表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/27

第15話 破撃一閃

その3です。

 悠たちはロンドン郊外に静かに佇む廃墟ビルに来ていた。これはオルタナによる修行の一環で今回は実際に悪魔と戦って今の状態を確認するというものだった。


「ちょうどよく任務が回ってきてね。ロンドン郊外に廃ビルがあるのは知ってるね?……ああ、一条君は知らなかったね。あるんだよ。十年くらい前にオーナーが撤退して以来誰も管理しなくてボロボロのビルになってね、今じゃホームレスが住み着いてるところさ。監視役の情報によるとそのビルの屋上で扉が開かれたらしいんだ。今回はそこそこ大きい扉らしくて悪魔がそれなりの数来ているらしい。だが幸いなことに全て下級とのことだ」


 悠はその情報を鵜呑みにすることができなかった。オルタナは悠のもやもやする表情を見て「大丈夫」と続ける。


「君の懸念はよく分かっている。こちらも万が一を考えて手練の部下を偵察に送った。そしてその部下からの情報は監視役からの情報と一致したから今回は問題ないよ。存分に戦ってくれたまえ」



 ※ ※ ※



 悠はヘレナと一緒に廃ビルの探索に入る。オルタナは別件で動くとのことで別行動だった。


「さて一条君、お姉さんと恋バナでもしようか?」


 悪魔がうろつく不気味な廃ビルでヘレナは突然この雰囲気に合わないネタをぶっこんできた。


「き、急に何を……!?」


「一条君とアリスのことよ。ね、ね、どうなの?二人は実はもうデキちゃってたりしてるの?どこまでヤッたの?お姉さん知りたいな〜」


 いきなり乙女な感じできたが悠は忘れていない。先日抱きしめられたときとんでもない馬鹿力だったことを。ヘレナ・ベレットはゴリラ――――「今失礼なこと考えた?」


 横でヘレナがムスッとした顔で睨んできていた。悠は「何でもないですよ」と苦笑いするのだった。


「で、一条君はアリスのこと好きなの?」


 悠は考える。確かにアリスは可愛い。スタイルも良いし意外と面倒見もいい素敵な女性だ。だが悠の中でアリスはあくまで護衛対象であり、兄と出会うための手段でしかない。


「そういうのはないですね。まあ、いい人だとは思いますけど」


「ふぅん、ま、いいわ。いずれってこともあるかもだし。じゃあとりあえず私とかどう?お姉さん、実は今フリーなんだ〜」


「あ、遠慮しときます」


「ちょっと、なんでそこだけ真顔即答なの!?」


 ヘレナはぶーぶーと悠の肩を叩く。ものすごく響いて骨に悪い。


 そこにびちゃびちゃと音を立てながら黒い生き物が部屋の奥から出てきた。悪魔だ。


「……もうちょっとおしゃべりしたかったけど、またの機会ね。一条君、とりあえずやってみ――――」


 ヘレナが言い終わる前に悠は動いていた。魔具のナイフを抜き、悪魔に向かって走る。悠に気づいた悪魔は笑みを浮かべて大きな口を開ける。


「ふっ」


 悠は悪魔の股の下を滑り込むように潜り、ナイフを振り上げる。その衝撃は悪魔の頭まで届き、悪魔は縦に破裂して左右に割れて倒れた。


 それを見たヘレナは息を飲む。だが悠はもっと驚いていた。


「え?」


 今までこんなあっさり終わったことはなかった。奥からさらに悪魔が二匹出てくる。悠は流れるように悪魔の懐に入り込み、ナイフを突き立てた。


 悪魔は声を上げる間もなく弾け、どす黒い血の雨が降り注いだ。


「……これはセンスの塊ね」


 ヘレナはただただ驚いていた。かれこれ十年近く悪魔と戦ってきたが魔術師でないただの一般人が悪魔を倒す姿など見たことがなかった。


 ありえない光景にヘレナは体が熱を帯びていくのを感じていた。


「一条君すごいわね」


 先ほどは冗談で独り身発言したが、少しばかり考えを改めた。一条悠といれば熱を感じられる、ヘレナはそう思ったのだった。


「きゅるきゅるきゅる」


 不気味な声とともに悪魔が奥から出てきた。今度は気持ち悪いくらいうじゃうじゃと湧いてきた。


「これどっから出てきてんだ!?」


 ヘレナは杖を抜くと悠の前に出る。


「今回の実戦はこれで終わりね。こっからは研修ってことで。オルタナの魔術は見たよね?次は私の……破撃の魔術師の魔術を見せてあげる」


 ヘレナの杖先に五重の魔法陣が展開する。


爆ぜろ(ボンバーノ)


 爆破魔術が悪魔を貫き、ヘレナの正面にいた全ての悪魔が弾け飛んだ。


「――――は?」


 そして悠に見せたあの怪力も。悪魔がヘレナに飛びかかる。ヘレナは悪魔の頭を掴むとそのまま地面に叩きつけ、さらにヌンチャクのように振り回して悪魔をなぎ倒していった。


「なんつー馬鹿力……」


 そしてすべての悪魔がたおれ、真っ黒い血の海の真ん中にヘレナは佇んでいた。


「ふう……」


 ヘレナは自分の魔術が嫌いだった。ゴリラみたいな怪力、ひたすら敵を爆破して悪魔の血を浴びる日々。オルタナのように華麗に戦うのを夢見ていたがそれは叶わなかった。ヘレナは身体強化と爆破魔術()()使えなかった。この世界で生きていくにはドロドロの戦い方しかなかった。おかげでオルタナ以外は近付いてくれない。


「これで一条君にも距離を置かれるかな。はぁ、オルタナは意地悪だな……」


 悠の顔は驚きの表情だった。これからお姉さんとして色々遊べるかと思ったがどうやら無理そうだ。


 ヘレナは血を拭き取ると悠に「行きましょ」と言って階段を上がる。だが悠の口から発せられた一言に足が止まった。


「……スゴいですね」


「……はい?」


「なんか……よくわからないけどスゴいってことは分かりました。ヘレナさん、おれに戦い方を教えて下さい。魔術が使えないおれはヘレナさんの戦い方が一番参考になります。おれの師匠になってください!」


「うぐっ!?」


 悠は真っ直ぐな目を向けてヘレナに師になれとお願いしてくる。こんなに真っ直ぐ見てくる人は初めてだった。オルタナやアレンみたいな人はそもそも眼中にないみたいな感じでくるし、とにかく一人だったヘレナにとってこの目は(ごほうび)だった。


「し、仕方ないなぁ。私についておいで、一条君!」


 悠は破撃の魔術師に弟子入りした。



 ※ ※ ※



 オルタナは廃墟ビルの地下であるものを見ていた。そのあるものを見て周りの部下たちはざわつく。


「オ、オルタナさん、これって……」


「……リーゼウスを呼んでくれないか?君の案件だ、といえば来るはずだ」


 オルタナの眼前には首筋を切って自害したと思われる女の死体、血で描かれた魔法陣、そして壁に大きく描かれた五芒星。五芒星は悪魔の象徴でもあった。


「悪魔崇拝……!」


「ああ、それも上級魔術師が絡んだイカれ儀式だこれは」


 オルタナは五芒星が描かれた壁に向けて杖を振る。ピシッと音がして亀裂が入り、五芒星が真っ二つに割れる。オルタナの顔に笑顔は無かった。


 五芒星――――それは世界を恐怖のどん底に突き落とすマーク。この五芒星が悠に新たな戦いをもたらすこととなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ