第1話 青天の霹靂①『開門』
現代舞台のダークファンタジーものです。色々ツッコみたいところが多々あるかもですが温かい目で見てもらえると幸いです。
まさに青天の霹靂だった。日常は突然消え去り、血なまぐさい現実が襲いかかる。一条悠はただそれを見ていることしか出来なかった。日常をぶち壊した張本人、兄の一条将は高笑いして悠を見下ろしていた。
「殺してやろう、悠」
「……何、やってんだよ兄ちゃん……!」
一条兄弟が訣別した二〇✕✕年十二月二十五日の出来事であった。
※ ※ ※
今思えば将の言動はどことなくおかしかった。
たまに悪魔だの何だの呟くし、よく地下室にこもるし、そもそも何故このど田舎に地下室なんてものがあるのか。海外では地下シェルターとか有名だけど日本じゃ正直そこまで普及してなく珍しい。
その地下室は近づこうとしたら気がついたら部屋で寝ている状態。明らかに何かある。
ある日悠は将が家を空けている隙に将の部屋に忍び込んだ。将の机の引き出しには地下室の鍵がある。悠は鍵を取ると地下室に忍び込む。鍵を差し込むとまた意識が遠のく。
「う……」
悠は頬を全力で殴り意識を保つ。口の中を切って鉄の味がするがそこは気にしない。
ついに地下室の扉が開く。地下室は書斎のようなところだった。
「なんだここ……?」
「あーあ、見ちゃったか」
その言葉と同時に頭に衝撃が走り、悠の意識は遠のいていった。次に目を覚ますと家は無くなり、家のあったところは更地になっていた。
「!?どーなってんのこれ!?展開早すぎてついてけないんだけど!?」
まるで爆心地のような更地になった元家のあった場所で叫ぶ。悠はとりあえず辺りを見て回る。悠の家は山奥にあり、周りに人はいない。
『開門』
どこからか聞こえてきたかと思うとあたりが暗くなり、温い風が吹き始めた。温い風が悠の顔を打ち付ける。どろっとした感覚が悠を襲う。
悠は息苦しくなり膝をつく。呼吸が浅くなり、変な汗がブワっと溢れる。
「気持……ちわる……っ!」
悠がうずくまって苦しんでいるところに将がゆっくりと寄ってくる。将はなぜかボロボロになっていた。
「兄ちゃ――――」
「お前が悪いんだ悠。今から起きる事態は全てお前のせいだ」
そう言うと将は再び消えた。視界が霞む中、一つ分かったのは、将は明らかに笑っていたことだった。
将は杖を取り出し、ヒュンと一振りする。すると辺りの木々がざわめき始め、道が開ける。将はゆっくりとその道を歩く。
「そろそろ安全装置が働くな。『魔術会』が来る前に――――」
「ちょっっっっっっと待てや兄ちゃん!!!!」
背後から悠が走って現れ飛び蹴りを食らわせる。将は背中を蹴り飛ばされ姿勢を崩す。悠はそのまま将に馬乗りになり胸ぐらを掴む。
「痛って……何で動けてんだお前……毒まいといただろが……」
「あっぶな!あの気持ち悪くなるやつ毒だったの!?弟に何やってくれてんだ?てか説明!今これどーなってんの?なんで家ぶっ飛んで更地になってんの?つーかおれのせいってどゆこと?」
「人の上でばか騒ぎしてんじゃねえよ!重たいんだよ!どけ!」
将は悠を投げ飛ばし立ち上がる。
将は杖を拾い、悠に向ける。
「拘束」
どこからとなく縄が現れ悠を縛り上げる。縛られ身動きが取れなくなった悠はその場に倒れ込む。首も縛られ息が出来なくなる。
「全部、全部お前のせいだ。見ろ」
悠の目の前に映像が映りだす。そこには現実とは思えないものが映り込んでいた。
逃げ惑う人々、飛び交う怒号、悲鳴。血飛沫。そして見たこともないバケモノ達。バケモノ達は人々を次々に襲い、頭を潰し、手足をもぎ、臓物を撒き散らす。
「な、んだこれ……はは、何これ兄ちゃん、映画の撮影かなんか?」
「……お前は全くもって面白くないことを言うな。現実に決まっているだろ。ほら、現に――――」
将は言葉を遮り悠に道を見せる。こちらに向かって人々が走って逃げてくるのが見えた。その背後にはバケモノ達。バケモノ達はニヤニヤしながら人々を追いかける。
「……愉しんでやがる」
悠は歯ぎしりする。どれだけ踏ん張っても縄は解けない。
「兄ちゃん!これ解いてくれ!みんなを……」
「うるさい黙って見とけ」
将は今まで聞いたことのない冷たい声で悠を押さえつけた。
バケモノ達に捕まった人々は悠の目の前で殺される。バケモノ達は人々を玩具のように振り回していた。そんな中右手を失った男性がふらふらと将の元に寄ってきた。
「頼む、助けてくれ、頼む……」
「悪いがそれはできない相談だな、赦せ」
将は杖を向け、小さく振る。杖の先から赤い閃光が走り、男性をバケモノ達の足元に吹き飛ばした。
「え」
「誇ってくれていい。君たちは世界を救う礎になるんだ」
男性に気付いたバケモノが大きく口を開き上半身をバクンと丸呑みした。そして頭だけを「ペッ」と吐き出す。
悠の脳内では理解が追いついていなかった。非現実な世界が悠に突然襲いかかる。辺りが真っ赤に染まり、悠にも血が降りかかる。
悠はなんとか首の縄を解く。将は血の雨が降る中高笑いし、悠を見下ろしていた。
※ ※ ※
将は悠の髪を掴み引っ張り上げ、蹴飛ばす。
「……そろそろか」
突然辺りが膜のようなもので覆われる。見たところ街全体を覆っているようだった。そして膜のようなものが僅かに震えた。
「……!」
「逃げないんだな」
将の背後に突然現れた男。男は今風なツーブロックヘアで黒スーツを纏っており、将の喉元にナイフを突きつけていた。
「アレン・グレイマン……!日本支部最強の男。君のような大物がくるとは」
「褒め言葉として受け取らせてもらうよ。新蔵君、追加で結界を張ってくれ」
新蔵と呼ばれた男は一礼するとアレンに背を向け杖を空中に一振りする。すると同じ膜のようなものが再び街を覆い始めた。
「さて一条将。お前には色々とやってくれたな。おれが直々に話を聞いてやるから来てもらおうか」
「魔術会の悪いところは敵と分かっていながら初手で決めないところだと常々思っている。相手が魔術師ならなおさらだ。こういうことになる」
そう言うと将の喉元に突きつけられたナイフが弾け飛んだ。将はアレンと距離をとり杖を構える。
「あまり舐めないでくれよアレン・グレイマン。おれはナイフごときで倒せないぞ」
「いや、これで十分だろ。お前、色々やってはくれてるが……弱いじゃん(笑)」
「煽っても何も出ないぞ」
そう言いながらも将の杖の前に魔法陣のようなものが現れる。
「お、やるか?」
だが二人が衝突する前に二人の間にバケモノが割り込んできた。将はそれに乗じて地面に沈んで逃げようとする。そもそも沈むというのが訳が分からず悠は目を丸くする。
「今日は退かせてもらう。さすがにアレン・グレイマン相手に何の準備もなしに挑むほどバカじゃあない。悠、自覚しろ。お前が生きている限り悪夢が再現される」
将は悠を指さしながら言う。
「あいつは何を言ってるんだ?悪夢って?」
アレンの周りにいた男たちは将の言っていることが分かっていないようだったが、アレンは鋭い目で将を見ていた。
「アレン・グレイマン。君には『魔術大戦』と言えば分かるかな?……言っておくぞアレン・グレイマン、王を絶対に目覚めさせるな。目覚めさせたら全て終わるぞ」
そう言うと将は地面に消えていった。アレンはナイフをしまうと舌打ちする。
「アレン、魔術大戦って何だ?」
「……さあな、おれにはさっぱりだ。一条将の追跡はあとだ。あそこでぐるぐる巻きにされてる可哀想な少年を助けてやれ」
アレンは杖を構えるとバケモノの群れに突っ込んでいく。
「さすがに一人は疲れる。新蔵君、ついてきてくれ」
新蔵はアレンの後に続いてバケモノの群れに消えていく。それを見届けたところで悠の意識はゆっくりと闇に沈んでいった。
最後に見たのは「暗闇で鎖に繋がれた何か」だった。
優しい心で評価してもらえるとがんばれます。よろしくおねがいします。