嫌い!」


 今度の父は手を翳すだけで、どこを殴ることもしなかった。その代わりに、目も合わせようとしない。


「……何も言わないの?」


 情けないよ、お父さん。


「それともねえ、何も言えないの!?」


 煙草がぷるぷると震えているのは、娘の豹変に怯えているのではなくて、後悔からくるものだって思いたい。


 父をひとり家に残し、私は財布と携帯電話を持って家を飛び出した。


✴︎


 コンビニのイートインコーナーには、何時間滞在していいのだろう。ここへ着いたのが夕方五時前だったから、もう三時間もここにいる。


 携帯電話の電池が残り僅かになり、充電器を持ってこなかった自分を悔いた。そして、窓際の席に座ってしまった自分にも後悔しているところだ。


 目の前の大きな窓ガラスは、陽が落ちると同時に鏡へ化けた。モノクロの自分とちらちら目が合って、反吐が出そうになる。


『乃亜ちゃんは、お母さんそっくりね』


 親戚や保育園の先生に、そうやってよく言われていた。


『大きくなったら、お母さんみたいになるのが想像つくわ』


 って。


 母は美人だったし頭も良かったから、私は彼女のようになりたいとずっと思っていた。


「それなのに、何この醜い自分……」


 ガラスの中。自分の顔。


「超ブッサイク」


 マジックで塗りつぶしてしまおうか。


 母に似て生まれたところで、お前は母にはなれないんだよ。勉強を頑張る、塾に行きたい。何を言っているんだ、どうせすぐ投げ出すくせに。高校なんか行かなくたっていいじゃないか。勉強なんか、大嫌いなんでしょう?


 そう訴えかけてくるモノクロの自分から逃げたくて、私はテーブルにうつ伏せた。

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