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第8話 行尸走肉①『派閥』

行尸走肉→こうしにくそうって読みます。

 その任務は、改めて自分は役に立たないと、無能だと、そう思わせるものだった。どれだけ大口叩いても所詮は魔術を使えないただの人間。どうあがいても超えられないものがそこにはあった。


 この世界で一条悠は弱かった。



 ※ ※ ※



 初任務から三日が経った。任務で負った怪我は治癒魔法によってほぼ治っていた。呼吸が楽になった悠は日課の朝のラジオ体操をしていた。


 そこにアリスが現れ、物珍しそうに見ていた。


「ラジオ体操だよ。知らないのか?日本人はみんなやってるぞ?」


「……ラジオ体操したら悪魔と殴り合いできるんですか?」


「さあ?どうだろ?」


 最後の深呼吸をし、悠は服を脱ぎ上裸になる。アリスは「ひゃあ」と小さく悲鳴をあげて手で顔を隠すが、興味があるのか指の隙間から悠の締まった体を見るのだった。


「あ……」


 アリスは悠の右肩の傷痕を見つけた。悪魔に噛まれた傷は治癒魔法でも消すことはできなかったそうだ。


 悠は肩をさすりながら笑う。


「まあ、あれだ、次はもっとちゃんとやるよ。頑張るから、もうしばらく護衛でいさせてくれ」


 そう言うと今度は腕立て伏せを始めた。アリスは何も言うことができず部屋に戻るのだった。


 ※


 ※


 ※


 魔術戦まで残り十日となり、悠はリーゼウスから魔術戦の説明を受けていた。ちなみにリーゼウスはあの後すぐに謝りに来た。アレンは後ろでニヤニヤしながらあくびをしていたが。


「魔術戦は対魔術の模擬戦だと思ってくれ。低級悪魔はほぼ魔術は使えず物理的な攻撃が多いが、一部の低級と中級以上になると魔術を使ってくる。一対一もあれば一対多数もあればチーム戦もあれば。あらゆる戦い方で模擬戦をするのが魔術戦だ。そしてこれは闇堕ち対策でもある。……闇堕ちって知ってる?」


 悠は首を横にふる。


「魔術師の役目は魔術をもって人々を陰ながら悪魔から守ることだ。はっきり言って魔術師は特別だ。それ故に守るはずの魔術でバカやるやつらが一定数いる。おれたちも人間だからな、どうしたってそういうのが出てくる。それらを魔術会では別称として『闇堕ち』と読んでいる。魔術師は悪魔と戦う傍らそういうやつらとも戦う。……君の兄もそうだ」


 悠は俯く。リーゼウスは少し気まずい空気の中続ける。


「魔術戦はそういうときのための訓練だ。ただ訓練だからといって手を抜くことはない。当然お互い死なないために殺す気で戦う。ひどいときは死人も出るくらいだ」


「え、おれやばくないですか?」


「そう、やばいんだよ。悪魔と違って人間は知能がある。戦略がある。悪魔以上の実力がある。ナイフ一本でどうにかなる世界じゃないんだ。だからおれが君に戦い方を教える。やばい、から何とかなる、に昇華させる」


 リーゼウスは白い歯を覗かせてニッと笑うのだった。


「まず魔術会について説明しよう。魔術会には四つの派閥のようなものが存在する。まずは基本中立の会長グループ。ここは比較的穏健派の集まりだ。次にデイビッド副会長グループ。魔術至上主義の実力派集団。ものっそい強い。次に日本支部。昔から少数精鋭の集団で会長が自由を認めている唯一の組織だ。そして我らがアレン先生だ」


「どこの組織もまとまらないもんなんですねー」


「それを言われると手痛いな。だがまあ現実今の魔術会はまとまりがない。いつもことあるごとに難癖つけて内輪揉めだ。数の多い悪魔と戦うには組織力で対抗するしかないというのに。会長やアレン先生はそれを危惧していて、それで立て直しのためにアレン先生は今日本支部に出ている。デイビッド副会長は会長が抑えつけているが、多分今回の魔術戦で何かやってくると睨んでいる。君が出るからな」


「えぇ〜」


 悠は嫌そうな顔をする。


「とりあえず言えることは魔術戦の敵は実質デイビッド副会長グループの魔術師だけだ。君を魔術会から追い出そうとしているのは副会長のグループだけだ。日本支部はアレン先生が抑えているから問題ないが。これからは魔術戦まで日々の日常生活から任務まで全て警戒してくれ。いつどこで何をしてくるか分かったもんじゃないからな」


 いきなり攻撃されると警告され悠はわけもわからないままうなずくのだった。


 そして翌日さっそく悠に任務が与えられた。


「今回の任務はイレギュラーの扉の破壊だ。リーゼウスとともに行ってこい。恐らく低級悪魔がウロウロしているはずだからそいつも狩ってこい」


 悠とリーゼウスはスノードニア国立公園に来ていた。夜の公園は誰もおらず、入口の彫刻の手前から静かに結界が張られていた。悠とリーゼウスは結界の中に入る。


「扉が二つ開いているな」


「イレギュラーってどういうことなんですか?」


「ああ、まだ説明してなかったな。本来扉は魔術師が魔力を使って開けるんだが、イギリスは他の地域と比べて空気中の自然魔力が多くてな、よく小さい扉が勝手に開くことがあるんだ。術師を介さないやつをおれたちはイレギュラーって呼んでるんだよ。今回はそれだ。イレギュラーは大体雑魚しか出てこないから心配しなくていい。左右にそれぞれか。まず右の扉から壊そう」


 だから「魔都」なのか、と悠はアレンが言っていたことを思い出し、一人納得するのだった。


 二人はまず右側の茂みに潜り、扉を探す。扉はあっさりと見つかった。扉は開いた様子がなく、リーゼウスは「よかった」とつぶやくと杖を取り出し、呪文を唱え始めた。


 すると扉がボロボロと崩れていった。


「さあ、もう一つを壊しに行こうか。幸い悪魔の気配も無いし、出くわす前に破壊してしまおう」


 ※


 ※


 ※


 二つ目の扉もあっさりと見つかり、リーゼウスが破壊する。


「なんだ、随分あっさりだな」


 リーゼウスは結界内に悪魔がいないか確認する。


「……おかしいな。前情報だと低級悪魔がうろついているはずなんだが……何もいないな」


 リーゼウスはアレンの言っていたあることを思い出した。


 ――――監視役が闇堕ちした


 監視役が誤った情報を現場に流すのは何があっても有り得ない。そんなことを一度でもすれば無能とみなされ即クビだ。だから監視役はミスをしないよう細心の注意を払って情報を集める。もしミス以外で誤った情報を流すとすれば、それは……


「闇堕ち」


 リーゼウスは嫌な予感がし、すぐにこの場を離れようと結界を解除する。


「一条君、すぐにここから――――」


 ズドン。


 大きな音とともに悠とリーゼウスの間に砂埃が舞った。何かが落ちてきた。二人はその落ちてきたものを見て目を見開く。


「……!」


「くそったれ……!遅かった……!」


 二人の体の倍近くはあるであろう悪魔が見下ろしていた。

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