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第四十一話 理不尽な世界

「勝った、の……?」


 先程までの魔力の渦が嘘のように静まり返る。


 パッと顔を上げると、ちょうどアイザックもこちらを見ていたようで、唇と唇が触れそうなくらいの至近距離に彼の顔があった。

 あまりの近さに思わず私はガバッと勢いよく離れる。


「あ、アイザック。あの、ありがとう助けてくれて……こうして生きていられるのはアイザックのおかげよ」


 羞恥で顔が熱く、赤らんだ顔を手で隠しながらも感謝する。

 実際、未だに生きていられるのはアイザックのおかげであった。


「あぁ、いや。今度こそクラリスを守れてよかった。大丈夫か? どこも怪我はないか?」

「えぇ、おかげさまでどこもないわ」

「そうか、それならよかった」


 なぜか離れたはずなのに、アイザックに頬に触れられながら至近距離で見つめられる。

 まるで今からキスでもするかのような雰囲気に、不慣れな私は固まってしまった。


「あ、アイザック?」

「よかった。クラリスを守れて……」


 安堵の表情を浮かべながら優しく笑い、再び私を抱きしめてくるアイザック。


 その表情に胸を高鳴らせ、彼の力強い鼓動に安堵しながらも「み、ミナは、もう大丈夫かしら?」とこの状況が居た堪れなくて話題を振った。


「さすがに彼女の魔力は残ってないはずだが」

「そうよね。あれだけ魔力を使ったわけだし、これ以上やったら命の危険もあるものね」


 ミナに視線を向けると、彼女は俯きながら立ち尽くしていた。

 先程まで纏っていたはずの魔力はすっかりなくなり、今なら彼女を拘束できそうだ。


「今のうちに拘束するか」

「えぇ。ちょっと心苦しいけど、また攻撃されても大変だし」


 離れるのが名残惜しく感じながらも、お互いに身体を離して彼女に近づこうとしたときだった。


「私が……この私が、誰かに負けるだなんて。あれだけ頑張ったのに。ずっと頑張ってきたのに。お母様との計画もバレてしまった。それなのに、どうすることもできないなんて……」

「ミナ……?」


 再び不安定な言動を始めるミナ。


 だが、それは先程の錯乱しているような状態とは違って酷く怯えているようだった。


「あぁぁあ、もうダメだわ……! 二度も失敗したと知ったらお母様のところに戻れない! 今度こそ捨てられてしまう!! 私は、ブランシェット家から追放されてしまう……っ! そうしたら私に生きる意味なんてない。私なんて、この世にいちゃいけないんだわ!!」

「ちょっとミナ、何を言ってるの?」

「来ないで!! 私はもうこの世にいらない存在なの。役立たずの私はお母様にとって不用品。だから私はここで……っ!」

「ミナ!? 一体何を……っ!」


 再びミナの身体から魔力が放出され、それらはミナの身体に纏わりつくように糸状になって次々に彼女の身体を覆っていく。


 それはまるで繭のようだった。


 繭の中に閉じこもるように、ミナの身体は魔力の繭にどんどん埋もれていく。


「どうなっているの!? 一体何が起きているの!?」

「これは……もしかしたら彼女は自ら死のうとしているのかもしれない」

「え、自殺ってこと!?」


 思わぬワードが出てきてギョッとする。

 確かに、編み込まれた繭は異様な魔力を帯びていた。


「あのまま繭の中で魔力で自らを消滅させる気ではないだろうか」

「そんな! そんなのダメよ!!」

「だが、あのままでは……」

「どうにかして助け出さないと!」

「しかし、下手な魔法を打っても吸収されるだけだぞ」


 よく見ると繭は魔力を吸収し、すくすく育っているように見えた。

 外から魔法で攻撃しても、魔力を吸い取られるだけで逆効果になるだろう。


(どうしたらいいの。何か私にできることは……)


 そしてふと気づく。

 彼女の姿が過去の自分と重なって見えることに。


(そうだ。私はこれを知っている)


 あの救いようもない絶望感。

 誰に助けを求めることもできず、誰からも拒絶されている状況。


(あのミナの苦しくてつらくて誰からの救いもない状況は、まさに前世の私)


 私は前世での出来事を思い出す。


 両親から売られ、王から人権など無視した寵愛を受け、正妻から疎まれ、国民から忌み嫌われ、死を望まれた人生。


 自ら死を選んだわけではないが、逃げ場がないのは同じだった。


 思い出してから気づく。世界は理不尽でできているのだと。


(前世でも今世でも、どこの世界も同じように理不尽だ)


 かつての私もただ周りから言われるがまま、ひたすらに自分の運命を呪うだけで、抗うことすらせずに全て泣きながら受け入れるだけだった。


 受け入れなければならないとそう思っていた。


 誰かを恨むことなく、恨むとしたら自身の顔のみで、全てこの顔として生まれた自分のせいだと思い込んでいた。


(でも、それは違う)


 今だからこそ思う。私は自分自身で破滅する選択をしたのだと。

 もっとちゃんと、ハッキリと自分の意思を言わなければならなかった。

 ただ泣いて受け入れるのではなく、たとえ同じ結果だったとしても私は抗うべきだった。


(受け入れることが正しいと思っていた。私は無力で、ただ周りの意見に流されるままだった)


 けれど、それではダメなのだ。

 転生した今だからこそわかる。

 受け身のままではなく、自分の意思で自分がしたいことをしようとすることが大事なのだと。


(だからこそ、私はミナを助けたい)


 かつて誰も救いの手を差し伸べてくれなかったからこそ、彼女を救って生き抜く道を示したい。


 私はあの前世の未練、苦悩、トラウマ全てを断ち切って過去の自分と訣別するためにも、同じような境遇の彼女を救いたかった。例えそれがエゴだとしても。


「アイザック!」

「何だ?」

「ミナを助けよう! 繭に少しでも亀裂が入れば、多分魔力のバランスが崩れるはず! アイザックが繭に亀裂を入れて、それを私がこじ開けてミナを引き上げるわ!」

「でもどうやって!?」

「これよ!」


 アイザックに見せつけるようにポケットから取り出したのは先程の錬金術で生成したミスリルだ。


「ミスリル? 一体それで何をするつもりだ?」

「こうするの!」


 私はミスリルに魔力を込めてイメージする。

 あの強固な繭を斬れるほど鋭く、強度のある剣を。


 私はイメージを一気に膨らませてミスリルを膨張させると、焔の魔法をかけて瞬時にイメージした剣に変えていく。


 そしてミスリルはあっという間に焔を帯びた剣へと変化した。


「凄いな……」

「アイザック。これで、繭を斬ってちょうだい!」

「わかった」

「もう時間がない、行くわよ!」

「あぁ!」

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