第26話 残虐なあなたへ⑪『衝突』
魔術会の面々と『D機関』がぶつかり、各所で火花が飛び散る。アリスは道の真ん中を進む。バルボロの思惑通り、アリスは誰にも阻まれることなく、一人進んでいった。
少し進んだところでバルボロは道の真ん中で佇んでいた。バルボロは挑発するように手招きする。
「あなたを捕えます!」
「待ってたよ、蒼月の魔術師」
※ ※ ※
悠は身を隠しながらアリスを探していた。『D機関』の攻撃によりアリスと分断されてしまい、悠は一人でブロードウェイの街を彷徨っていた。
デイビッドの言葉が頭の中で繰り返される。
――――アリスを任せた
護衛でありながら足を引っ張っている。その事実が悠の焦燥感を掻き立てる。
「早く……探さないと……!」
「見つけたぞ魔術会!死ねやぁああ!」
『D機関』の男が悠に死の魔術を放つ。悠は魔具でそれを防ぐ。が、衝撃で悠は吹き飛ばされた。
「これじゃ防ぎきれないのもあるのか!?」
男は馬乗りになり、悠の頬に杖を押し付ける。
「殺してやる!殺してやる!魔術会は皆殺しだ!新世界にお前たちはいらない!死ね!死ねぇ!」
「お前がな!」
男は杖を離し、ふらふらと倒れた。男を倒したのはリーゼウスだった。リーゼウスは悠に手をかし、立たせる。
「その傷でよく来たな。護衛ってのは大変だな」
「ありがとうございます」
「まだ終わってないんだよクソ野郎!」
「あんなんで勝った気になるな!」
二人組の魔術師がリーゼウスに襲いかかる。リーゼウスは難なく躱し、二人を蹴り飛ばす。
「いい加減諦めてくれ。お前たちの相手をしている場合じゃないんだ」
「「うるさい!死に絶えよ!」」
二人が同時に死の魔術を唱える。リーゼウスの隣にいた悠も当然巻き込まれ、魔具で受け止める。だが先程もだったがこの魔術に関しては悠の魔具では防ぎきることは出来ない。リーゼウスはそれに気づき、自分に向かってきている魔術を切り反らし、悠の前に立ち防ぐ。
「一条君、アリスはこの通りを真っ直ぐ進んでいったはずだ!ここはおれに任せて行け!」
悠は頷き、先に進む。それを見た片割れが悠の前に立ちはだかる。
「お前も死ぬんだよ!」
「どけろ!」
悠は拳を突き出した。
※ ※ ※
バルボロはアリスに次々と魔術を浴びせていく。死なないように、かつ確実に削っていけるように。じわじわとアリスを追い詰めていく。
「切り裂け」
バツン、と辺り一帯の建物全てが切り倒される。その様子を見てバルボロは冷や汗をかく。
「下級魔術でこの破壊力……!火力は『最強』クラスか!」
だが――――と続ける。
「満月の夜にしか戦えない蒼月の魔術師は圧倒的な経験不足。そこをつけば……ほら、一丁上がりというわけだ」
アリスは膝をつく。何かがアリスの足を掴んできたのだ。アリスは足を掴んできたそれを見てぞっとする。『D機関』の信者たちだった。彼らは静かに息を殺し、魔力を殺し、ゆっくりとアリスの背後に近づき、そして捉えた。
「よくやった」
アリスの体が硬直する。魔術会が闇墜ちを捕えるときによく使われる拘束魔術だ。縄や錠で拘束するよりも逃走の確率が低いやり方だ。
信者たちはアリスから離れ、囲むように円陣を組む。よく見ると全員男で、一目で分かるぐらいゲスな表情をしていた。
バルボロが円陣の中に入り、杖を振り、結界を張る。これでアリスは完全に逃げ道を絶たれた。
「蒼月の魔術師、ようやく私のモノにできる。この日をどれほど待ちわびたか」
バルボロはアリスから杖を取り上げ、バキン、と目の前で折り捨てた。アリスは抵抗しようとするが体が全く動かない。バルボロはゆっくりのアリスの服を脱がしていく。アリスは声を出そうとするが信者がアリスの口を塞ぐ。
「まずは私からだ。その後は三日間君たちの玩具にしてやろう。好きにするといい」
服が剥ぎ取られ、アリスの白い肌があらわになる。アリスの目には涙が浮かんでいた。眼の前にあるのは死ぬよりも怖いものだった。これから自分がされることを想像し、抵抗できないアリスは泣くしかなかった。
それを見てバルボロは笑う。
「お前は今から尊厳という尊厳をすべて失う!我々の玩具だ!新しい世界を作るには少々ストレスがきつくてな。たまには発散も必要だろう。喜べ、蒼月の魔術師!お前は新たな世界を作るための礎となる!」
バルボロはアリスに覆いかぶさる。もうだめだと覚悟を決めたその時、その場の者全員の動きが止まった。
ピシ、と音がし、結界が崩れ落ちた。そして円陣を組んでいた信者たちが吹き飛んだ。それを見たバルボロは杖を取り出し立ち上がる。
「何してんだお前」
ゴスッ、という鈍い音がし、バルボロの顔面がクシャクシャになった。
「が……!?」
「アリスに何してんだって聞いてんだよクソ野郎!!!」
現れたのは護衛役・一条悠だった。悠は上着を脱ぎ、アリスに着させる。悠がバルボロを殴ったことにより術が解け、アリスは動けるようになった。
信者たちが悠を取り押さえようとする。が、悠はそれを避け、次々と投げ飛ばした。
「てめぇが黒幕か。おれはな、お前みたいなクソ野郎が大っっっっっ嫌いだ!」