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吉良侍従記 永禄二年一月十日
永禄二年(1558)一月十日
宿直の宮若より御屋形様からの命として林佐渡守を館へ呼ぶよう言伝て有。
急ぎ佐渡守の屋敷へ人を遣わして出仕をさせる。
源氏の間に案内して待たせた所で御屋形様の元へお伺い。
某の先導にて御屋形様と共に源氏の間へ向かいて佐渡守と相対。
近習は久能余五郎。
佐渡守、御屋形様より津島征伐の褒美として肩衝茶入を賜る。銘は余燼。
下賜の折、御屋形様が佐渡守に対して其処元余人を以て代え難しと仰せ。
佐渡守、其の場にて咽び泣く。大慶の余り言葉出せず、此れを見た御屋形様が笑いて先々の励精に期待する旨仰せになられる。
御屋形様より御言葉受けて佐渡守いよいよ泣き崩れ、御屋形様が佐渡守に近づいて背を擦りて、屋敷に戻りし際は茶入の茶にて一服点て落ち着くが良いと加えて仰せ。此れを受けて益々佐渡守が涙流せし故に、御屋形様大きく笑いながら奥へと下がられる。
御屋形様をして此処まで言わせしめる。佐渡守は此の上無き果報者である。
誠に目出度き事である。
花押