第13話 摘発
本日は3話更新します。
その1です。
任務の翌日、アリスが悠に魔術戦の延期を伝えてきた。理由は不明だが恐らく先日の任務が影響しているのだろう。悠は部屋の奥から「分かった」とだけ返事を返すのだった。
悠はまだ部屋から出てこない。
アリスは少し心配していた。こうなる気持ちは分からなくはない。アリスも初めての任務のとき目の前で一般人が悪魔に殺された。アリスの場合悠と違い戦うことすらできずに終わった。
あのときアリスは一週間吐き続けた。
「一条君……無理することないから。落ち着いたら出てきて」
そう言ってアリスは悠の部屋の前から消えていった。
※ ※ ※
デイビッドとオルタナは部下を引き連れてある場所に向かっていた。そこはアレンが二人に告げた、闇堕ちがいるであろう場所。
「もしあいつの言ったことが本当なら本部はもうおしまいだぞ?」
「いやいや、そうしないためにこっちが総出で出張ってるんでしょうが。全部潰せばいいんですよ」
そう言うとオルタナは目の前にある扉を蹴破った。そしてそのまま部屋に真っ直ぐ入り、部屋にいた男に魔術を放った。
「雷撃!」
バチン、と大きな音を立てて男は吹き飛んだ。周りにいた魔術師たち五人が一斉に立ち上がり、オルタナに魔術を浴びせる。
オルタナは防御魔術で全てを防ぎ、近くの男の頭を掴み地面に叩きつけ、更に頭を踏み潰した。ベキベキと鈍い音を立てていたあたり、恐らく首の骨が折れているだろう。
「全員杖を捨ててその場で膝をつけ。警告はした。速やかに行わなければ全員こいつと同じだ」
オルタナは足元の男を指さしながら警告する。だがオルタナの顔は笑っており、デイビッドたちも少しヒいていた。
「デイビッドさん、やっぱりオルタナってイカれてますね」
デルタはため息をつきながらオルタナのもとに行き、足元に転がる魔術師の脈を確かめる。かろうじて生きているのを確認したデルタは治癒魔法を施し、折れた骨を戻し、傷を癒やす。
「このバカを治療室に連れて行け」
デイビッドの部下たちが男を担いで部屋を出ていく。その様子をデイビッドは「いったそー」とつぶやきながら見るのだった。
他の魔術師たちはオルタナを前に戦意喪失し、すぐに杖を捨てて投降してきた。だがオルタナは何かが気に入らなかったのか、更に一人電撃を浴びせた。
それを見て他の魔術師たちが一斉に非難を浴びせる。
「おい!おれたちはあんたの警告通り投降したじゃないか!」
「上級魔術師サマは卑怯者か!」
それを聞いてオルタナから笑顔が消えた。そしてこめかみに血管がうっすらと浮かび上がった。それを見てデイビッドは間に割って入ろうとするが、遅かった。
パチン、と音がしたかと思うと残りの四人の魔術師が白目を向いて倒れた。
「どの口が言っている?陰でコソコソと悪巧みして人を殺してるお前たちは卑怯者じゃないのか?」
オルタナはさらに魔術をかけようとする。見かねたデイビッドはオルタナから杖を取り上げた。オルタナはムスッとした顔でデイビッドを睨みつけたがすぐにいつもの笑顔を取り戻した。
「大変お見苦しいものをお見せしました」
そう言うとオルタナはデイビッドから杖を受け取り部屋を後にする。その際「ああ、そうだ」と思い出したように立ち止まる。
「デルタ、尋問は程々にしておくんだぞ」
オルタナは手を振って消えた。
※ ※ ※
「さて、話を聞きましょうか」
デルタは杖を手でぺしぺしと叩きながら闇堕ちの六人の前をうろうろと歩く。全員柱に縛られ、ボロボロになっていた。デルタの尋問はなかなか過激なようで、一人は既に白目を剥いてよだれをたらしながら笑っており、精神がイカれていた。
「あなたたちの行いは人類への裏切りです。ここまで証拠があるんです。本来なら即処刑モノですが、私は非常に優しい。会長も副会長もとても寛容な方々だ。君たちの後ろにいる者の情報を提供すれば拘束を解くと言っている。そう、これは司法取引のようなものです。今ならまだ引き返せます。情報を話し、再び我々の手をとろうという者はいませんか?」
デルタは譲歩の道を示し、情報を吐かせようとする。だがだれも口を開かない。
全員うつむく様子を見てデルタは舌打ちする。
「仕方がありませんね。もう一人ほど彼のようになってもらいますか」
そう言うと精神を壊してヘラヘラしている男の隣の男に対して魔術をかける。
「悪夢崩壊」
黒い靄が男の顔を覆う。そして男は悲鳴をあげる。それを見て周りの男たちは見てわかるくらいにガタガタと震える。
「悪夢崩壊」は対象に文字通り悪夢を見せ、精神を崩壊させる拷問魔術である。大体はこの魔術をかけられそうになったら口を割る。なぜならこの術をかけられたらもう二度と普通の生活は送れないからだ。生ける屍である。
だがそれでも彼らは黙ったままだ。
「……はぁ。これ以上は期待できないですね」
そう言うとデルタは杖をしまう。すると六人の縄が解け、奥の部屋に引き込まれていった。その部屋は魔術師専用の牢獄で、部屋では魔術が使えず、さらに設計者の許可なしに出ることはできなくなる。ちなみにこの部屋の設計者はデルタである。
「悪夢崩壊でも口を割らないとは……背後にいるのはよほどの存在というわけですか……」
デルタは今回の件の背後に大きな何かが動いているのを感じていた。
※ ※ ※
翌日、魔術会本部はデイビッドたちによる闇堕ち摘発の話でもちきりになった。裏切り者の確保を讃える一方全員どこかで疑心暗鬼になっていた。
その様子を見てオルタナは薄ら笑いを浮かべていた。
「は……いけないいけない」
オルタナは少しばかりイカれている。悪魔と戦い続け騒乱が日常となっていた彼は今の比較的平穏な世の中に飽き飽きしていた。
「しかし……このギスギスした空気、やはりいいですね。物足りないかんじではありますが……荒れる予感がしますよ」
オルタナはとある部屋の前に来ていた。扉をノックすると出てきたのはアリスだった。
「どうしましたか、オルタナさん?」
「一条くんを預かりに来ました。あぁ、アレンには許可を得ています」