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「乃亜って好きな奴いる?いないなら俺と付き合ってよ」
中学三年生の夏休み、連日熱帯夜。周りは皆、受験勉強で忙しなく過ごしているというのに、私と陸は夜空の下、コンビニの傍でアイスを頬張っていた。
「陸、垂れてるよ」
「わ。やっべー」
コーンを伝うアイスを舌で掬う陸。変てこな顔に、少し笑う。
「どうせまた、罰ゲームでしょ?」
クラスの男子が考案したゲームの延長線で、過去に何度も愛を告げてきた陸の「付き合って」は、もう信じないと決めている。
ぽりぽりと頬を掻いて、陸は言う。
「今回はそのお……罰ゲームじゃないんだ」
陸の耳はほんのりと赤かったかもしれない。でもそれは、勘違いかもしれない。
「なあ、乃亜」
真剣な眼差しを寄越されて、思わず息を飲む。
「お前のことが好きなんだ。本当に」
陸の向こう、夜空の中。大きな夏の大三角。
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「乃亜ちゃん、お湯沸いたわよ」
翌朝。ポンッというケトルの合図と共に、奈緒さんは言った。
「コーヒー注いじゃうね」
半袖でも汗ばむこんな朝でさえ、私はホットを好む。
パジャマ姿のままに食卓へ着くと、コトンと置かれたマグカップ。奈緒さんは対面に腰を下ろした。
「今日の夕ご飯、何か作っておこうか?お父さんは、私のお店に来るって言ってたから」
「いいや、悪いし。適当に買って済ますよ」
「そう……夕飯代、ある?」
「うん。先週お父さんにもらった残りがまだあるから」
湯気立つコーヒーに口をつけ、私は興味もないワイドショーへと目をやった。