第4話 四面楚歌①『アリス・レイス』
「というわけで、君にはロンドンに行ってもらう」
そう言われた翌日、悠はロンドンに向かっていた。トントン拍子に話が進み気が付いたら魔術会が用意した自家用ジェット機に乗っていた。
「あのー、おれパスポートとかないんですけどー?」
悠は恐る恐るアレンに言う。アレンはニヤリとし「大丈夫大丈夫」と言う。
「これ、密入国だから」
と、親指を立てながらとんでもないことを言ってこなければこの旅は安心したものになっていたのかもしれない。(ちなみにこれは後で知ったことだが悠のパスポートは発行されているしちゃんと正規の手続きを踏んで飛んでいるため密入国ではないとのことだった。)
※ ※ ※
日本からロンドンまで十二時間。時差は九時間。バッキンガム宮殿にウェストミンスター寺院、トラファルガー広場にビック・ベン他にも数多くの観光名所を擁する大都市だ。
「そして『魔都』とも呼ばれる」
悠が目を輝かせて街を見渡す中アレンは説明をしていた。
「弟君の処遇についてだが、魔術会本部預かりとなった。これからはここロンドンで魔術の世界について学んでもらう。そのためにまずこの世界について知ってもらう必要がある。フィッシュアンドチップスいるか?」
アレンは出店でフィッシュアンドチップスを一つ買い、悠に渡す。悠は「あざす」と受け取りかぶりつく。そしてなんとも言えない顔をする。
「魔術会本部はバッキンガム宮殿と同化しているんだ。魔術会が認めた魔術師が宮殿に入ったときに限り本部に繋がるようになってるんだ。日本支部は色んなとこを転々としているが本部については世界中から集まるから動いていたら迷子になってしまうんでね。あ、バッキンガム宮殿の中は飲食禁止だからね、入る前にそれ食べきっちゃって」
悠はフィッシュアンドチップスを真顔で飲み込む。正直好きになれそうにない味だった。
悠はアレンに続いてバッキンガム宮殿に入る。
「知ってるか?ここ、女王が住んでるんだぜ?だから近衛兵もいる」
「何で近衛兵に止められないんです?」
「そりゃ見えてないからさ。さて、魔術会本部へようこそ」
門をくぐるとそこには街が広がっていた。バッキンガム宮殿の入口は魔術の街に繋がっていたのだ。
「ほあー、すんげー」
「魔術会はこの世界の魔術の全てを統括する総本山だ。そして魔術会の最大の任務は悪魔の侵略の阻止だ」
「悪魔?」
「この前見たあのバケモノ集団のことだ。やつらは人類を蹂躪することしか考えていない。そしてやつらに銃の類いは一切通用しない。戦える武器は魔術だけだ。そこでおれたち魔術師が矢面に立つというわけだ。そしてこれは魔術師としての原則だが、魔術、悪魔に関するものは一切表に出してはならない。もしこんなのが表に出てみろ、世界は滅茶苦茶だあくまで影の仕事と心得てくれ」
アレンは悠を部屋に案内する。
「しばらくはここで生活してもらう。明日から早速働いてもらうから、今日はゆっくり休んでくれ」
アレンはどこから持ってきたのか、悠の荷物を部屋に放り投げる。
「あぁ、同部屋のやつとは仲良くするように」
アレンは意味ありげな笑みを浮かべてどこかに行ってしまった。悠は荷物を持って部屋の奥に進む。奥では女性が本を読んでいた。
その女性は艶のある黒髪のロングヘアで、白い肌を際立たせる。きれいなまつげ、柔らかそうな唇、スラッとした体躯。見ていて思わずドキドキしてしまう。そんな存在だった。
女性は悠に気付くと本にしおりを挟み閉じる。
「あなたが一条悠さんですね。アレン先生から話は聞いています。今日からよろしくお願いします」
「!?どゆこと?あれ?」
「あ、すいません。自己紹介がまだでしたね。私の名前はアリス・レイスです。私の護衛を引き受けていただきありがとうございます」
「……護衛?」
悠は何も聞かされていなかった。
※ ※ ※
「あれ?言ってなかった?」
「聞いてないですよ。そもそも魔術とか知らないのに魔術師の護衛とか無理でしょ!」
それを聞いてアリスは目を丸くする。
「はい?魔術を知らない?アレン先生、これはどういうことですか?」
アリスは物凄い剣幕でアレンに言い寄る。アレンは笑いながら流す。
「大丈夫大丈夫。二人とも似たような境遇だし、仲良くできると思うぞ」
「私は護衛をお願いしたんですけど。魔術を知らない人に護衛が務まりますか?」
悠もコクコクと頷く。
「だそうだけど、どうする弟君。君この娘の護衛出来ないならここから放り出すことになるんだけど」
「やりますやりますもう全力でやらせていただきます!」
「は?絶対嫌です」
アリスは冷たい声で悠を拒絶した。アレンは笑う。
「アリス、君が弟君を拒絶するのは戦えないから、でいいかな?」
アリスは頷く。
「じゃあこうしよう。今夜弟君はさっそく任務に出ることになっている。そこで判断してもらおう。君を守れるということを証明できたら君の護衛につく。逆に君が認められないと判断すれば切り捨てればいい。弟君は記憶を消されて晴れて一般人、おれたちに任せて守られていればいい」
「それは困る!」
「じゃあ頑張らないとな。夜に迎えにくるから準備しといて」
アレンは手をヒラヒラと振りながら出ていく。アリスも悠を睨みつけ、フンと首を横に振ってアレンについて消えていった。
イギ○スとかロン○ンとかフィッシュアンドチップスとか色々出しましたが私は行ったこともないし食べたこともないし見たこともないです。すべて想像です。