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運命の再会!?編

そんなこんなで、独り鼻ほじ歴もかなり長くなり、僕はもう運命の出逢いを夢見なくなった。

しかし、あのラパンの可愛いおね〜ちゃんの衝撃的な鼻ほじを目撃してからというもの、もっぱら僕のおかずはラパンちゃんだ。

それまでは、食器用洗剤やハンドクリームのCMだった訳だが…

とは言え、そうそういつも通勤時間にすれ違う訳は無く、だんだん僕の頭からラパンちゃんのイメージは薄れていった。


月日は経ち、今年もホワイトデーの季節がやって来た。

僕は毎年、女子社員にリクエストを聞いて、希望のスイーツをみんなに差し入れしていた。

うちの会社は、女子社員の人数もさほど多くはないし、第一センス悪い〜なんて言われなくて済む。

ホワイトデーの数日前、僕は事務の女の子達に聞いた。

「今年のホワイトデーのリクエストは?」

「わぁ!毎年ありがとうございます!最近新しく出来たパティスリーがあるんですけど、そこのコルネが美味しいって評判なんです!」

「あっ私も聞いた事ある〜」

「あそこのスイーツどれも可愛いし、美味しいって評判よね♪」

みんな口々に喋り出す。

「オッケー、じゃあ今年はそこのコルネで良いかな?」

「ありがとうございま〜す」

女子社員の反応に、こんなに人気なら、ハズレはないな…

と、僕も楽しみになって来た。


ホワイトデー当日、僕は午前の外回りを終えて、女子社員に教えてもらったパティスリーに寄った。

patisserieパティスリー fleurフルールというそのお店は、名前の通り可愛らしい印象で、お洒落な雰囲気が漂っている。

「いらっしゃいませ」

お店の女の子のにっこり顔も店名に相応しく華やかだ。

早速、噂のコルネを探すと、ショーケースの向こうには、空のトレーの上にコルネの写真が置かれている。

「あの…コルネってもう売り切れですか?」

「あぁ、いえ、当店ではパイ生地のサクサクをお楽しみ頂くために、ご注文を受けてからクリームをお詰めしております」

なるほど、こだわりの美味しさって訳か…

ますます期待が膨らむ。

僕は、女子社員の分だけでなく、自分の分も注文し、出来上がりを待った。

「お待たせ致しました」

しばらくして、トレーにコルネの山を乗せた女性パティシエが奥から出て来た。

彼女の顔を見て僕は、小さくあっ!と声を漏らした。

その顔は、マスクで少し印象が違うとは言え、僕の知っている顔だったからだ。


僕の脳裏に豪快な鼻ほじの映像が蘇る。

そう、彼女はあのラパンちゃんだった。

僕をチラリと見て彼女もまた、小さくあっと声を上げ、クルッと僕に背を向けた。

そのまま奥に引っ込もうとしたが、女の子は少し前に入ってきた初老の女性を接客中だ。

ラパンちゃんは、ちょっとためらった後ガックリと肩を落とし、諦めたようにコルネを箱に詰め始めた。

しかし、箱詰め作業は物凄くゆっくりと進められている。

きっと、途中で接客が終わってバトンタッチできないかな…とか思ってるに違いない。

これは、僕から見られてたってバレてるな…あ〜気まずい…

何とか僕と顔を合わせないように、頑張ってノロノロ箱詰めしている彼女を見ると、だんだん申し訳なくなって来たが、僕も

「もう良いです」

なんて言う訳にいかない。

女の子はまだ、おばぁちゃんに捕まっていて

「これは、何味なの?じゃあ、これは?」

とか、いちいち聞かれている。

一方のラパンちゃんは、いよいよ箱詰めが終わり、ノロノロとこちらを向いた。

「お待たせ致しました」

ラパンちゃんが、目線を伏せたまま、僕に箱を差し出す。

彼女は顔を赤くして、ちょっと怒ったような顔をしていた。

僕はおずおずと箱を受け取り、5000円札を差し出した。

ラパンちゃんは、眉間に皺を寄せて凄く嫌そうに

「5000円お預かりします」

と、受け取った。

まるで

『きっちり払って、とっとと帰ってよ〜』

と言う、心の声が聞こえて来そうだ。

そして、お釣りを受け取ろうと僕が手を伸ばした時、やっぱり怒ったような赤い顔で、僕にだけしか聞こえないくらいの低い声でこう言った。

「あの事、誰かに言ったらぶっ殺す」

その言葉にギョッとした僕は、ただ黙ってうなづいた。


こっわ!!

鼻ほじってんの見られた位でぶっ殺す、は無いよな!

そそくさと店を出た僕は、心臓バクバクだった。

女の子って見かけによらないよなぁ

可愛い顔してあんな事言うんだもんなぁ

夜な夜なラパンちゃんをおかずに、ラブラブ妄想鼻ほじをしていた僕は、まぁまぁなショックを受けたが、それでも彼女の指先チェックは忘れていなかった。

屋内仕事のせいか色白の綺麗な指は、太過ぎずそれでいて細過ぎない理想のサイズ。

職業柄きちんと切り揃えられ、手入れの行き届いているピカピカの爪。

残念ながら僕はめちゃくちゃ嫌われしまった様だが、僕の中では彼女の指は文句なしの100点満点だった。

「はぁぁ…もっと違う形で出会ってたらなぁ…」

思えば、僕はこの時既に彼女に恋していたのかもしれない。


会社に戻ると、良いタイミングで女子社員が午後のお茶の準備をしていた。

「お!ちょうど良かった、例のコルネ買って来たよ〜」

「わぁ!ありがとうございます!水島さんも一緒にお茶しましょうよ♪」

「うん、実はちゃっかり自分の分も買って来ちゃったんだw」

と、僕はコルネの入った箱を挙げて見せた。

「かな?と思ったんですよ〜♪水島さん、甘いもの好きですもんねw」

ラパンちゃんのあの一言にまだダメージを食らってはいたが、正直本当に楽しみで、僕は女子社員に混ざってお茶する事にした。

何しろこのご時世だ、週に2日程度の出勤日をわざわざ今日に合わせる男性社員は、極めて少なかった。

日頃からホワイトデーめんどくせぇな…と思ってた社員の多さが伺える。

僕は、普段ちょっと恐い部長や、親父ギャグが寒い所長が居なくて、かえってラッキー!と思っていた。


「お待たせ〜」

お茶が準備出来るやいなや、もう1人の女の子が

「水島さん、早く開けて開けて!」

と、待ちきれない様に僕を突っつく。

「はいはい」

僕がみんなの前でコルネの入った箱を開けると一斉に

「わぁ〜!」

と声が上がった。

見るからにサクサクのパイ生地の両端から、たっぷりと詰められたクリームが覗いている。

上にかけられた粉糖の白さがまた、すごく綺麗でテンションが上がる。

そして、手を汚さず食べられるようにコルネに巻かれているカラフルなペーパーは、一眼で中のクリームの味がわかる様になっている。

ピンクはイチゴ、黄色はレモン、グリーンは抹茶…といった具合だ。

この細やかな気遣いにもちょっと感動しつつ、僕はまずイチゴクリームのコルネにパクリとかじりついた。

サックサクのパイ生地から溢れ出すクリーム

「んっ!これちゃんと生のイチゴ使ってる!」

思わず声が出た。

人口の香料では出せない、本物のイチゴの甘酸っぱい香りが口一杯に広がる。

時折イチゴの種が舌に触るのも、本物を使っている証拠だ。

レモンも抹茶も自然の素材の香りがして、本当に美味しかった。

これは、コルネ以外も絶対美味しいに決まってる!

僕は、ラパンちゃんにぶっ殺す!と言われたことも忘れて、今度は何を買いに行こうかな?とワクワクしていた。


すっかりpatisserie fleurのファンになった僕は、週末また別のスイーツを求めて店を訪れた。

色とりどりのプチフールや見た目にも豪華なホールケーキ等の他に、何だか僕がふと気になったのは、素朴な昔からあるスタイルのシュークリームだった。

ザクザクのシューが流行っている今時、昔ながらのホワンとしたタイプはあまり見かけなくなったのに、ちょっと珍しい。

だけど、僕は俄然こっちの方が好きだ。

今日は絶対これにしよう!

早速、カスタードと生クリームのミックス、チョコ、イチゴの3種類を注文した。

今日はラパンちゃんは出て来ないのかな…

チラッと奥の厨房の方に目をやって、ギョッとした。

スイングドアの隙間から顔が半分覗いていて、じっとこちらを睨んでいたのだ。

げっ!!あれラパンちゃんか?

こっわ〜こっち見てるよ〜

すっげぇ怒ってんなぁ…とっとと帰ろうっと!

僕はシュークリームを受け取ると、急いで店を出た。


車に乗り込もうとしたその時、僕の後ろで声がした。

「ちょっと!何なの?私を脅そうって言うの?何が狙いなのよ!!」

きっとラパンちゃんだ。

ビビって振り向けずにいる僕に追い討ちをかけるように

「何とか言いなさいよ!もう2度と来ないって約束しないと、警察呼ぶわよ」

もう、超お怒りだ。

「ご…ご…誤解だよ!僕はただ、君の作ったお菓子のファンになっただけだってば!」

僕は、慌てて振り向いた。

「へ?そうなの?」

拍子抜けした顔でそう言ったラパンちゃんの手には、めん棒が握られていた。

「おいおい、物騒だなぁwそれでぶん殴ろうとしてたの?」

「あっ!いや、コレは……痛ったぁ!!」

慌てて後ろに隠そうとした拍子に、自分をぶん殴って身悶えしているラパンちゃんを見て

「ぶっ!ははははは!!!!」

堪えきれず爆笑してしまった。

「僕、水島洸太って言います。君の作るお菓子にハマっちゃったんで、これからもお店に来る事、許してもらえますか?」

「あっ!はい!もちろんです!ごめんなさい、私てっきりあの事をネタに強請ゆすられるのかと勘違いしちゃってw」

顔を赤くしてラパンちゃんが言った。

「酷いなぁ、僕そんな悪い顔してるかなぁ」

と、僕はポリポリと頭を掻いたが、

ごめん!内緒だけど君をおかずにしてた僕は、決して清廉潔白とは言えない!

と、心の中で彼女に土下座していた。


誤解が解け、ホッとした僕は更に彼女の事を知りたくなり

「あの、名前聞いても?」

と、おずおずと尋ねた。

穂積稀恵梨ほづみきえりです!まれに恵まれる梨って書きます!変な名前でしょ?」

って言ってる割には、どや顔だ。

「変だとは思わないけど、今まで会った事ない名前だね、でも一回聞いたら忘れないや」

僕の言葉に、彼女は更に嬉しそうに

「お爺ちゃんが付けてくれたんです、お爺ちゃんちょっと変わり者でww」

と、自慢げにニヤリと笑った。

そして

「いつまでもサボってたらおこられちゃう!じゃ、私行きますね!」

そう言いながら店の裏手に歩き出した。

僕は、彼女とまだ話していたいという名残惜しさもあって、引き留めるようにこう言った。

「え?君がオーナーじゃないの?」

「やだw私はまだまだペーペーですよwコルネとシュークリームは私が作ったんですけどね!」

彼女はそう言いながら、少しニヤけている。

「そうなのか、じゃあ君のシュークリーム、じっくり堪能させてもらうよ」

「はい!また是非いらして下さいね」

軽く手を挙げて仕事に戻る彼女を見送り、僕はかなりニヤニヤしていたに違いない。

何しろ、数日前までは、ぶっ殺す!とまで言われるほど敵視されていたんだ。

それが今日、一気に彼女との距離が縮まった気がする。

このまま、もっと仲良くなれないかなぁ。

いつの間にか僕は、彼女とのデートまで想像して、更にニヤニヤしていた。


家に帰り、早速シュークリームの箱を開ける。

この手のシュークリームは、食べる時にちょっとした工夫が必要だ。

シュー生地の横の辺りから中にクリームを詰めるための穴があるのだ。

これをちゃんと探しておかないと、かぶりついた瞬間その穴からクリームがブニュっと出てしまう。

クリームの穴を見つけると、僕は慎重にそこからかぶりついた。

「ふ…んん!うんま〜!」

カスタードミックスは、どうやったのかカスタードと生クリームが上下で綺麗な層になっていた。

それぞれのクリームの量も、もったりし過ぎない絶妙なバランスだ。

これ、すんごい好きだな…

幸せな気分で、チョコのシュークリームを手に取り、これもまた穴を探してから、ハムっとかじりつく。

チョコレートが多すぎないフワッシュワのガナッシュクリームが口一杯に広がった。

おっほ!これも好きだ〜

最後のイチゴクリームのは、こないだ食べたコルネ同様、やはり生のイチゴを使っている。

あっという間にぺろっと完食してしまった僕は、これはヤバいな…と思った。

何故って、通い詰めたら確実に太ってしまうからだ。

だが、この美味しさと、稀恵梨ちゃんに会いたい気持ちに抗うことなんて僕には出来ない。

悩んだ末に、僕は近くのジムをネットで検索し始めていた。


週に1度、稀恵梨ちゃんに会うために…もとい…

美味しいスイーツを買うために、心ならずもpatisserie fleurに通う形になってしまった(内心は喜んで…ではあるが)僕は、火・木・土と週3回のジム通いも始め、なんだか急に忙しくなった。

しかし、始めてみれば悪くないもので、会社帰りにガンガン身体を動かすとぐっすり眠れる様になった。

おまけに、人間というのは実に単純に出来ていて、ジムに通っているってだけで甘いものを食べる罪悪感はゼロになるもんだから、食べている時の幸福感だけが記憶に残る。

これで、プヨっとし始めたお腹も格好良く引き締まるかな?という期待も手伝い、僕は毎日ご機嫌だった。

しかも、男ってのは更に単純なもので、ジム帰りはアイアンマンやMr.インクレディブルにでもなった様な気になる。

土曜のジム帰りは、毎回そりゃもうスーパーヒーローの様な気分でpatisserie fleurへと車を走らせていた。


今日も会社帰りにジムへ。

今ジムでも、例のウイルス対策のため、利用者の人数をかなり制限してしている。

平日の夕方とあって、僕以外に2〜3人の姿しか無かった。

まずはウォームアップだな…

いつもの様にランニングマシンで軽く走り始めた時、1人の男性が僕と同じ様に走り始めた。

ビジター会員なのか、今まで見かけた事の無い男性だったが、その人は、ジムに通う必要があるか?という位引き締まった身体をしていて、男の僕から見てもかなり格好良かった。

お!あんな感じに締まった身体になるまで、僕も頑張らなきゃ!

この時の僕はまだ、その人が僕の人生を変える事になるなんて、思ってもなかった。


このところ、毎週土曜のジム帰りからのpatisserie fleurが、すっかり習慣になっている。

根っからの甘い物好きが高じて、お菓子作りの材料にやたら詳しくなってしまった僕が

「このガトーショコラは、クーベルチュール使ってるの?」とか

「おっ!さくらんぼの季節だね〜♪やっぱり佐藤錦?」

とか

マニアックな質問をしていたせいで、稀恵梨ちゃんとはかなり親しくなった。

僕が興味津々で色々聞くと、稀恵梨ちゃんはいつも

「そうなんです!これなんて、オーナーが直接現地に買い付けに行ってるんですよ!

 オーナーの舌は超一流なんです!」

と、まるで自分が褒められた様に嬉しげだった。

そんな稀恵梨ちゃんを可愛いなぁと思う反面、めちゃくちゃ尊敬されてるオーナーさんに、ちょっぴりジェラシーを感じるのは否めない。

僕は、稀恵梨ちゃんと話したいばっかりに、ますますお菓子について勉強する様になった。


数ヶ月経ったある土曜の午後、いつもの様にpatisserie fleurへ…

ショーケースを覗き込んで悩んでいる僕に、奥から顔を出して来た稀恵梨ちゃんが

「あっ!水島さん待ってたんですよ」

と、声をかけて来た。

「なになに?何かあったの?」

と聞くと、稀恵梨ちゃんはいきなり顔を寄せて来て

「今、新作を考えてるんですが、水島さんに試食頼みたくて…」

と、ヒソヒソ声で言った。

驚いた僕は

「え?僕で良いの?」

と、思わず大きな声が出た。

「シーッ!納得いくヤツが出来たら、オーナーにテストしてもらうんです!私も一人前になったって、早く認めてもらわなくちゃですから」

「あ…つまり、毒味ってとこか…」

「ま、そんなとこです」

稀恵梨ちゃんは、いたずらっ子の様に、ニヤリと笑いながら、更に声をひそめてこう続ける。

「今日はオーナーが居るんで、バレない様に、詳しい話はまた後で電話しても良いですか?」

そして

「デ・ン・ワ!カ・イ・テ!」

と、変なブロックサイン付きで僕にメモ用紙とペンを差し出して来た。

僕は、必死で笑いを堪えながら、携帯の番号をメモし、稀恵梨ちゃんに渡した。

僕としては思わぬ出来事に戸惑いつつも、内心ではラッキー♪と思わざるを得ない。

僕は、思わずスキップしたくなるのをグッと我慢して店を出た。


夜になり、落ち着かない気持ちで稀恵梨ちゃんからの電話を待っていると、携帯の着信が鳴った。

未登録の番号…きっと稀恵梨ちゃんからだ!

僕は、5秒待ってから大きく深呼吸して電話に出た。

「もしもし」

「こんばんは、稀恵梨です」

「あぁ、稀恵梨ちゃんか、こんばんは」

まるですっかり忘れていた…と言わんばかりに返事をする。

本当は帰ってからずっと携帯握って離せなかったのに、男ってマジどうしようもない天邪鬼だなぁ…と我ながら可笑しくなった。

「水島さん、いきなり無理なお願いしちゃってすみません」

「いやいや、逆に僕で役に立てるのかなって心配なんだけど」

「めちゃくちゃ頼りにしてますよ!水島さんお菓子についてとっても詳しいし、オーナー程じゃないけど舌も信用出来るし!」

「わははは!褒められてる気しないんだけどw」

「褒めてます褒めてますっ!」

慌てて稀恵梨ちゃんがフォローする。

「で、僕は稀恵梨ちゃんの試作品を食べて感想を言えば良いのかな?」

「はい!毎週土曜、水島さんがお店に来てくださるのに合わせて一品作ります、お買い上げ頂いた品と一緒にこっそりお渡しするんで、是非厳しく評価して下さい」

「僕は構わないけど、そんなハイペースで大丈夫?」

「大丈夫です、もうアイデア一杯でうずうずしてるんです」

いつものちょっと自慢げなニヤリ顔が目に浮かぶ。

「そっか、それは良いとして、オーナーにはバレないの?」

「はい、オーナーは材料の買い付けに行ったり、生産者さんに会いに行ったりしてて、留守の事が多いですから」

なるほど、だから顔見た事無いんだな…

「分かった、役に立てるかどうか自信ないけど、精一杯頑張ります」

「やだw頑張るのは私の方ですw」

「あ!そうかwじゃあ来週、期待して待ってるよ」

「はい、期待してて下さい」

「大した自信だなぁw」

「毒味は散々自分でやりましたからねw」

「わはは!ごめんごめん、あれはほんの冗談で…」

「分かってますwじゃあ、土曜、よろしくお願いします」

「うん、じゃあ」


電話を切った後僕は、しみじみとさっきまでのやり取りを思い出していた。

僕ってやっぱ、明るくて元気で、ちょっと変わってる子が好きなんだなぁ…

と、自分の好みを再認識したりなんかして。

まぁ、稀恵梨ちゃんからは恋愛対象としてなんか、絶対に見られてないはずだけど…

それでも、誰かを好きだって思えるだけで、こんなにウキウキするんだな〜

これで自分の性癖も全部告白出来て分かり合えたら、もう死んでも良いな〜

なんて、叶うことのない未来を想像していた。

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