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ネームレスエピック  作者: 治田治
第0章 流星光底の簒奪者 (りゅうせいこうていのユーサーパー)
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幕間 『決戦前―独白―』

――人生は、切り捨てるという行為(こうい)の連続。何かを選択する時に必ず何かを切り捨てる。

――そして私は、切り捨てるという行為に関して、他人よりも上手だった。



 私には、自分にとっての向き不向き、ある物事を()()げるまでに自分が行うべき最適な筋道と、必要な期間が理解できた。


 どうしてそんなことが分かるんだ?


 そんなことを聞かれたこともあったけれど、これは生まれ持った性格みたいなもので、うまく説明できたことは無い。


 初めてこの性質を経験したのは四歳の頃。縄跳びで遊んでいた時のことだった。


 二重飛びに挑戦してみようとしたその瞬間、三日間練習すれば二重跳びができるようになるということが分かった。

 そして、自分の頭の中に浮かんだ筋道の通りに練習をしたら、本当に三日後に二重跳びができていた。


 こんなことが何度も続けば、自分は()()()()()()だと(いや)が応でも自覚に至る。


 時には他の子達とは違う方法で努力を行い、幼稚園の先生から不思議がられることもあったが、まあそれなりに過ごしてきた。


 転機が訪れたのは五歳の時、爺様(じいさま)から刀を握らせてもらった時だった。



 あの時。

 刀を握ったあの時。――あの瞬間。



 私は、剣を振るうために生まれてきたのだと錯覚(さっかく)する程に、始めるべき訓練の内容と、十年後に最強になることが可能であると言う確信が雪崩(なだれ)のように流れ込んできた。


 あれほど心が踊った出来事は、私の十五年の人生で恐らく存在しない。


 そこから今日に至るまで、剣を握らなかった日は一日たりとも無い。


 私がどうあがいても『乙式(おつしき)』と『朱式(しゅしき)』を習得することが不可能だと分かった瞬間も、即座(そくざ)にそれらを切り捨てた。切り捨てられた。


 そして、透間流武器術の基本でしかない『甲式(こうしき)』のみを十年間、ただひたすらに(きた)え上げた。


 それでも『最強』になるためには正しい道筋だと、私の『確信』は問題なく告げていた。


 他の人間から自分の修業を理解されないことも。


 『透間の徒花』と陰口を叩かれたことも。


 そんな私を不憫(ふびん)に思った両親と爺様の計らいで、透間本家を離れこの場所に引っ越したことも。


 私にとっては必要なことを、他の人は理解していないだけ。


 私が切り捨てるべきものは、他の人とは違うだけ。


 そう思うだけで、特に心に波風が立つようなことは無かった。


 不可能を切り捨て、切り捨て、切り捨て、切り捨て。切り捨てに切り捨てた。


 そうして己にとって最適な修行を極めていたら、いつの間にか十年の月日が流れていた。


 私のこの性質は()()まされていき、戦いのみに限定されるが、自分以外の存在であってもどちらが勝つ可能性が高いのか分かるようになっていた。


 中でも、その人、もしくはその存在にとって勝つことが不可能な戦いに関しては、絶対に外したことは無かった。


 そうやって研鑽(けんさん)し、育まれてきた私の中の『確信』は、今まで行ってきたことは間違っていないと告げている。


 でもここにきて、努力の方向性が分からなくなることが続いた。


 私の中の期限(リミット)が来ているにも関わらず、自分が最強になれたという確信が持てなかった。


 それから続いた迷いの日々の中で、初任務の日が訪れ――



――その存在は、私の前に現れた。



 世界を殺し尽くす力『殺害(サイド)』の原典を覚醒させた窮迫事象(エポス・フィーニス)

――窮迫Ⅰ(フィニス・ワン) 〝鏖殺事象(スローター)〟 フェンリル。




 対峙(たいじ)したとき、思わず硬直してしまった。


 あの時私が動けなかったのは、衝撃を受けたからだ。


 私が最強になれなかったのは、この狼が最強だからなんだ、と。


 努力の方向性が分からなかったのは、必要な努力は終了していたから。


 私が最強になるための最後のピース。


 それは、この狼を倒すことだったんだ。


 作戦会議の時に、この狼に対して時間稼ぎの策があるなんて言ったのは嘘だ。


 私の中の勝敗の天秤(てんびん)は完全に拮抗(きっこう)していて、勝てるかどうかは全く不明。


 でも、誰にもこのフェンリルを横取りされたくなかった。


 負ければ死あるのみ。


 それでも私は、早く戦いたいという気持ちを抑えることができなかった。



「――なんて、益体(やくたい)もないことを考えてたら、到着してしまったね」



 ブリックビル内を歩いているうちに、どうやら目的地に着いたようだ。


 目の前にいるのは濃密な死の気配を(まと)った銀の魔狼。


 思考を現実に引き戻し、私はフェンリルと対峙(たいじ)する。


「君と戦うことを心待ちにしていたよ。私の十年間の証明になってくれるかい?」


 待宵月(まちよいづき)だけが見つめる城下、私の人生の答え合わせが、今始まる。



――人生は、切り捨てるという行為の連続。

 振り返ってみると私の後ろには、切り捨てられた『不可能』が無数に散らばっていた――

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