第27話 残虐なあなたへ⑫『崩れる五芒星』
「……オルタナが先に来ていてなぜこうも長引く」
デイビッドはイライラしていた。アリスを送り出したはいいが、あまりにも戦いが長引く上に情報が入ってこない。指揮官としてはムシャクシャする感覚だった。
「各種戦場の映像、とれました!映します!」
デイビッドの前に映像が出る。そして戦いが長引く理由が確認できた。オルタナは一体の悪魔を相手に足止めをくらっていた。
「オルタナを止めるということは最低でも上級か。あそこはオルタナに任せたほうがいいだろう」
他を見る。他については魔術会優勢で、確実に制圧していっていた。ただ一箇所、アリスのところだけは違った。
アリスはバルボロに組み伏せられ、今にも襲われそうになっていた。他にも『D機関』の者たちが複数円陣を組んで囲っていた。
「何をしているんだ一条悠……!」
デイビッドは飛び出す。だがそこにいないはずの人物に遮られたのだった。
※ ※ ※
「歯ァ食いしばれ!」
悠の拳がバルボロの腹にめり込む。バルボロはくの字で倒れ込む。鳩尾にもろにくらい呼吸が乱れる。悠はバルボロから杖を取り上げへし折る。
「新しい世界がどうとかほざくけどよ、お前のやってることはただの弱いものいじめだ。魔術を知らない一般人や女子供ばっか狙いやがって」
「くははっ!何かと思えば犯罪者の弟か!お前が偉そうに説教出来る立場か――――ごぶっ」
「誰が喋っていいって言ったよ」
悠の拳がバルボロの口を塞ぐ。バルボロは血がダラダラと流れる口を抑えながら悠の背後を見て笑う。そこには先程までオルタナと戦っていた殺す者がいた。
悠は殺す者に気付きとっさにその場を離れる。殺す者は何もすることなくじっと悠を見ていた。
「よく来た。さあ、目の前の場違いな小僧はお前のメインディッシュだ。存分に食らえ」
「いや、それは無理だろう。そいつ、私に恐れをなしてここまで逃げたんだから」
殺す者の眼の前に突如としてオルタナが現れる。オルタナは殺す者に杖を向ける。すると殺す者は怯えるようにその場でうずくまりカタカタ震えた。
「驚いた、悪魔に恐怖心というものが存在したんだな」
そう言って小さく杖を振る。殺す者の体が霧散し、消えた。それを見たバルボロは怒りを全面に出してオルタナに怒鳴り散らした。
「何てことをしてくれたんだ!せっかくの研究を!私の努力の結晶を!」
「努力の方向を誤ったな。悪魔を召喚し、それを育てて兵器にしようとは……それはやったらだめだろう」
「クソ!クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ!!……貴様ら全員死んでしまえ。新しい世界にお前らはいらない」
そう言うとバルボロは何かを飲み込み、仕込みナイフを取り出して自らの喉を掻き切る。血が吹き出し、辺りを真っ赤に染める。
「我々は悪魔の贄となることを最上の悦びとする」
五芒星が浮かび上がり、光る。悠はこの光景を見たことがあった。自らの命と魔力を生贄に行う悪魔召喚である。
「扉が現れるぞ!」
扉が現れる。それは魔術師ではない悠が感じ取れるくらい禍々しい魔力を放っていた。扉は与えられる魔力によって質が決まる。今回はバルボロという上級魔術師がすべてを捧げている。当然使われる魔力は質もよく、量も多い。それにより扉はより強固に、より強いものが出来上がる。
「こいつは……!魔将級がくるぞ!」
「オルタナ、扉はぶっ壊せといつも言っているだろう?」
「■■■」
聞き慣れない呪文とともに扉が砕け散った。男は杖をしまいゆっくりと近づく。男は悠の隣に立ち、肩をぽんと叩く。
「らしくなったじゃないか、弟くん」
「アレンさん……!?」
「いつ帰ってきたんだ……?」
「今日朝イチでね。本部がこれからこんな特攻をしかけるって言うもんだから。この件を部下に預けた身としては出向かないわけにはいかないでしょ。な、デイビッド……あれ?」
アレンはデイビッドを探す。デイビッドはアリスを抱きしめていた。
「すまない、アリス。怖かっただろう」
「あー……麗しき兄妹愛だこって。さて、バルボロ先輩。流石にあなたが五芒星を掲げる裏切り者だとは思いもしませんでしたよ」
バルボロは血溜まりの中に倒れ、口をパクパクさせながらアレンを睨みつける。
「……おれがいる限り、これ以上悪魔崇拝なんかで血は流させないよ」
そして五芒星に亀裂が入り、バルボロが仕掛けた悪魔召喚は失敗に終わった。アレンはバルボロが絶命する前に傷を癒やす。辺りに散った血は時間が巻き戻されるかのようにバルボロの喉元の傷に集まり、そして傷が消えた。
バルボロはありえないという目でアレンを見る。
「喧嘩を売る相手を間違えたなバルボロ。これからあんたを取り調べる。体の隅々まで、ありとあらゆる一切の記憶を調べ尽くして――――っ!?」
突然辺りが真っ暗になる。夜の闇とはまた違う、完全な闇だ。
「なに……っ!?」
「大丈夫だアリス」
デイビッドは杖で明かりを灯す。だが周りには何もない。ブロードウェイの街から全く別の世界に移動したかのようだった。
「デイビッド、オルタナ、杖を。弟くんはアリスの傍に」
アレンの見つめる先にかすかな光が現れる。それは段々と強い光となり、光から髑髏の面をつけた集団が現れた。髑髏の集団は全部で十名。アレンたちを四方から囲うように現れた。
アレンたちと髑髏の集団はしばらく睨み合う。そして髑髏の集団の者の一人が口を開いた。
「そこのバルボロと一条悠をこちらに引き渡せ」
「それは無理な相談だな。弟くんはお前たちのボスをぶん殴るって決めたんでな」
「そちらの意見は聞いていない。これはお願いではなく命令だ。二人を引き渡せ。さもなくば――――」
「さもなくば?」
髑髏の集団は一斉に杖を抜きアレンたちに向ける。
「無用な血が流れることになるぞ」
次回から一章クライマックスにむけて駆け抜けていきます。引き続きよろしくお願いします。