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前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!  作者: 鳥柄ささみ


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第三十九話 戦闘

「閉じ込められちゃったわね」

「そうだな」


 眼前のミナからの魔力の圧が凄まじい。


 先程よりも勢いが増し、魔力の波が何度も私達に押し寄せてぶつかってくる。

 あまりの衝撃に立っているのがやっとだった。


「どうする?」

「恐らくこのまま何もしなかったら共倒れだな」

「そうね。二人で頑張ればある程度持ち堪えられるかもしれないけど、実力差的にどれほどもつか」

「だが、何もしないわけにもいかないだろう。この状況を打破するには、彼女を倒すか無力化するしかない」


 アイザックの「彼女を倒す」という言葉にギョッとする。

 「倒す」というのはつまりミナを殺すか瀕死のするということだろうが、前世で死を経験した身としてはそんな選択は絶対にできなかった。


「どっちも難易度高いし、さすがに倒すってのは実力的にも心理的にも私には無理よ!?」

「だな。ということは無力化一択だが、眠らせるか気絶させるか魔法を使わせないようにするかのいずれかを試みるしかない」

「どれもハードル高すぎ」


 泣き言を漏らしながらも、私達にはその選択肢しか残されてない。


 この状況に陥ってしまった以上、彼女を殺さないようにするためにはどうにかしてミナを無力化させるしかなかった。


「でも、やるしかない……か」

「あぁ。大丈夫だ、俺達が協力すればきっとどうにかなる」

「そうね。防衛術だって何度も練習したし!」


 エディオンの指導のもと、私もアイザックも防衛術の授業以外でも休み時間に繰り返し何度も何度も訓練した。


 以前エディオンに指摘された気持ちの割り切りについてはまだ難しい部分があるが、魔法自体はオーガに襲われたときに比べてだいぶ会得できている。

 そのためいくら格上相手といえど、二人で協力すればそれなりに力は発揮するはずだ。


「何をコソコソと話してるの? 言っておくけど、いくら頑張ろうが無駄よ? しょうもない二人が組んだところで何も変わらないわ」

「そんなの、やってみなきゃわからないでしょ!」

「わかるわよ。忘れたの? あのオーガに襲われたときのこと。二人揃ったところで無力だったでしょう?」

「っ! あれ、貴女の仕業だったの!?」

「えぇ、もちろん。早々に始末するつもりだったのにとんだ邪魔が入ってしまったけどね。その後もエディオンさまがずっと貴女のそばを離れなかったせいで手出しができなくて……そのせいで私は、お母様に怒られて……っ」


 だんだんとミナの荒ぶる感情が魔力と共に鮮明になってくる。


 そんなミナのその姿は、前世の正妻の姿を彷彿させた。


 彼女は国王からの寵愛を奪われたことによる怒りを私にぶつけていたが、目の前にいるミナからも同じような感情が見え隠れしていた。


 怒り、(ねた)み、(そね)み、不安、絶望。


 様々な感情がないまぜになっていた。


(この感情を私は知ってる)


 かつてトラウマだった感情。

 負の感情が複雑に混ざり合った殺気を帯びた瞳。


 当時の私は何もできずにただおろおろとしていただけだった。

 だが、今は違う。


 私は周りの人々に支えられて強くなってきた。

 自分の意志を持つことの大切さを知った。

 何でも受け身になるのではなく、自らが行動する必要性を学んだ。


(だから……絶対にここで死ぬわけにはいかない!)


「もう同じ誤ちは繰り返さない。私はお母様に認めてもらうために、今度こそちゃんと貴女にトドメを刺してあげるわ!!」

「クラリス、来るぞ!!」

「えぇ! 望むところよ!!」


 ミナが手を翳すと物凄い速さでジェット水流がこちらに向かって伸びてくる。


「焔よ。堆く舞い上がり、私達の盾となれ!!」


 ボンボンボンボン……っ!


 同じく私も手を翳すと、私の目の前に火柱がいくつも立たせて厚い壁にし、彼女の水流を防ぐ。

 お互いの威力の凄まじさゆえか、魔法が衝突すると大きな音を立てて爆発した。


「クラリス、大丈夫か!?」

「大丈夫! アイザックは?」

「俺も大丈夫だ。すまない、守ってもらってしまって」

「いいのよ。協力するんでしょう?」

「そうだったな」


 以前訓練で出した火柱を応用した形だが、どうにか成功したようだ。


 何度も練習した甲斐があった、とホッと胸を撫で下ろす。

 魔力の消費も以前に比べて少なく、まだやれそうだ。


「このまま対峙しててもこちらが不利だ。二手に別れて俺が彼女の背後に回ろう。クラリスは引き続きここで彼女と相対しててくれ」

「わかったわ。でも大丈夫? 接近戦だなんて」

「俺としてはそっちのほうが得意だ。俺の心配より自分の心配をしろ」

「わかった」

「いつまでごちゃごちゃやってるの!? いつも、いつもいつもいつも、貴女ばっかり周りに人がいて。私は貴女のせいで孤独だっていうのに! 貴女のせいで私はお母様に認めてもらえないと言うのに……!!」


 ミナの精神が不安定になるのと同時に、魔力が肥大化していく。

 あまりの強大さに、「ここまで魔力を放出して大丈夫なのか?」と訝しんだ。


(さすがにこのまま魔力放出をし続けたら危ないのでは? それに、このままじゃ魔力暴走する)


 魔力は人によって量が違うが、いずれにしても空っぽになるまで出し続けると命に関わってくる。

 しかも強大すぎるゆえに反動も大きく、下手すると空っぽになった瞬間に即死ということもありえなくなかった。


 きっとミナ自身ここまで魔力を解放することもなかったし、このままでは自分の魔力に飲まれて死ぬだけだ。


「このままだとミナの命もまずい。アイザック、急ぎましょう!!」

「あぁ!」

「あぁあああああ!!! 邪魔するのなら、貴方達まとめて葬ってあげるわ!!」


 稲妻が私とアイザックに向かって一直線に飛んでくる。

 それを私がファイアボールをいくつもぶつけて相殺した。


「ちっ!」

「アイザック、行って!」


 アイザックがミナに向かって走る。


 ミナはすかさず複数の雷撃を放ち、無作為に私達に向かって攻撃してきた。


 バリバリと不規則な動きで狙う雷撃をタイミングを見計らいながら次々に打ち落としていく。


 一瞬でも気を抜くとそこで終わりだと、常に気を張った状態で魔力消費を意識しながら対抗する。


(さすがブランシェット家というだけあって、魔法の知識でも魔力でも全然敵わない……っ!!)


 あれだけ練習して会得したはずの防衛術さえも、全力でやらないとミナの前では防ぐのがやっとだった。

 彼女の魔法に翻弄されながらも、アイザックがミナとの間合いを詰めていくのを確認する。


「アイザック!!」

「あぁ! 生命の芽吹く……っがは!」


 アイザックが一気に距離を詰めてミナの身体を拘束しようとした瞬間、アイザックが吹き飛ばされる。


 風の魔法を使ったのか一瞬で壁に叩きつけられると、アイザックの身体はそのまま壁に縫いつけられるように木の根や枝に拘束されてしまった。


「ふふ、私に勝てると思って? ポンコツ二人がいくら力を合わせても勝てないと言ったでしょう?」

「う、ぐぅ……あ……っ!」

「アイザック!!!」


 ギリギリと身体を締めつけられて苦しげな声を上げるアイザック。

 すかさず助けるためにいくつも魔法を放つが、全てかき消されてしまった。


 そして、ミナの制服から何かの魔法陣がパーンと大きな音を立てて霧散する。


「え?」


(今のって、エディオンが言っていた魔力への制限をかけるって言っていた魔法陣……?)


 制服に課されている魔法陣を破ったということはつまり、魔法陣を破るほど強大な魔法を行使したということだ。

 それはつまり、彼女の攻撃によって攻撃対象が死ぬ可能性もあるということを意味していてあまりの衝撃に思わず絶句する。


「あら、私が今まで本気を出してたと思ったの? おめでたいわね、貴女。今までのは貴方達を油断させるためにあえて力をセーブしてたの。うふふ、でもこれでやっと、私の目的が達成される! さぁ、さようならよ。クラリス・マルティーニ!」

「な……っ!」


 気づいたときには足下に水溜りがぐるりと私を囲んでいた。

 そして、その水溜りから氷結された鋭い先端が私目掛けていくつも伸びてきて、今この瞬間私の身体を貫こうとしていた。

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