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第25話 残虐なあなたへ⑩『殺す者』

 それはゆっくりと歩いてきた。まるで人間のように。軽やかな足取りでバルボロの隣に立った。それを見てオルタナは冷や汗をかく。


「随分と面白い実験をしているじゃないですか。悪魔とお友達にでもなるつもりですか?さすが悪魔崇拝者」


 それは産婦人科病院で暴れた赤子の悪魔の成体だった。たったの一週間で人間の大人ほどの大きさまで成長していた。


「実験の結果分かったことだが、産まれたての悪魔は人間を食らう、滅ぼすという概念をまだ持っていないらしい。それどころかせっせと世話をしたらそれが人間であったとしても仲間と認識するようだ。お陰でこの悪魔は我々の立派な兵士……象徴になったよ。悪魔の世界を作る第一歩だ」


 悪魔はオルタナに近づく。確かに所作は拙いところがある。指をしゃぶったり辺りをキョロキョロしたり、あらゆるものに興味を惹かれているようだ。


「そういえばまだ名前を決めてなかった。そうだな……殺す者(マーラ)でどうだ?殺して殺して殺しまくって、我らが宿願の礎となってくれ」


 殺す者(マーラ)はオルタナを見て姿勢を低くする。どうやらオルタナに興味を持ったようだ。


 ドン。


 地面が抉れ、舗装された道路が殺す者(マーラ)を中心に割れる。オルタナは杖を構え魔術を唱えようとしたが、気がついたら宙を舞い、空を見ていた。


「……は?」


 その速さはオルタナが今まで戦ってきたどの悪魔よりも速かった。振り下ろされた拳がオルタナのみぞおちにめり込む。オルタナは体を捻って衝撃を流す。それでも息が止まるほどの激痛。


 体を捻り、そのまま殺す者(マーラ)を蹴り落とす。


雷撃龍の咆哮(ボルタ・ブレス)!」


 轟音とともに殺す者(マーラ)の周囲が爆発した。そして土煙の中から出てきたのは無傷の殺す者(マーラ)だった。


「……!」


 殺す者(マーラ)は愉しそうに笑う。オルタナを(おもちゃ)と認定したようだ。


 殺す者(マーラ)が両手を広げると全方位に魔法陣が展開される。そしてゆっくりと手を合わせると、今度は魔法陣から黒い氷柱のようなものが現れ、オルタナに照準を定める。


『▲▲・■■■』


 聞き馴れない魔術だった。黒い氷柱は一斉にオルタナに襲いかかった。オルタナは上空に雷撃龍の咆哮(ボルタ・ブレス)を放ち、氷柱の軌道を変える。だが魔法陣から次々と現れ、絶え間なくオルタナに襲いかかる。


 それを見たバルボロはオルタナに背を向け、その場を立ち去る。


「どうやら私の出番はなさそうみたいだからお暇するよ。私はこれから蒼月の魔術師に用があるんでね」


 バルボロの次の標的は蒼月の魔術師ことアリス・レイスだった。ただアリスについては殺すのではなく、劣情の標的となっていた。


 オルタナはバルボロを追いかけようとしたが殺す者(マーラ)がそれを許さない。バルボロはオルタナの悔しそうな叫び声を聞き、悦に浸りながら立ち去るのだった。


 バルボロはブロードウェイを後にし、街に散った仲間に招集をかける。


「魔術会の動きはどうだ?」


 バルボロは誰もいない空間に問いかける。するとどこからとなく女が現れ、バルボロの問いに答える。


「まもなくここに着きます。今夜は満月なので蒼月の魔術師が主となって来ています」


 それを聞いてバルボロは笑う。


「ハハハ、蒼月の魔術師……あれを我が物にできると思うと今から楽しみで仕方がない!くくく、くははは!」


 バルボロの頭の中はすでにアリスを犯すことしかなかった。


『D機関』のメンバーが揃い、バルボロは迎撃の指示を出す。


「まもなくブロードウェイに魔術会が入ってくる。君たちの仕事はただ一つ、彼らの足止めだ。蒼月の魔術師を孤立させろ。今回は蒼月の魔術師さえ抑えてしまえばこちらの勝利だ」


 当然デイビッドが出張ることも想定していたが、そこについてはあえて触れないようにした。


 ※


 ※


 ※


「無茶はするなよ、アリス。お前は満月の夜は最強とはいえ戦闘経験が浅い。やばいと思ったら直ぐに引いておれのところに来るんだ」


 デイビッドは正直なところアリスをこの場に連れてきたくはなかった。何なら普段から任務についてほしくないと思っていた。


 なぜならたった一人の家族だから。


 レイス兄妹は幼いころ両親を悪魔に殺された。そしてその悪魔はたまたま魔術に目覚めた兄妹によって倒された。それがきっかけで魔術会に入り、戦いに身を投じるようになった。


 デイビッドはめきめきと頭角を現していく中、アリスは満月の夜しか魔術が使えずいつも泣いて帰ってくる。


 そんなアリスを見ていてデイビッドは戦ってほしくないと思っていた。だがアリスは満月の夜に限っては魔術会の最高戦力になる。個人の私情でその最高戦力を使わないという選択は出来ない。


 できるならこのままついていって守ってやりたいが、魔術会副会長という立場がそれを許さない。よって、デイビッドの思いは必然的にアリスの護衛の男に託される。


「一条悠、アリスを頼むぞ。もしアリスに何かあれば、おれはお前を殺す」


 傷の癒えぬ悠はデイビッドに身体強化魔術をかけてもらい、痛む体に鞭打って動いていた。


「……必ず!」


「一条君は今日は後ろで控えていてください。今日は大丈夫ですから。今日に限り私が一条君を守ります」


 アリスはそう言うと杖を取り出し、誰もいないブロードウェイに向けた。


「そろそろ来ます。全員構えてください。三、二、一……今!」


 今、と同時に『D機関』の者たちがどこからとなく現れた。


 一閃。


 青い光線が走り、『D機関』を吹き飛ばした。


「道は私が作ります。皆さんは奥へ」



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