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第18話 残虐なあなたへ③『三歳の勇気』

「僕はお兄ちゃん、僕はお兄ちゃん……!」


 分娩室が真っ赤に染まり、医者も、助産師も、母親も、みんな血の海に沈んでいた。そんな中テリスが全身血で真っ赤になりながら()()()()()()()()()()()()()()()()を睨みつけていた。


「僕は……お兄ちゃんだ!」



 ※ ※ ※



 十分後、リーゼウスたちが病院に到着した。今回は悠とアリス、ヘレナも同行していた。


 扉に描かれた五芒星を見てリーゼウスは舌打ちする。他の魔術師たちも同様だった。唯一悠だけがわけが分からず頭に?を浮かべていた。


「アリス、あのマーク見たら空気が悪くなったけど何なの?」


「あれは五芒星です。悪魔崇拝の象徴。魔術会の天敵です。悪魔崇拝のたちの悪いところは魔術を使えない一般人が悪魔を崇拝して召喚儀式をしてしまうところです。これについては儀式が終わるまで監視役も感知できないので必ず被害が出てしまうんです。あと、やった本人が本物をやっているという自覚がないのも厄介です」


「全員杖を構えろ。一条君とアリスは破撃の魔術師についていって東から、他はおれと西からだ」



 病院は静かだった。


「静かすぎる……ここ産婦人科医院なのに赤ちゃんの泣き声が全くしない」


 それはつまり最悪の事態を想定しなければならないということだった。


 一階は誰もいなかった。電気は止まっており、エレベーターは作動していない。悠たちは階段で二階に上がる。二階は手術台室や分娩室があるフロアだ。


 二階に上がる途中からすでに生臭い匂いが漂っていた。階段を登りきり、二階のフロアに入る。ヘレナは呆然と立ち尽くし、悠とアリスは目を反らした。


「今回のは本当に胸糞悪いやつね」


 赤子の泣き声がしない理由は今目の前にあった。壁に杭のようなもので()()()()()()()()()のだ。


「ここまで残酷にやる悪魔は初めて……二人とも、気分が優れないなら出てもいいわよ。ここから先は多分さらに嫌なものを見ることになると思うから」


「……大丈夫です、行きます」


 アリスは吐きそうになるのをこらえながら進む。悠は赤子を見てそっと頭を撫でる。


「せっかく産まれてきたのに……これからなのに……ごめんな」


 悠は杭のようなものを抜き、赤ちゃんを抱きしめる。それを見たヘレナとアリスは悠に習って赤子を解放していった。


 殺された赤子は全部で七人だった。


「行くよ。このくそったれを早く終わらせるわよ」


 三人は更に奥に進む。そして分娩室を通り過ぎようかというところで、分娩室の中から「カチャン」と物音がした。三人はヘレナを先頭にゆっくりと分娩室に入る。


 分娩室は真っ赤に染まっていた。


 アリスは分娩台を見て目を反らす。そこには出産中だったであろう女性の死体があった。その上には小さな子どもも。


「……!」


 悠は死体を見て息を飲んだ。悠はその顔を見たことがあった。ついこの前、ハイドパークで出会った女性だ。そうなると女性の上でこと切れている子どもは……。


「テリス君……」


「うそ……」


 悠がテリスの名を口にしたことでアリスも気づいた。テリスは母親を守るように抱きしめていた。テリスの指がピクリと動く。まだ生きていた。


「ヘレナさん!まだ生きている!この子をすぐに……!」


「ぼ……ぐ……にぃぢ……や……」


 テリスは悠の背後を指差す。


「だず……げ……」


「喋るなテリス君……お母さんを守ろうとしたんだね。君はすごい勇気の持ち主だ。だから――――」


 テリスの指差す先に悪魔がいた。何かするでもなく、ただ、静かにこちらを見ていた。


「あとはおれたちに任せてくれ」


 悪魔は小さかった。まるで産まれたての赤子のような――――。


「まさか……母胎に悪魔を召喚したのか!しかも胎児に憑依するように!いくらなんでもそれは……!」


 つまりあの女性は悪魔をお腹の中で育てていたことになる。


「……二人は出て。さすがにこれは二人にはやらせれない」


 ヘレナはそう言うと二人を分娩室から出した。悪魔の赤ちゃんは遊んでもらっていると思いキャッキャと笑う。おそらくこの悪魔にとってはあの赤子たちも全て遊びの範疇なのだろう。殺す意図も何もない。本当にただ遊んだだけ。


「さすがに赤ちゃんを殺すのは気が引けるわね……」


「じゃあ殺さないでくれないか?その子は大事な大事な実験体なんだ」


「!!」


 バチン、とヘレナの前で何かが弾ける。


「誰!?」


 ヘレナは声のする方へ向け爆破魔術を放つ。だが魔術はあっさりと防がれた。


「知る必要は無い。お前たちは全員ここで死ぬのだから」


 そして病院が爆発した。




ここらへんの話は考えるのが難しかったです。

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