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第16話 残虐なあなたへ①『魔術戦』

いかに残酷な物語にするか、それを追求していく作品です。

ここから一日一話でいきます。18時更新予定です。

 魔術戦の開催が発表された。約束の期限が刻々と迫っていた。ここで結果を残せなければ悠は魔術会に残ることは出来ず、尋問のうえ、記憶を消されて一般の世界に戻される。


 緊張に飲まれまいと目を閉じ集中する悠の後ろでオルタナとヘレナは静かに佇んでいた。


「しかし、デイビッドさんも悪いことするね。アレンの部下がいないタイミングを狙って魔術戦をするなんて」


「さすがに卑怯です。私は完全に一条君の味方です」


 ヘレナはふんすと肩に力を入れて拳を握る。オルタナは笑いながら悠の肩を叩く。


「肩に力が入りすぎだ、リラックスしようか」


「さすがに一人で出させるのはあまりにもアンフェアだから私達が一条君のチームに入るけど制約があるから……」


 今回の魔術戦はチーム戦だった。そして悠は本来リーゼウスたちと組むはずだったが、デイビッドが策を講じてリーゼウスたちアレン一派を全員任務につかせ、一人の状態にしたところで魔術戦を無理矢理ねじ込んできた。しかもチーム戦で。


 誰も悠のチームに入ることはなく、あわや一人で挑むことになりそうだったところを、オルタナたちが助け舟を出してチームに組み込まれた。


 ただオルタナたちはもともとデイビッドの部下であり、デイビッドは非常に激怒したが、オルタナが「非魔術師一人に大人気ないですよ、実はビビリなんですか?」と煽りをかけたことによりチームに入れたがおまけで後方支援のみという制約がついてきた。


「まあ大丈夫でしょう。後方支援のみだが、今の一条君なら十分魔術師と戦えるよ。私が鍛えたんだ、保証する」


「一条君、困ったときは全部ぶっ壊しちゃえばいいよの?」


「それができるのはヘレナさんだけですよ……はあ、クヨクヨしてても仕方ない、目的のためだ!全部ぶっとばす!オルタナさん、ヘレナさん、今日はよろしくお願いします!」



 ※ ※ ※



 意気込んだのはいいものの、やはり現実は甘くなかった。オルタナとヘレナは後方支援というもののほぼ突っ立っているだけだった。なんならオルタナは杖の手入れを始める始末。ヘレナは心配そうな顔で手を悠を見ていた。


「身体強化魔法かけておいたから、存分に暴れてくれたまえ。終わったら呼んでくれ」


「後方支援ってそういうことだったのか!?」


「よそ見とはいいご身分だなおい!犯罪者が!」


 バチン、と大きな音を立てて悠は吹き飛んだ。身体強化がされてなかったら間違いなく手足の一、二本飛んでいた。


 今回の相手であるデイビッドの部下の一人、オルスが叫びながら杖を向ける。


「場違いなんだよ。頼むから俺たちの前から消えてくれ、さもなくば兄もろとも死んでくれ、犯罪者!」


 兄の将が犯罪者であって、悠は別に犯罪者ではない。だが身内がそうだとどうやってもそういう風に見られるのが世の常である。そもそも悠はまだ魔術会に疑われている身なのでそう見られるのは仕方のないことだった。


 だが悠は謂われのない罪で非難されるのを我慢できるほど人間ができていなかった。魔具を抜き、瞬時に間合いを詰める。


 ヒュンヒュンヒュン。


 一瞬の間に悠は三度の攻撃を凌いでいた。


「まじかっ!?」


 オルスは悠が間合いを詰めてくるのを狙って仲間に背後から攻撃させていた。だが悠はその手には慣れており(オルタナに死ぬほどやられたため)、魔術を全て魔具でいなし、オルスの喉元に魔具を突きつけた。


 そしてお返しの挑発を御見舞する。


「魔術師でもなんでもないただの一般人にやられるあんたって、実は弱い?」


 多分ぷちん、と音がした気がする。オルスは怒り狂って魔術を乱発する。もはや狙いもくそもない。そこら中で爆発し、砂埃が舞う。そしてそれに合わせるように悠の背後から三人が出てきて悠に攻撃を仕掛けようとする。


「おっと、こいつがどうなってもいいのか?」


 悠はオルスを盾に三人の攻撃を止める。


「な、卑怯な!」


「やはり犯罪者だ!魔術会にこんな卑怯者はいらない!」


「ぐだぐだうるさい。悪魔が正々堂々正面切って相手してくれる紳士な生き物だと思ってんのか?だとしたらお前らおれ以上に魔術会(ここ)にいる資格ないぞ」


 悠は目的を果たすためなら何でもすると誓っていた。魔術が使えない悠が勝つには卑怯も手段にいれるしかない。


 その様子を見てオルタナは満足したのか高笑いして前に出てくる。


「デイビッドさん、ご覧の通りです。この状態だとこのあとどれだけやっても結果は同じでしょう」


 デイビッドは舌打ちする。


「下級魔術師ってこんなに弱いのか?」


「いえ、普通はこうはなりませんよ。一条悠がおかしいだけです。まあオルタナが鍛えたらこうなるのは目に見えてましたが……」


 完全に悠の勝利ムードになり、オルスたちは屈辱で肩を震わせる。


「認めねえ……認めねえぞ!切り裂け(スライサー)!!!」


 悠はオルスを蹴飛ばし、魔術をナイフで弾いた。


「は……!?」


「破撃直伝!破拳!」


 悠の拳が術をかけた男の顔面にめり込む。ようはただのグーパンである。


「ヘレナ、一条君に何教えてるの?」


「ちょ、ちょこーっと拳の使い方を……」


 ヘレナは顔を真っ赤にして目をそらす。


 もう一人が魔術を使う。杖から術が出たタイミングを狙ってナイフを杖に付きつける。すると杖先で術が弾け、男は吹き飛んでいった。さらにもう一人の胸ぐらを掴み、華麗な背負投げ一本。残すはオルス一人となった。


「ふ……ふざけぼらぁ!?」


 悠の拳はオルスの顎を綺麗に捉え、オルスは鈍い音とともに仰け反ってしばらくピクピクし、そして動かなくなった。


 デイビッドはため息をつき、審判に合図を送る。


 魔術戦は悠の勝利で終わった。それはすなわち悠の魔術会残留が決定した瞬間でもあった。



 ※ ※ ※



 悠が魔術戦を行っている同時刻、リーゼウスたちはデイビッドの指示で海岸に突然現れた扉の対処にあたっていた。


 ちなみに扉から出てきた悪魔は下級が数体だけだった。


「くそ!この程度にこの人数はおかしいだろ!一条君は大丈夫かな。今回はオルタナさんがついているから……不安だ」


 オルタナが見るとぶっ壊れるとの、噂はリーゼウスにも流れてきていた。本当に魔術戦を乗り切れるか不安だった。


「まあ大丈夫でしょう、一条君、なんだかんだオルタナさんのシゴキに耐え抜いたんですから」


「だといいんだけど。これで負けたら多分世話任されてるおれがアレンさんに殺されるんだろうなぁ、はあ」


 悪魔の討伐が終わり、扉が崩れていく。そしてリーゼウスは目にしてしまった。


「……!リーゼウス、これは」


「まじか……!」


 扉があった場所に現れたのは悪魔崇拝の象徴、五芒星の陣だった。


「すぐに周辺を閉鎖しろ。犯人はまだ近くにいるかもしれない……」


 リーゼウスは杖を振り上げ、五芒星を破壊する。


「明らかに挑発してきてるよな?誰だが知らないが、いい度胸だ」


 リーゼウスの杖を握る手に力が入る。リーゼウスはアレンからこの五芒星についての調査を頼まれていた。病院の件しかり、廃ビルの件しかり、最近魔術に全くゆかりのない一般人が悪魔召喚をする事件が頻発しており、アレンは悪魔崇拝が背後にあると睨んでいた。


 明らかに魔術師が絡んでいることから、魔術会に悪魔崇拝が潜んでいる可能性を考慮し、内密に調査をしていた。


「魔術会の中級以下全て調べろ。今本部にいないやつが全て容疑者だ」

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