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第十七話 親近感

「ふぅ、こんなもんかな。てか、アイザックって勉強苦手?」

「まぁ、そうだな。あと、勉強だけではなく、魔法も不得意だ」

「何で自慢げなのよ。それ、自慢することじゃないでしょ」


 あのあと慌ててレポートをまとめたのはいいのだが、思ったよりもアイザックは戦力外だった。

 というのも、エディオンがあんなことを言ったのもちょっと頷けるほど、ひきこもりだった私よりも物覚えが悪く、知識も薄くてちょっと心配になるレベルだ。

 優秀だと言われている同じ火の寮だというのに、勉強も魔法も苦手というのも珍しい気がするが、本人もその辺は何か思うところがあるようだった。


「勉強するのが苦手な感じ?」

「あー……そうだな。どうやって勉強すればいいのかよくわからん」

「魔法も?」

「あぁ、そんな感じだ」


 見た目では完璧にできそうなのに、ギャップが凄い。


(確か凄い人の子息だと聞いていたけど、だからといって何でもできるわけじゃないんだな)


 勝手に偏見を持っていた自分をちょっと恥じる。

 でも、教えればちゃんと理解はしているようだから勉強の仕方が悪かっただけかもしれない。


「私が言うのもなんだけど、NMAに入学できる基準って謎よね」

「そうだな。正直、俺も自分が選ばれるとは思わなくてびっくりした」

「それ、自分で言っちゃうんだ」

「事実だからな」


 アイザックとの会話はとても楽しかった。

 アイザックは素直で話しやすく、マリアンヌとはまた違った楽しさがある。

 とても気安く、私のありのままの見た目を晒しても態度は変わらなくて、しかも会話も取り繕わずに本来の自分を曝け出しても対応を変えることなく接してくれるのはとてもありがたかった。


「ねぇ。もしアイザックが嫌じゃなければ、これからも勉強とか魔法とか教えようか? 私が教えられる範囲でだけど」

「いいのか?」

「えぇ。ほら、入学式前から色々迷惑かけちゃったし、色々悩みも聞いてもらったからそのお礼として。どうかしら?」

「では、遠慮なく。同じ寮だし、談話室などを使わせてもらおう」

「えぇ、そうしましょう。私、引きこもっていたぶん勉強はしてたからそれなりに勉強は得意なのよ」


 自慢することではないが自慢げにそう言うと、アイザックはびっくりしたのか目を見開く。


「クラリスは引きこもりだったのか?」

「え? えぇ、そうだけど」

「それはその……学校で虐められた、とかか?」

「あー……、まぁ、そんなところかしら」


 さすがに前世のことが原因で、とは言えずにぼかして言えば、「そうか。それは大変だったな」となぜか優しい眼差しを向けられる。

 それはどういう感情なのかはわからないが、それが嫌じゃない自分がいた。


「アイザックって変わってるわよね」

「そうか?」

「えぇ。まぁ、私も大概だとは思うけど」

「そうか、クラリ……~~~~っ!!」


 私の名前を呼びかけたかと思うと突然ダイナミックに椅子ごと後ろに飛び下がるアイザック。

 一体何をしているんだ、と思えば彼の視線の先には黒く光るカサカサと素早く動くあの虫がいた。


「ご、ご、g……っ!!」

「あー、古い建物だものね」


 バシンッ!


 私が丸めた教科書で思い切り叩くと、アイザックが目を丸くする。そしてそのまま何も言わずに、潰れたヤツと私を交互に見つめていた。


 私は消滅魔法と浄化魔法で綺麗さっぱりヤツを消すと、「さすがに防衛魔法でも虫の侵入は防げないのね。ふむふむ、このこともレポートに加えようかしら」と一人で考察する。


「く、クラリス……キミは、虫が平気なのか?」

「えぇ、実家は田舎にあるから虫は平気だけど。え? アイザックは虫苦手なの?」

「あぁ。特にヤツは無理だ」


 顔を真っ青にしているアイザックを見て、口元が緩む。

 最初のイメージとはまるで違うが、いずれも親近感が増して、さらに距離が縮まったような気がした。


 ジリリリリリリ……


 授業終了のチャイムが鳴る。

 レポートは仕上げたので、先生に提出して次の授業へと向かわなければならない。

 私が勉強道具一式を持つと、アイザックがあからさまに「うげっ」という顔をする。


「何よ、その顔」

「いや、それでヤツを叩いたかと思うと」

「ちゃんと浄化魔法使ったから大丈夫だし」

「そうかもしれないが、気持ちの問題というか……。そもそも、なぜ魔法ではなく物理で」

「だって先に手が出ちゃったのだもの、仕方ないでしょ」


 まだ思いきり顔が引き攣っているアイザック。

 意外と彼は顔に出やすいらしい。

 私が仕留めた教科書を振り回すと、無言で大きく身体を捻ってその教科書に触れぬように避けているのを見て、思わず私はくつくつと笑った。


「本当に苦手なのね」

「嘘を言っても仕方ないだろう。というか、本当にやめてくれ。ヤツが触れたと思うと近づきたくない」


 そう言ってジリジリと私から距離を取るアイザック。

 それがなんだか面白くなくて、離れていくぶん私は距離を詰めていく。


「む。そんなこと言うならもう退治しないわよ」

「そ、それは困る!」

「じゃあ文句言わないで。いいじゃない、素手で倒したわけじゃないんだし」

「素手!?」


 アイザックの声が裏返る。

 そんなに驚かれるようなことなのだろうか。


「クラリスがヤツを倒してるところをエディオンが見たら、きっと卒倒するぞ」

「そう? だったら今度目の前で披露しようかしら」

「クラリスって案外、性格悪いな」

「失礼ね。そんなことないわよ」


 そんな軽口を言い合いながら、私達はレポートを提出し次の授業へと一緒に向かうのだった。

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