第7話 デイビッド・レイス
「うぉあああああっ!?」
結界に激突した悪魔が跳ね返り、悠もまた結界に激突した。悪魔は悠から必死で逃げようとする。悠は悪魔に飛び乗り、さらにナイフを突き刺す。体が弾け飛び、悪魔はフラフラと倒れる。
悠はナイフを振り下ろしトドメを刺そうとする。すると悪魔とナイフの間に魔法陣が現れ、ナイフを弾き飛ばす。
「ギェエエエエエエエエッ!!!」
悪魔が悠に覆いかぶさる。武器を失った悠はアリスをかばうように伏せる。
「爆発しろ」
背後から呪文が聞こえ、悪魔の全身が弾け飛んだ。そして結界が消え、アレンたちが入ってきた。
「てってれー、ドッキリ大成功〜」
アレンは超真顔でドッキリのプラカードを見せてきた。全くもって面白くない。それはアレンも同じだったようで、プラカードをさっさと捨てた。
「さて弟君、今回君にはこの世界がどういうところか身を持って体験してもらったところだが、どうだ?考えはかわったか?」
「全部アレンさんの仕込みだったのか……死ぬとこでしたよ!」
「そりゃそうだろ、非魔術師が悪魔と戦うんだ、ヤバいに決まってるだろ。弟君、もう一度聞くよ?本当にこの世界で生きていくんだな?これからはこんなことが日常だ。これだけの体験をしてもなおこれを日常にして兄と戦うのか?」
悠は頷く。
「おれは兄ちゃんに何故あんなことをしたのか問いただす。そしておれが兄ちゃんをぶん殴る。これは決定事項だ」
「弟君はそれでいいのかもしれないがな、魔術会のほうがハイそうですかとならないんだ。おれはいいんだがな。魔術至上主義の頭固い集団だからな。魔術会を認めないことには弟君の望みは叶わない。このおれがどれだけ庇い立てしてもだ。今回のこれだって本部からの指示でやったことだしな。まあおれは面白そうだったからいいけど」
最後の言葉が気になったが気にしないことにする。
「魔術会を認めさせればいいんですね?」
アレンは「そーゆーこと」と指をパチンと鳴らす。
「魔術会は研鑽のために月に一度魔術戦をしていてな、一対一のガチンコ勝負だったり対多数だったり、やり方は毎回変わる腕試しみたいなやつだ。弟君にはこれに出てもらって、魔術会の石頭どもにげんこつを食らわせてもらう。想像してみてくれー?魔術を使えないずぶの素人が魔術のエキスパートたちをバッタバッタなぎ倒すんだ。この上ないアピールになるぞ?」
アレンはシャドーをして殴るふりをする。
「それが出来れば魔術会に認められて兄ちゃんを追うことができる……!」
「次の開催は二週間後だ。それまでに魔具の使い方を極めといてくれよ?君がこの世界で戦える唯一の武器だ」
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悠たちは悪魔が出てきた部屋を見て回る。どの部屋も真っ赤に染まっていた。生存者はおらず、アレンの言っていたとおり、悪魔召喚をしたであろう人物も部屋の片隅で腰より下だけの状態で発見された。
アレンは合掌し荷物を漁る。
「……クロだね」
「……クロですね」
死体のポケットには魔法陣が書かれたメモ紙があった。メモには魔力痕があり、魔術が使われた痕跡があった。そして壁には血で書かれた魔法陣があり、悪魔が出てきた痕跡があった。
「一般人がこういうことをする事件が増えてますね。どうしますか?」
「リーゼウス、内密に調べてくれ。本部の連中には一切悟られるな」
「と、いうと?」
「多分いるんだよなぁ、これ手引きしてるやつが本部に」
「……分かりました」
※ ※ ※
翌日、魔術会ではある話題で持ちきりだった。話題の中心は悠のことだった。
「アレンさんが連れてきた一条将の弟、魔術が使えないのに魔具のナイフ一つで悪魔倒したらしいぞ。しかもアリスの護衛をしながらだ」
「まじか!?」
「しかも今度の魔術戦に出るらしいぞ」
そんな話をする魔術師たちを横目に金髪の男はトレーニングルームでベンチプレスをしていた。
「魔術師が筋トレしてるとか絵面が面白すぎるんだけど。日本支部の郷地そっくりだな」
「あの脳筋と一緒にするな。おれはちゃんと魔術も使う。あんなバカみたいに何でも筋肉で解決したりはしない。戦いは最後にものを言うのは己の肉体だ。鍛えておいて損はない。筋トレはいいぞアレン。お前もどうだ?」
「絶対ゴメンだね。おれは筋肉ダルマにはなりたくない」
アレンはドリンクを男に投げ渡す。男の名前はデイビッド・レイス。アリスの兄で魔術会副会長だ。立場的にはアレンの上司にあたる。
「それで?一条悠はどうだった?アリスがあれだけボロボロで帰ってきたんだ、当然ぶっ殺したんだろうな?」
「このシスコンが。殺してないよ、弟君は非魔術師でありながら低級だが悪魔を魔具一つで倒してみせた。しかもちゃんとアリスを守り抜いて。あそこまでされたら認めざるをえないだろ」
「は?守り抜いた?何をほざいてやがる。アリスはボロボロだっただろうが」
デイビッドはドリンクを飲み干すとボトルをアレンに投げ、タオルで汗を拭く。ちなみにアレンはボトルを避けた。デイビッドは舌打ちするとボトルを拾い上げ、カバンにしまう。
「たしかに非魔術師が悪魔を倒したというのは凄いのだろう。だがおれは認めん。そもそも犯罪者の弟だ。疑惑もある。そんなやつをおいておくことなどできるか。それもおれの大事な大事なアリスの護衛だと?バカも休み休み言え。今すぐ尋問にかけて処分してしまおうか」
「どうどう。日本支部のおかたーい人たちと同じ考えになってるぞ。推定無罪の原則だ、デイビッド。弟君が兄に加担しているという証拠は一つもないし、彼は魔術師じゃない」
「アレン、お前はいいかもしれないが魔術会は認めていない。今回の件を加味してもやはり認めることは出来ない。今あの少年がここにいれるのはお前の庇護下にあるからだ。それ以上もそれ以下もない。あいつがここにいたいならあいつ自身でおれたちを認めさせるしかない」
「そう、だから魔術戦なんだよ。次の魔術戦、弟君をおれの推薦枠で出させる。そこで勝てば弟君がアリスの護衛につくことを認めてくれ」
「そもそも何で護衛なんだよ!別におれたちの監視下で動くとかでもいいじゃねぇか!」
「それはまあ……面白そうだから」
「殺すぞアレン」
デイビッドは杖をアレンに向ける。
「次の魔術戦、面白いことになるぞ?非魔術師が魔術師相手に無双する、これは絵になるぞー」
「ふん、やれるもんならやってみろ。もし勝てたら認めてやる。負けたら護衛の件は無し、あいつの願いなど聞き届けん。尋問かけて聞くこと聞いたらさっさとこの世界から飛ばしてやる」
アレンは杖をヒョイと振ると、デイビッドの手から杖を取り上げ、それをへし折った。
「おい、アレン!?」
「手入れが終わった。予備はもういらないだろ」
そう言うときれいな杖をデイビッドに投げ渡す。杖は傷一つない新品同様のものだった。デイビッドは杖を握り、感触を確かめる。
「……完璧以上だ」
「仕事はきっちりやる主義なんでね」
そう言ってアレンはいなくなった。デイビッドは杖をしまい、荷物をまとめてトレーニングルームを後にする。
「要望以上のものを仕上げたからな。今回だけ特別だアレン。あの少年を見定めてやろう」
デイビッドは笑っていた。
ヒロインのアニキ。ガチムチゴリラを想像してくれればと思います。